霞ヶ関キャピタル Research Memo(5):物流事業、ホテル事業の回復・拡大と新規事業に積極的に取り組む(1)
1. 物流事業
霞ヶ関キャピタル<3498>は、コロナ禍収束後の環境下では物流施設需要が大きく伸びると見込んでいる。個人向けインターネット販売市場(EC市場)の拡大を受け、宅配取扱個数は過去最高の更新が続いているが、日本のEC化率は諸外国に比べて低いことから、今後もこの増加トレンドは継続すると予想される。そのため、物流システム全体の強化、スケールアップ、効率化は社会的課題と言える。
物流施設市場の拡大に呼応して、首都圏の物流施設の空室率は2021年1月の0.2%から2023年7月には6.2%に上昇、関西圏は2021年10月の1.1%から2023年7月には2.6%に上昇している(出所:一五不動産情報サービス「物流施設の賃貸マーケットに関する調査」)。物流倉庫のうち、ドライ倉庫の需給は各社の積極的な開発により過度なひっ迫感は解消されている。一方、冷凍冷蔵倉庫は徐々に設備能力は増加しているが、6大都市を中心に庫腹占有率(収容可能なスペース(庫腹)に対する貨物の埋まり具合)はひっ迫している状況だ。同社の主力商品である冷凍冷蔵倉庫及び冷凍自動倉庫は供給量が極めて少なく、需要は旺盛であることを示している。
さらに、オゾン層破壊や地球温暖化への影響の懸念から、国際協定に基づき2020年に特定フロンの生産が禁止されたことから、今後は冷凍冷蔵倉庫では自然冷媒使用型への転換が主流になると考えられる。東京都における冷凍冷蔵倉庫の約42%は築30年以上経過(同社調べ)しており、それらがスクラップ&ビルドの対象と考えられるが、自然冷媒使用型への転換には数億円以上の設備投資が必要なため、体力の乏しい準大手企業を中心に、冷凍冷蔵倉庫の多くが一斉に廃棄される可能性が大きい。一方、冷凍食品の国内消費量は、(1) 加工技術の向上、(2) 保存期間の長期化、(3) 共働き世代の増加、(4) 冷凍食品に対する抵抗感の減少などの要素により増加傾向にあり、今後も冷凍冷蔵倉庫の需要は拡大すると想定される。
労働人口の減少といった社会全体の大きな変化を背景としたEC企業による先進大型物流施設に対する需要拡大や、物流施設の省人化設備や自動化設備導入のための需要拡大は、長期的に続くトレンドであると同社は見ている。省人化による労務災害の防止や労働環境の改善、省人化による人的エラー等の削減などを目的に、同社では特に冷凍自動倉庫が増加すると見ている。
こうした環境変化を見据えて、同社では物流需要が高い地域に適切な物流施設を開発する予定である。同社では、物流ブランド「LOGI FLAG」を設立し、商標を登録しており、現在提供するのは、2030年フロン問題にも適応した冷凍冷蔵倉庫「LOGI FLAG COLD」(コールド型倉庫)、冷凍自動倉庫「LOGI FLAG TECH」(オートメーション型倉庫)、「LOGI FLAG DRY&TECH」(3温度帯倉庫)である。
物流事業は2020年8月期に立ち上げた事業であるにもかかわらず、急成長し主力事業となり、2023年8月期には全社の業績をけん引した。同社は中小規模の冷凍冷蔵倉庫をメインターゲットに物流施設開発を進めており、2023年8月期には物流施設開発用地2件を新規に取得、物流施設4件が竣工するなど、開発は順調だ。非開示案件も含むプロジェクトパイプライン及びAUMによると、2023年8月期末の事業規模は15件/1,494億円(前期比47.9%増)に拡大している。また、プロジェクトパイプライン一覧によれば、首都圏・関西圏を中心に、2027年冬までに14件を竣工予定であり、うち3件が竣工済、7件が着工済である。立地条件としては、サイズはやや小さめながら、首都圏を中心に市場へのアクセスが便利な場所を選んでいる。なお、同事業はコストがかかるが、開発利益を取り込むことで十分な利益を得ることができるほか、開発と並行して複数社と交渉することで買手や賃貸先を早期に見つけられるメリットがある。事実、2024年秋冬に竣工予定の冷凍自動倉庫「LOGI FLAG TECH 所沢1」についても、早くも2023年10月にSBSゼンツウ(株)に保管容量(パレット)の約半分を貸し出す覚書を締結している。ロケーションやスペックも含め、マーケットの需要と合致した倉庫を開発している証左と言えよう。同社では、今後、竣工済物流施設がある程度の件数と規模に達すれば、長期ファンドに移す考えだ。
