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夜咄の灯あかり軒の雪あかり:俳句歳時記を楽しむ


寒さ極まる中、仕事も用事も早々に切り上げて家路に戻りたい今日この頃ですね。とはいえ長い冬の夜、できれば家族や気のおけない仲間と、寛いだ時間を過ごしたいもの。今日はそんな気分の季語「夜咄(よばなし)」をご紹介しましょう。


夜咄の一会に揺るる影法師

夜咄とは、狭義では茶道で12月から3月ごろまでに行われる「夜咄茶事」のこと。茶事とは、席入りから懐石料理、お菓子、濃茶、薄茶までの一連の流れを指す、いわばおもてなしのフルコースです。夜咄茶事は、日没後にはじまり、蝋燭の灯りでゆったりと行うというルールがあります。冷える夜長の季節に、温められた部屋の揺らめく光の中で行う茶事は、まさに幽玄の世界。そんな時間を表現した句には、やはり趣深い余韻があります。



・夜咄の庵(いほり)裏(つつ)みし靄ならむ      瀧井孝作 ※1

・夜咄の灯あかり軒の雪あかり            古賀まり子※2

・夜咄の障子を水のしろさとも            上村占魚※3

・夜咄や秀衡塗(ひでひらぬり)に顔寄せて      峰尾北兎※2

・夜咄の一会に揺るる影法師              山崎久美江※2



秀衡塗の句は、奥州藤原氏発祥の漆塗りと金箔による器を鑑賞するにも、暗いので顔を寄せて懸命に目を凝らすさま、そして蝋燭のうす灯りに浮かぶ名品を表現した、茶の湯ならではの描写です。そして影法師の句も、茶道の基本「一期一会」を、蝋燭の中で揺れる人影が交流する場として描いていますね。


夜咄は重慶爆撃寝るとする

一方、季語としての夜咄は、冬の夜炉端でくつろぎながら話に興ずることも意味し、「炉辺話」とも同義です。夜の長い冬ならではのお愉しみで、まさに万事ゆったりと楽しむことを前提とした夜咄茶事に通じますね。



・炉話の百貫目とは牛のこと        後藤綾子 ※1

・夜咄は重慶爆撃寝るとする        鈴木六林男※2



百貫目の句は、炉辺の気軽なお喋りの中で話がだんだん大きくなる、百貫目とは何か、それは牛のことだ、というユーモラスな内容のようです。鈴木六林男は、出征体験ののち、戦争句、社会性俳句で注目された俳人。重慶爆撃の句は、懇親旅行の宿でしょうか、先輩もしくは同僚のいささか尾ひれがついた戦時の手柄話にうんざりして、さっさと寝てしまう。のんびりした季語を用いながら強い思いを表した、まさに現代句です。


夜咄や信太の狐こつと寐ね

夜咄の句には、狐や狸が登場する季重なりのものも散見されます。また、夜咄茶事でも、これらの動物をモチーフにした道具も用いられます。つい話に花が咲いた上に千鳥足になった深夜の帰宅で、狸や狐に化かされないように、との意味もあるのでしょう。



・夜咄のなべて貉(むじな)と狐狸(こり)のこと        品川圭介※2

・夜咄や信太(しのだ)の狐こつと寐(い)ね          岡井省二※3



信太は、今の大阪府和泉市にあった信太村。信太の狐といえば、伝説で安倍晴明の母とされている狐、「葛の葉」を意味します。五七五の中で、冬の夜から一気に時を遡る世界を描くことができるのですから、俳句とは奥深い世界ですね。ちなみにこの伝説をもとに作られたのが、人形浄瑠璃および歌舞伎の『蘆屋道満大内鑑』(あしやどうまんおおうちかがみ)。

夜咄茶事は、ぜひ体験をお勧めしたい行事です。また正式な茶の湯ではなくても、香り高い飲み物を薄明りの中で味わってみてはいかがでしょう。蝋燭がなくとも、揺らめく光を放つ機器は数多くあります。仄かな灯りの中での夜咄は、五感が研ぎ澄まされた、格別な時間となることでしょう。



<引用と参考文献>

※1 読んでわかる俳句 日本の歳時記 冬・新年(小学館)

※2 カラー版 新日本大歳時記 冬(講談社)

※3 カラー図説 日本大歳時記 (冬)(講談社)

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