starthome-logo 無料ゲーム
starthome-logo

友人と飲むか、ひとりで飲むか ── お酒の言葉あれこれ


「秋の夜長」という言葉の通り、秋は夜が長く感じられて、食べ物もお酒も一層おいしく感じられる季節です。朝晩の気温が下がるこの時季に少し厚めの上着をはおって、美味しい食べ物と飲み物を堪能しつつ、漆黒の闇を照らすたき火の炎を見つめながら静かに時を過ごす……。そんな「秋キャンパー」が最近増えてきているようです。それはきっと、酷暑下でのキャンプより、秋のキャンプのほうが風情を感じられるからかもしれません。

親しい友人たちとワイワイ飲むのもよし。ひとりでじっくりと飲みながら秋の夜長を楽しむのもよし。今回は、秋のものばかりではありませんが、お酒にまつわる言葉、そして詩歌を紹介しましょう。


「さけ」という言葉の語源

もともと酒は、人が米を噛んで発酵させて作り出したものです。麹菌による発酵は、朝鮮半島から伝えられたものとされますが、奈良時代には一般化していたようです。「さけ」の語源にはさまざまに説があり、

【1】シルケ(汁食)が転じたもの。上代、酒は濁酒であったので食物に属した。また、サは発語、ケはキ(酒)か。

【2】米を醸してスマ(清)したケ(食)の意で、スミケ(清食)の意味か。

【3】おもに神さまに供える目的で調進せられたものであるところから、サケ(栄饌)の意味があるか。

などの説があります。

「酒の司(クシノカミ)」という言葉のように酒の異名には「クシ」があり、これは酒を飲むと酔うことを別の世界に飛翔することと感じて「奇(く)し」と表現したものです。そのことから、酒は本来神々に関係した飲み物とされてきました。神道の儀式では、今でも酒が重んじられます。

「万葉集」にはこのような歌もあります。

〈君がため 醸(か)みし待酒 安(まちざけやす)の野に 独(ひと)りや飲まむ 友無(ともな)しにして〉

この歌は、民部卿となって大宰府から都へ帰る大弐丹比県守(だいにたぢひのあがたもり)に、大宰師の大伴旅人(おほとものたびと)が贈った一首で、別れの宴に際して友人が都へ帰ってゆく寂しさを詠っています。「君のためにと作って来たもてなしのお酒を安の野に私は一人で飲むのだろうか。友もいなくなって」という意味でしょうか。

また、いつもならば訪れてくる友人のために準備するお酒なのに、という一説には神をお迎えする、というニュアンスも含まれているようです。

紅葉に包まれる太宰府天満宮

紅葉に包まれる太宰府天満宮


秋の夜長に汲む酒 ── 憂いを払う玉箒(たまぼうき)

なお、この大伴旅人には、「讃酒歌」13首があり、

〈験(しるし)なき 物を思はずは 一坏(ひとつき)の 濁れる酒を 飲むべくあらし〉

くよくよ物思いをするより、一杯の濁り酒を飲むほうがましだろう……という意味。酒を飲むことで悲しみから逃れるという主題は、中国・唐代の漢詩の影響が強いと考えられます。

平安時代になっても酒は宴に必要なもので、「源氏物語」にも宴でお酒を飲む場面がさかんに描かれますが、不思議なことに平安時代の和歌には飲酒自体はほとんど詠まれません。

後の時代には、酒はやはり悲しみを忘れようとする、「憂いを払う」ものとして詠まれることが多いようです。

居酒屋の屋号などにも使われる「玉箒」という言葉は「さけは憂(うれ)いの玉箒(たまははき・たまぼうき)」という言い方は、中国の詩人・蘇軾の句から来ています。「応(まさ)に詩を釣る鉤(こう)と呼び 亦(また)愁いを掃ふ帚と号すべし」と詠われます(「洞庭の春色」)。

つまり、お酒は詩を作るためにも、悲しみを振り払うほうきとしてもある、というわけです。

若山牧水が詠ったお酒をテーマにした短歌は有名でしょう。

そして佐藤春夫の詩の一節にはお酒は登場しませんが、この主人公はやはりお酒を飲んでいたのではないでしょうか。

〈白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり〉若山牧水

〈酒やめてかはりになにかたのしめといふ医者がつらに鼻あぐらかけり〉若山牧水

〈ちんちろり男ばかりの酒の夜をあれちんちろり鳴きいづるかな〉若山牧水

〈…さんま、さんま/さんま苦いか塩つぱいか/そが上に熱き涙をしたたらせてさんまを食ふはいづこの里のならひぞや…〉佐藤春夫

俳句の酒はどことなく内省的です。

〈旅憂しと歯にしみけり新走(しんばしり または あらばしり)〉宇田零雨

〈酒の香のするこの静かな町を通る〉橋本夢道

〈酒止めようかどの本能と遊ぼうか〉金子兜太

きたる11月15日(木曜)には、ボジョレーヌーボーが解禁になります。毎年楽しみにされている方も多いと思いますが、大勢で楽しむにしろ、悲しみを忘れようとするにしろ、秋の夜長を楽しむにしろ、飲み過ぎには注意したいものですね。

    Loading...
    アクセスランキング
    game_banner
    Starthome

    StartHomeカテゴリー

    Copyright 2024
    ©KINGSOFT JAPAN INC. ALL RIGHTS RESERVED.