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紅葉は五感で楽しむのが王道! 木々の色どりは日々表情を変えています


木の葉が色を変える、一本の木でも葉によって色の変化はそれぞれ微妙に違っているようです。同じように見えても一つとして同じ色はないのでしょう。バリエーションの豊かさに秋の美しさがあるように思われます。紅く染まる紅葉、黄色に変化する黄葉、そして、ちょっと濃いめの枯れたような茶色も穏やかな青空には美しく映ります。少し離れて見れば彩られた山の景観は紅葉の錦。秋の深まりの美しさは正にここにあるようです。さあ「もみぢ」を楽しみに行きましょう。


「紅葉狩り」は秋ならではのお楽しみ!

秋の彩りを訪ねて山野へとおもむき、紅葉の美しさを楽しむ遊びが「紅葉狩り」です。春のお花見と同じように古くから日本人が親しんできた、自然の中に入って自然を愛でる行楽のひとつです。
木々の葉を赤くしたり黄色くしたりするためには晩秋の寒さや霜が欠かせません。深まる寒さには冬へとむかう寂しさを感じますが、また色づく樹木の華やかさには心踊るときめきがあります。それは中世の和歌にも多く詠まれてきました。

〈ちはやぶる神代も聞かず龍田川からくれないに水くくるとは〉在原業平

百人一首でおなじみですね。作者の在原業平は『伊勢物語』の主人公としても有名な、美男子の誉れ高い歌人です。この歌では「もみぢ」ということばはありませんが、その代わりに「からくれない」が使われています。荒ぶる神々が活躍した太古の昔でさえ、このように美しい光景は見たことも聞いたこともありません、と秋の光の中に流れる龍田川を紅の絞り染めが施された布に見立て、もみじの美しさをたたえています。

秋の彩りの美しさは目に映る情景や耳に聞こえる水音、川風の鮮烈な空気となって五感に響きます。この感覚は昔も今も変わらないもの。秋の深まりのなかで野山の色づきが気になってしかたがない現代の私たち、体内に宿るのは日本人の美意識のDNAといえるかもしれません。


「もみぢ」って葉っぱが紅くなることですが…?

「もみぢ」は楓の紅く色づくようすが赤く染めた絹「紅絹(もみ)によく似ていることから」ともいわれています。秋になり木の葉が色づくことだけでなく、色づいた葉も指すようになりました。ですから紅くなる紅葉も黄色くなる黄葉も同じ「もみぢ」と表現されています。

それでも木々により「もみぢ」の違いは気になるところです。桜紅葉、柿紅葉、銀杏黄葉といった木の名前を付けた「名木(なのき)紅葉」や、野山に多くある木々を総称して「雑木紅葉」という言い方も出て、「もみぢ」の楽しみは大いに幅が広がったようです。

〈早咲の得手を桜の紅葉かな〉丈草

ひんやりとした秋の気配をいち早く感じて紅葉が始まるのが桜だとか。桜の葉はそうじて薄く感じます。紅や黄、褐色と色もまじって「もみぢ」し、他の木々に先がけて散るさまには秋の風情を感じます。

〈おおかたは雑木紅葉のいろは坂〉佐々木咲子

〈全山のもみぢ促す滝の音〉山内遊糸

大きな景色をパッと一瞬に描けるのが「もみぢ」の力のような気がしませんか? 紅や黄色そして緑も残る色とりどりの山をうねって登る坂と、その奥から聞こえてくる落水の音を想像すると、秋の豊かさが広がります。

〈自動ドア開きひらりと黄葉入る〉小池尹子

街中にいればこんなこともよく起きます。アスファルトの上に落ちる葉は時としてうっとうしく邪魔でしかないと思いがちですが、ひと葉が舞う姿には趣を感じてしまいます。「もみぢ」は秋の深まりとともにやってきます。忙しさにかまけてうっかり見過ごさないように、身近な木々に目を配ってみてはいかがですか。


風に吹かれていった落ち葉が作る趣向もまた一興!

色づく木の葉はやがて散りゆくもの。

〈山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬもみぢなりけり〉春道列樹

山の中で偶然に見かけたのは、風に吹きためられた川の中の紅葉。まるで流れをせき止めるために作ったしがらみのようだ、と自然が作り出した風流を一首にしたためています。こちらも百人一首でよく知られた歌です。

風に吹かれれば枝から離れて地に落ち、雨に濡れ、踏みしだかれてやがて朽ち果てていく運命です。それでも「もみぢした葉」は鮮やかな色を持って飛び散り、風にしたがい舞い降りた場所で色とりどりの「もみぢ葉」たちと競演します。自然が織りなす妙趣は私たちの心を安らかにし、楽しませてくれます。

「吹き寄せ」は風などでさまざまな物が吹き集められることをいいますが、種々の物を寄せ集める取り合わせの楽しみを表すことばにもなっています。お料理やお菓子など種類を多く、少しずつ楽しみたい日本人の心の現れかもしれません。

色の違う木の葉を何枚か探しに行ってみませんか?「きれいだな」と感じたものを集めてきたら、お気に入りのお盆やお皿に敷きならべて彩りを楽しむのはいかがでしょう。紅葉狩りには出かけられなくとも、我が家でささやかですが、晩秋の風雅な味わいにひたることができそうですよ。


参考:
『百人一首』田辺聖子監修 メモリーズ(学研プラス)
『角川俳句大歳時記』(角川学芸出版)

秋の行楽弁当 吹き寄せのお重

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