世界初、シロアリの翅の表面構造を再現
学校法人 龍谷大学
国立大学法人 旭川医科大学
国立研究開発法人 理化学研究所
学校法人 東京薬科大学
世界初、空気中の霧から水をつくる
シロアリの翅(はね)の表面構造を再現
科学雑誌の権威「Nature」の姉妹誌「Comms. Chem.」 誌に論文掲載
龍谷大学理工学部物質化学科 内田欣吾 教授ら
【本件のポイント】
●龍谷大学理工学部物質化学科の内田欣吾研究室は、独自技術を用い、シロアリの翅(はね)の表面構造を再現することに世界で初めて成功
●シロアリの翅は、空気中の小さな霧粒をキャッチし水滴をつくる一方で、大きな水滴は弾くという特性があり、今後は、この技術を応用し、空気中の霧から水滴を集めるといった実用化が期待される
●本研究の成果は、Natureの姉妹誌Comms. Chem. 誌に掲載予定であり、Natureを発行しているシュプリンガー・ネイチャー社からもリリースされる予定
内田研究室では、二種類のジアリールエテン分子を混合した結晶膜に光を当てることで、シロアリの翅が示す二重濡れ性を再現した結晶表面を開発しました。オーストラリア原産のNasutitermes sp.という種類のシロアリは、天敵から身を守るためにあえて雨季に新しいコロニーへと飛び立ちます。そのため、その翅は水を効率的に弾かなければいけないので、大きな水滴を弾き、小さな水滴は集めてある大きさにし、羽ばたきによって表面から放出させるという特異的なシステムを有しています。そこで、そのシロアリの翅の表面構造に注目しました。
光を照射すると可逆的に色が変化する「フォトクロミック分子」を二種類混合し、このシロアリの翅の構造を再現すべく結晶膜を作成しました。混合前の単独の分子によって形成された表面に紫外光を照射すると、どのような表面になるか分かっていたので、混ぜることでシロアリの翅の構造が再現できそうという予想はありました。実際に、紫外光を照射するとフォトクロミック反応を起こし、二種類の異なる大きさの結晶(大きい結晶は高さ約16 μm(=マイクロメートル=1 mmの千分の一)幅約1.5 μm、小さい結晶は高さ約1.9 μm、幅約0.2 μm)が表面上に並んだ結晶膜が作製できました。この表面構造は、予想通りシロアリの翅の表面構造と非常に類似していたのです。
この表面は超撥水性を有しています。一般的に撥水性材料は水を弾く機能です。しかし、シロアリは一般的には除去しにくい小さな水滴を集めて除く機能をもつことにより自然界で生き残っています。そこで、作成した表面に霧吹きで小さな水滴を吹きかけると、直径が約100 μm以下の水滴は吸着し、それ以上の水滴を弾きました。これらの水滴のサイズは、それぞれ霧、雨滴のサイズと一致しており、構造を真似ることでシロアリが示す大きな水滴を弾き、小さな水滴を集める機能を再現することに成功しました。この研究により、自然界のしくみが一つ明らかになりました。このような表面は、名古屋セントレア空港の窓材のように人が介在することなく表面をきれいに保つセルフクリーニング材料に利用できるだけでなく、空気中の霧から水滴を捕集できる材料、水滴を保持できる機能材料としての応用も期待されます。
■発表論文について
英文タイトル:Dual wettability on diarylethene microcrystalline surface mimicking a termite wing
和訳: シロアリの翅を模倣したジアリールエテン微結晶表面の二重濡れ性
掲載誌:Communications Chemistry, 2019, in press. (コミュニケーションズ ケミストリー)掲載予定
著者:内田 欣吾 (龍谷大学理工学部物質化学科・教授) 他
共同研究者:旭川医科大学 眞山博幸 博士、理化学研究所 中村振一郎 博士、東京薬科大 横島 智 教授
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