ワコム Research Memo(1):2022年3月期は巣ごもり需要が一巡するも、売上高及び最終損益は過去最高を更新
ワコム<6727>は、デジタルペンとインクの事業領域で、技術に基づいた顧客価値の創造を目指すグローバルリーダーである。映画制作や工業デザインのスタジオで働くデザイナー、アニメーターなどプロのクリエイターからの支持により高いブランド力とシェアを誇る。自社ブランドで「ディスプレイ(液晶ペンタブレット)製品」や「ペンタブレット製品」等を販売する「ブランド製品事業」と、スマートフォンやタブレットなど完成品メーカー向けに独自のデジタルペン技術をコンポーネントとして供給する「テクノロジーソリューション事業」の2つのセグメントで事業を展開している。
1. 2022年3月期の業績概要
2022年3月期の連結業績は、売上高が前期比0.2%増の108,790百万円、営業利益が同2.9%減の13,024百万円と計画を上回る着地となり、売上高及び最終損益は過去最高を更新した。売上高は、「ブランド製品事業」が新型コロナウイルス感染症の拡大(以下、コロナ禍)に伴う巣ごもり需要の一巡により減収となったものの、プロ向けディスプレイ製品等については経済活動の再開とともに順調に伸ばすことができた。一方、「テクノロジーソリューション事業」については、コロナ禍に伴う生産サプライチェーンの制限を受けながらも、スマートフォンやタブレットなど完成品メーカー(OEM提供先)からの需要増により増収となり、過去最高の売上高を更新した。売上高全体が上振れたのは、為替の円安効果も大きかった。損益面では、製品ミックスの影響や部材価格の高騰のほか、今後に向けた研究開発費や広告宣伝・販促費により営業減益となったが、各費用の最適化や為替の円安効果等により、営業利益率は12.0%(前期は12.4%)と小幅な低下に抑えることができた。
2. 2023年3月期の業績見通し
2023年3月期の連結業績予想について同社は、売上高を前期比17.7%増の128,000百万円、営業利益を同5.2%増の13,700百万円と大幅な増収及び営業増益を見込んでいる。もっとも、同社の業績予想は、ベースライン・シナリオ(保守的な前提)に基づいており、主要部品の調達リスクなどを一定程度考慮するとともに、積極的な研究開発投資を想定した水準となっている。売上高は、「ブランド製品事業」及び「テクノロジーソリューション事業」がそれぞれ伸長する想定である。「ブランド製品事業」は、下期を中心とした製品ポートフォリオの強化が増収に寄与する。「テクノロジーソリューション事業」は、主要顧客との関係を維持・発展させるとともに、デジタルペンの新たなユースケースの開拓と実装にも取り組む方針である。損益面では、増収による収益の押し上げや為替(円安)の影響、販管費の最適化等を通じて営業増益を実現するものの、研究開発投資の拡大のほか、原材料費・物流費の高騰を織り込み、営業利益率は10.7%(前期は12.0%)と若干低下する想定となっている。
3. 成長戦略
同社は、2022年3月期を最終年度とする中期経営計画「Wacom Chapter 2」を1年前倒しで達成できたことから、新たな中期経営方針「Wacom Chapter 3」(2022年3月期~2025年3月期)をスタートした。「ライフロング・インク」のビジョンを継承し、改めて「5つの戦略軸」を設定するとともに、その実行に当たって「6つの主要技術開発軸」を定め、具体的な価値提供と持続的な成長につなげていく方針である。特に既存技術と親和性の高いAI、XR、Securityの3分野を選択し、新コア技術と新しいビジネスモデルで新しい価値提供を実現していくところが戦略の目玉となっている。既存ビジネスの伸びをベースラインとしたうえで、新コア技術・新ビジネスモデルの上乗せにより2ケタの成長を目指す。
■Key Points
・2022年3月期はコロナ禍に伴う巣ごもり需要が一巡するなかで、プロ向け製品の伸びやOEM提供先からの需要増により計画を上回る着地。自己株式の取得にも積極的に取り組む
・デジタルコンテンツのほか、教育DXやワークフローDX分野も含め、AI、XR、Securityの新コア技術の活用による新たなビジネスモデルの立ち上げ準備にも注力
・2023年3月期は、部品調達リスク等を一定程度考慮しつつも、「ブランド製品事業」及び「テクノロジーソリューション事業」がともに伸びることにより大幅な増収及び営業増益を見込む
・2022年3月期より中期経営方針「Wacom Chapter3」をスタート。新コア技術・新ビジネスモデルの立ち上げにより成長加速を目指す
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
<EY>
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