2. ホテル事業
ホテル関連市場のうち国内旅行は、行動制限緩和や全国旅行支援により、2022年9月から2023年7月までの宿泊者数はコロナ禍前の同期間(2018年9月から2019年7月)を上回った。また、インバウンド需要は、2023年5月8日よりコロナ禍に伴う水際対策措置が終了したことで、足元の外国人宿泊者数はコロナ禍前の2019年に比べて遜色ない数値にまで回復している。
同社は従来からホテル市場回復時の成長を見据えた方針を打ち出している。具体的には、一般的にグループ旅行者が全体の6割弱を占めるのに対し、3~6人部屋の供給は4割に満たないことから、同社では多人数向けホテルの需給ギャップに着目し、グループ旅行者向けのホテル開発を推進している。すなわち、同社は家族・グループ旅行等の需要に対応した「アパートメントホテル」の開発を手掛けており、駅から徒歩5~10分圏内に立地し、キッチンや洗濯機等の長期滞在に対応した設備を完備した部屋を低額で提供することで、旅行客の取り込みを見込んでいる。
同社が開発しているアパートメントホテルは、3人以上のグループステイのために「広く、快適で、スタイリッシュ」な客室をリーズナブルな値段で提供することをコンセプトに、ゲストの「“Fav”orite」な空間でありたいとの願いから、ブランド名を『FAV HOTEL』と名付けている。各室の広さは35~40m2、定員は4名以上を標準プランとし、1人当たりの宿泊単価はビジネスホテル以下になるよう設定している。
アパートメントホテルでは、徹底した省力化オペレーションにより、損益分岐稼働率20%未満でも収益を生むビジネスモデル・運営体制を確立している。具体的には、予約受付から運営管理や会計報告などを標準化しIT化などによる「ホテル経営のDX化」、宿泊特化サービスを基本としながらも飲食店とフロント機能を融合した「飲食フロント融合設計」、地元のオペレーターと協業しながらもブランディング・プロモーションは同社が一元管理することで高い競争力を維持する「ブランディング一元管理」、居住に必要な設備を有し数日単位から1ヶ月以上の中期滞在までに対応する「幅広い使用用途」などである。コロナ禍により多くのホテルが休業や赤字経営を強いられたなかでも、同社のFAV HOTELは省力化スキームにより低稼働率でも運営収支が黒字化する仕組みを構築しており、すべてのホテルが黒字化している。海外旅行者数は回復・増加傾向にあり、ホテル事業は大きな利益貢献が見込まれる。
FAV HOTELについては、プロジェクトパイプライン一覧では稼働中ホテル12件、着工済・計画中など開発中ホテル12件がある。また、プロジェクトパイプライン及びAUMの資料では、2023年8月期末の事業規模は、23件/562億円(前期比45.5%増)に拡大している。ホテルの立地は競争が激しい都内などを避け、基本的には観光地を選んでいるが、進捗は順調であることから、同社ホテルのコンセプトがマーケットで受け入れられていることが窺える。なお同社では、ホテル開発に際しては地元の銀行や建設会社を使うなど、地元の経済活性化につながるよう配慮している。
2023年8月期には、2022年11月に「FAV HOTEL 鹿児島中央」、2022年12月に「FAV HOTEL 広島平和大通り」及び「FAV TOKYO 西日暮里」、2023年3月に「FAV TOKYO 両国」、2023年8月に「FAV HOTEL 飛騨高山EAST」が開業した。このうち「FAV TOKYO 西日暮里」及び「FAV TOKYO 両国」はコンパクト設計での多人数向け間取りを実現した、都市型「FAV HOTEL」となる。さらに既述のとおり、2023年2月にはFAV HOTEL10件を対象とした長期運用型ファンドを組成したが、ファンド組成後も引き続きホテルのアセットマネジメントは続け、同社のビジネスモデルが完遂した初めての例となった。今後も開発案件のファンド化を進める計画だ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
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