NANO MRNA Research Memo(2):創薬バイオベンチャーとして必要とされる形に進化・成長
1. 会社沿革
NANO MRNA<4571>は、ナノキャリア株式会社として1996年に設立されたベンチャー企業である。2000年に研究所を設置し、低分子抗がん剤のDDS製剤の実用化を目指して本格的に研究活動が開始され、2008年3月東京証券取引所マザーズ市場への株式上場を果たした。しかしながら、2022年、早期収益化を期待した導入品及び自社品の相次ぐ後期臨床開発中止に伴い、実質ゼロベースからビジネスモデルの再構築を図ることとなった。
2023年1月、同社は「mRNA医薬」の創薬に特化したベンチャーとして、新たなスタートを切った。国内では開発経験を持つ企業が数少ないmRNA医薬の創薬に注力し、高リスクの後期臨床開発は行わないmRNA医薬のIP Generator企業としての再出発である。同社は、IP Generatorモデルを推進するにあたり、アクセリードグループ企業及び(株)IPガイアとの提携により、mRNA医薬の創薬におけるmRNAの最適化、薬効評価などの創薬初期ステージから、事業開発まで一貫して実施できる体制を構築し、6月には事業内容に沿ったNANO MRNA株式会社に社名を変更した。2023年11月には花王とmRNA医薬の創薬に関する共同研究を開始するなど、既に新たなビジネスを活発に進めている。
2. 事業概要
国内ではmRNAを用いた治療薬の開発を手掛けている企業は非常に少なく、同社は国内パイオニアとしてmRNA医薬の創薬を事業の柱に据える。mRNA医薬に関するアイディアや技術を持つ産・学との共同研究を積極的に推進し、新たなmRNA医薬の開発候補品を次々と創出し、臨床試験に入るためのパッケージを提供できるIP取得を速やかに行う。そして、原則自社で臨床試験を実施せず、非臨床ステージでグローバル製薬企業などへライセンスアウトし早期の収益化を目指す。
同社はmRNA医薬パイプラインのフラッグシップとして、mRNA RUNX1の開発に取り組んでおり、ワクチンだけではなく、医薬品としての開発にいち早く乗り出している。変形性膝関節症の組織再生医薬として医師主導治験を開始する準備が進んでおり、既に非臨床開発の最終段階にある。新たな可能性を秘めたモダリティ(治療法)技術であるmRNAを用いることで、既存技術では治療できない疾患に対する根本的な治療法を提供できると期待される。
提携やM&Aについては、mRNA医薬の技術基盤の拡充を目的に積極的に進める方針である。mRNA医薬の開発パートナーであるアクセリードグループ企業との協業やその幅広いネットワークの活用とともに、共同研究開発など、企業やアカデミアとのオープンイノベーションによる多様な革新的技術を取り込むことで、mRNA医薬創薬事業の推進と拡大を進めていく。
3. 特徴と強み
2020年、COVID-19パンデミックに対するmRNAワクチンによって開拓されたmRNA医薬の市場規模は2022年に6兆円、2030年には16兆円になると予測されている。一方、ワクチン以外のmRNA治療薬の上市品は未だなく、mRNA医薬そのものが新しい創薬技術であるため、早期参入メリットが非常に大きいと考え、同社はビジネスモデル転換を決断し、mRNA医薬の創薬に特化した。この決断の背景には、核酸医薬の創薬に特化したアキュルナを吸収合併したことにより、mRNAなどの核酸領域の研究開発実績が強みになっている事実があると考える。
アキュルナは2016年からmRNAの研究に携わっている。国内ではmRNA医薬の研究開発を実施していた非常に貴重なベンチャーである。2020年の吸収合併時点で、開発候補品「RUNX1 mRNA」を有し、現在は当該開発品が医師主導治験入りに向けた最終段階となっている。ワクチン以外で、mRNA医薬の臨床開発実績を持つ企業は未だ国内にはないと考えられ、国内でmRNA医薬開発を進める上でのノウハウを保有していることは大きな優位性と言えよう。世界的な動きを見ても、今後mRNAによる治療薬創出の可能性は非常に高く、アクセリード(株)との包括提携により、mRNA医薬の創薬に関わる製造、非臨床など研究開発の一貫体制を構築していることも大きな強みである。
4. 後期開発リスクを負わない収益化モデルにシフト
新たなmRNA医薬の創薬ビジネスは、アクセリードグループ企業との協業によるmRNA医薬の研究開発一貫体制の構築により、製造、非臨床試験など各々の専門家集団と協業可能であり、効率的にmRNA医薬の創薬及び知的財産の獲得を進め、臨床開発ステージに入る前に、製薬企業にライセンスアウトを行うこととしている。なお、IP創出に関しては、IPガイアが持つネットワークを利用して製薬企業が求める疾患に対するmRNA医薬品の創出を実施することとしており、ライセンスの確度を高める。
非臨床段階に特化する背景には、製薬業界における非臨床段階でのライセンス活動の活発化がある。実際、非臨床段階でのライセンス契約数は、256件(2010~2014年)から423件(2015~2019年)に急増している。同社はmRNA医薬の研究開発に6年以上取り組んできた経験と実績及び、この過程で構築したバイオベンチャーやアカデミア、日本の政府機関などとのネットワークがあることから、mRNA医薬に関する技術及びIP創出が可能としている。加えて、mRNAワクチン開発において欠かすことのできない技術を持つ米TriLink社の元CSO(最高技術責任者)の同社への参画をはじめとして、mRNA医薬の技術に関する世界的にも著名な人財とのネットワーク構築及び取り込みも進んでおり、新たなmRNA医薬パイプラインの創出に動き出している。
開発資金は自社資金50億円と政府の各種研究開発助成金獲得や共同研究先資金50億円を想定し、合計100億円程度を投入可能であると見込んでいる。自社または共同研究を通じて2~3年でIPを創出し、臨床パッケージとして開発可能なグローバル製薬企業へライセンスアウトしていく計画である。臨床パッケージまでの1件あたりの開発費用は4~8億円程度、共同研究先は製薬、非製薬、バイオベンチャー、アカデミアなどを想定している。
収益モデルとしては、IP1件あたりのライセンスアウト収入を30~50億円程度とし、ライセンスアウト収入として契約金20億円以上を確保できれば単年度では黒字になる見込みである。なお、収入は可能な限り契約締結時に一括して得ることを考え、併せて、製品化後のロイヤリティ収益を含め、ライセンス収益がパイプライン毎に最大化できるような枠組みを狙うことを掲げている。
現時点におけるプロジェクト数は、mRNA医薬パイプラインとして7件を進めている。3年後にライセンスアウトを2件程度、ライセンスアウト収入を60~100億円程度と計画している。IP創出には2~3年が必要であることから、早めに探索研究(シード)の仕込みを行うとともに、全社的なIP創出力の底上げを図っていく。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水啓司)
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