マザーズ先物の活用方法 vol.3~東証グロース市場注目企業の業績動向~
白幡:こんにちは、フィスコアナリストの白幡 玲美です。ここからは今年4月から実施された市場区分の見直しに触れつつ、マザーズ先物を活用するメリットや、東証グロース市場での注目企業の業績動向について、フィスコアナリストの仲村幸浩さんに解説していただきます。それでは仲村さん、よろしくお願いします。
仲村:よろしくお願いします。まず、4月に実施された市場区分の見直しですが、それまで、東京証券取引所には市場第一部、市場第二部、マザーズ及びJASDAQの4つの市場区分がありました。ただ、東証と大阪証券取引所が2013年に株式市場を統合した経緯などから、市場第二部、マザーズ、JASDAQの位置付けが重複しているなどの課題が挙げられていました。これらを解消することなどを目的に、今年の4月4日からプライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3つの市場区分に再編成されました。グロース市場は「高い成長可能性を有する企業向けの市場」というコンセプトのもと設けられ、マザーズの大半の企業とJASDAQの一部の企業がグロース市場を選択しています。
白幡:これによりマザーズ市場はなくなりましたが、マザーズ指数の算出は続いているのですよね。
※市場区分見直し後のマザーズ指数図表参照
仲村:はい。新たに「東証グロース市場指数」の算出が開始される一方、マザーズ指数も市場関係者の強い要望で算出が継続されています。算出に当たっての注意点ですが、まず4月1日時点の構成銘柄は4月4日以降の新市場での選択市場に関わらず、継続してマザーズ指数の構成銘柄とされています。毎年1回、10月に定期入替が実施されますが、今年の10月には現在の新しく算出されている東証グロース市場指数の構成銘柄から時価総額上位250銘柄が構成銘柄として選定されます。そして、2023年10月の最終営業日には仮決定ではありますが「東証グロース市場250指数(仮称)」という名称で新しく生まれ変わる予定です。また、10月の定期入替の結果、除外となる銘柄については、指標の継続性に配慮する目的から、「段階的ウエイト低減銘柄」とされ、3段階で構成比率を調整したうえで2023年4月に完全に除外されることになります。
※移行スケジュール図表参照
仲村:こちらが今申し上げた指数のスケジュールに関する流れを図表化したものです。日本取引所グループ(JPX)のホームぺージから確認することができますので、ご覧になりたい方はそちらからご確認ください。また、「東証マザーズ指数の見直しについて」についてと検索していただければ、すぐにこちらの図表が記載されたPDFファイルにアクセスすることができます。
https://www.jpx.co.jp/equities/market-restructure/revisions-indices/nlsgeu000005mjbb-att/TSEMothres.pdf
白幡:マザーズ指数は引き続き算出されていて、来年からは指数の名称も生まれ変わるということですが、それでは、ここからはマザーズ先物を活用するメリットについても解説していただきましょう。仲村さん、よろしくお願いします。
仲村:はい。マザーズ先物を活用するメリットとしては、主に6つの点があると考えています。それでは一つずつ解説していきます。
仲村:まず、「小額から手軽に取引できる」という点が挙げられます。7月14日のマザーズ先物終値は675ptでした。マザーズ先物の最低単位は1枚から、先物価格の1,000倍単位からの売買となりますので、例に挙げたように67万5,000円からの取引ということになります。ただ、実際に取引する際はこの金額の全てを用意する必要はなく、証拠金という小額の金額を用意すれば始めることができます。7月14日時点のマザーズ先物取引の証拠金は62,000円です。つまり、時価総額上位のマザーズ銘柄を現物株で取引しようとするとおおむね数十万円の資金が必要となるのに対し、マザーズ先物であれば10万円未満という少ない金額から取引できるというメリットあります。
そして、これが2点目の「資金効率の良い投資ができる」という点につながってきます。マザーズ先物は62,000円という証拠金を用意するだけで67万5,000円の取引ができるわけですから、およそ10倍のレバレッジがかけられることになります。現物株の信用取引でもレバレッジをかけた取引は可能ですが、こちらの場合は預けた担保評価額の最大3.3倍程度までに限定されますので、マザーズ先物取引の方が資金効率がかなり高いと言えます。
2016年7月の取引開始以降、マザーズ先物の取引高は順調に増えています。個別のマザーズ銘柄に代わり、マザーズ先物を通じて新興株や東証グロース市場に対するエクスポージャーを保有するようになった方が増えてきていると考えられます。
白幡:小額から取引可能なことは投資を始めてみようという動機にも繋がりますし、10倍ものレバレッジとはかなりインパクトがありますね。
仲村:はい。次に3点目の「現物株の取引ができない時間帯でも対応できる」という点についてご説明いたします。先物は現物株の取引を行うことができない夕方4時半(16:30)から翌日の早朝6時までの間も取引を行うことが可能です。これにより、現物株の取引終了後に多くある決算などの会社側からのリリースや、夜間の海外市場発のニュースに対応した取引も行うことが可能です。個別企業に関する材料でも、時価総額上位のような指数への影響が大きい銘柄であれば、マザーズ先物の代替性は高く、積極的に活用することができると考えます。決算発表シーズンでも主要企業の業績動向をいち早く確認し、マザーズ先物取引で対応することなどが選択肢として考えられます。また、今年に入ってからは、FRBの金融政策を占う経済指標の結果や、FRB高官らの発言によってアメリカの金利やハイテク株が大きく動き、それが翌日の東京市場の新興株にも波及しがちなため、夜間の海外市場の動向によってはマザーズ先物を売り建ててヘッジしておくといった活用も有効と考えられます。
白幡:たしかに、今年のアメリカ株式市場のボラティリティーは非常に高いですから、大きな動きがあった時に翌日まで待つことなく、夜間の間に対応できるというのはかなり有難いですね。
仲村:4つ目に「売りからも入れる柔軟な戦略立案が可能」という点があります。ほかに売りから入れる方法として、代表的なものに信用取引を活用した空売りがあります。ただ、新興市場の銘柄の場合、流動性などの観点から空売りを行うことは意外と難しいのです。日本取引所グループが空売りできる条件を満たした銘柄として「貸借銘柄」と呼ばれる銘柄群を定めていますが、7月7日時点で東証グロース市場の全上場銘柄476銘柄のうち貸借銘柄はわずか111銘柄しかありません。そのため、貸借銘柄でないマザーズや東証グロース市場の時価総額上位銘柄を保有している場合、マザーズ先物を短期的な株価下落に備えたヘッジ手段として活用することが考えられます。例えば長期的には有望な銘柄なのでまだ持っていたいけれど、成長のための先行投資などで目先の決算が心配、そのほか、短期的な株式市場の急変が心配、などといったケースでの活用が挙げられます。
白幡:なるほど、今年の変動の激しい相場環境では、将来有望な企業でも市場の急変に巻き込まれることが多々ありそうですから、個別銘柄にマザーズ先物を組み合わせた戦略は役に立ちそうですね。
仲村:はい。でもマザーズ先物は個別銘柄に組み合わせなくても、単独でも便利な投資ツールだと思っています。これが5つ目のメリットのお話になります。例えば、上昇が続いていた金利が落ち着いて低下傾向に転じるなどして、市場環境が大きく新興株にとって有利な状況になった際、個別銘柄の分析に時間をかけている余裕がなく、どの企業に投資したらよいかは分からないけども、とりあえず新興株・グロース株全体の上昇相場に乗りたいといった考えを持つ人は多いと思います。こうした時には、マザーズ先物を買い建てれば、グロース株へのエクスポージャーを効率よく取ることができます。
また、個別企業の場合には固有のリスクが付きまといます。例えば、期待したような相場が到来して、グロース株が軒並み上昇しているような場面でも、たまたま自分が投資していた企業が株価にネガティブなリリースをしてしまえば、多くのグロース株が上昇しているなか、自分だけは利益を取れないといったこともあり得ます。マザーズ先物の買い建てであれば、こうした銘柄固有のリスクを排除することができます。
最後に6つ目のメリットとして、「デリバティブの祝日取引の開始」が挙げられます。今年の9月23日(秋分の日)から、株価指数先物など一部のデリバティブ取引で祝日取引が始まります。基本的に1日程度の祝日であれば大きな問題はありませんが、ゴールデンウイーク(GW)のような国内の大型連休の際には、今年のように連休中にFOMCが開催されるなど、海外で重要イベントが多く開催されることもあります。そうした際に、連休明けまで待つことなく、祝日の間でもイベントに対応した取引が可能になることで、空白リスクを解消することができます。これは大きな新しいメリットになりますので、ぜひ皆さんにも覚えていただきたいと思います。
—【マザーズ先物の活用方法】〜2022年下半期の相場見通しと、東証グロース市場注目企業の業績動向〜vol.4〜に続く—
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