サンワテクノス Research Memo(6):脱炭素社会の実現に向け環境関連分野のビジネス強化を推進する方針(1)
2. 中期計画における基本方針の進捗状況
(1) 『コアビジネスの強化で顧客のものづくりに貢献する』の進捗状況
中期経営計画で掲げられた4つの基本方針のうち、「コアビジネスの強化でお客様のものづくりに貢献する」というテーマは、サンワテクノス<8137>の成長戦略の中でも最も重要な施策と位置付けられる。なかでも、注力しているのがエンジニアリング事業とグローバルSCMソリューション事業の2つの事業で、いずれも売上規模としてはまだ100億円前後だが、今後の売上規模の拡大と収益性向上を実現していくうえで重要な事業と位置付けている。それぞれの事業の進捗については以下のとおり。
a) エンジニアリング事業
エンジニアリング事業とは、従来、電機部門・電子部門・機械部門の3つの領域それぞれが取扱商材を単品販売してきたものを、同社が各商材を組み合わせてシステム化し、顧客最適を行った上で販売する事業となる。すなわち、エンジニアリング事業とは何か別の新しい事業ではなく、商社機能における販売手法の1つと言える。同社が同事業に注力する背景には、産業用ロボット等のFA機器の高機能化が進展し、また、需要先のニーズもそれに応じて多様化するなかで、個々の商材を単品販売するだけではこうしたニーズに対応できないこと、また、エンジニアリングという付加価値を付けることで収益性を高めると同時に、1件当たりの受注規模も大型化していくことが可能と見ているためだ。
エンジニアリング事業の2021年3月期の売上高はコロナ禍の影響もあって約95億円と前期の約120億円から減少したものの、売上総利益率は前期実績の13.1%から14.3%と着実に上昇している。受注実績としては、FPD関連業界向けの液晶ガラス搬送設備や、産業機械業界向け組立ロボット装置などがある。今後は省人化対策としての自動搬送ロボットの導入や、IoT/ローカル5G技術を活用したスマートファクトリー対応設備などの需要が増加する見通しだ。特に後者についてはシステム化による高度なエンジニアリング技術が要求されるため、受注拡大の好機になると弊社では見ている。
同社の2021年3月期の売上総利益率は全社で10.6%だが、自動車(車載)業界向け有償支給品の影響を除けば、約12%になる。このため、エンジニアリング事業の付加価値分はまだ2%程度にしか過ぎない。同事業で当初目標としていた売上総利益率は25~30%であり、現時点ではまだ乖離が大きい。これは、同社が過去の知識・経験を生かして顧客提案する案件がまだ少なく、顧客からの注文を受ける形での案件が大半を占め、本来の付加価値部分の対価が十分得られていないことが要因と考えられる。
同社のエンジニアリング事業についてはこれまで、カレーになぞらえて説明してきた。すなわち、従来は肉と野菜と米を素材のまま個々に販売していた(代理店事業)のに対し、それぞれの食材を用いてカレーライスとして販売しようというのがエンジニアリング事業であり、カレールーの製作作業と味付けが同社のノウハウであり付加価値部分となる。しかし、現状は同社のレシピでカレーを作って顧客に提供するのではなく、毎回顧客の好みに合わせてカレーライスを作っている状況に近く、それがゆえにコスト部分にかかる対価を得にくく利益率が十分に取れない要因となっている。
こうした状況を打破するために同社は、2020年3月期よりエンジニアリング事業のビジネスモデルの練り直しに着手し、過去の知見を生かせないような案件は受注を見送り、採算性重視の営業方針に切り替えた。売上高が減少し、逆に利益率が上昇しているのはこうした取り組みの成果とも言えるが、まだ改善余地は大きいと同社では考えている。もう一段の利益率向上に向けては、同社が蓄積したノウハウをいかに標準化したサービスとして顧客に提供していく体制を構築できるかがカギを握る。前述したように、今後はスマートファクトリー化が一段と進むと見られシステム化に伴う全体最適のニーズがより一層高まり、顧客獲得の機会も広がることが予想される。顧客ニーズを満たし、かつコストメリットを感じられるサービスを提供できるようになれば、エンジニアリング事業の売上拡大と同時に収益性を向上していくことも可能となる。特に高い収益性が見込まれる大型案件の受注が増えていけば、売上総利益率で25~30%の達成も視野に入ってくるものと思われる。なお同事業におけるエンジニアの人員は50名程度となっており、当面はこの人員体制で事業を拡大していく方針だ。
b) グローバルSCMソリューション事業
グローバルSCMソリューション事業は、同社が以前から行ってきた調達代行や物流代行、納期管理といったサービスがルーツとなっている。同社の主要取引先のメーカー各社は大手企業ほど効率化を追求し、事業構造改革の名のもとにスリム化を行ってきた。その過程でグローバル物流や在庫管理、資材調達等の分野も人員・拠点の削減対象となり、人材が不足している状況となっている。同社のグローバルSCMソリューション事業とは、そうした状況で生じるアウトソーシングニーズを取り込むサービスとなる。顧客企業が今まで独自で各サプライヤーから電子部品や設備機器等を調達してきた機能を同社に集約することで、顧客は調達コストの低減やリードタイムの短縮といったメリットを享受することができる。
個人の引っ越しを例に取ると、従来の調達代行や物流代行は荷物を旧宅から新居に移動した時点で業務完了となる。一方、グローバルSCMソリューション事業では、引っ越してすぐにテレビやパソコンが使えるよう、アンテナやWi-Fi機器を調達し設置するところまでカバーする。さらに、新居の地域に応じたアンテナやWi-Fi機器の選定・調達と配線の構築まで行うことがエンジニアリング事業に該当し、この引っ越しを契機に外構・植栽の整備なども併せて受注できればビジネスの拡大につながる。同社は技術商社としての長い歴史で蓄積したノウハウと海外の幅広いネットワーク(世界28拠点)を強みとして、顧客のアウトソーシングニーズに対応し、グローバルSCMソリューション事業の規模拡大を目指している。
2021年3月期の売上高は前期比10%増の約95億円となり、2022年3月期は同21%増の約115億円を見込む。東南アジアに進出している現地日系企業の顧客獲得が順調に進んでいることが要因だ。商談事例として、ハーネス加工メーカーの海外輸出代行業務を受注したほか、FPD製造装置メーカーの中国工場へのSCM案件やセキュリティカメラの生産移管案件(中国からベトナムへの移管)などの受注を獲得している。なお営業戦略としては、顧客からの依頼を待つ受け身型の営業スタイルとなっている。2019年4月にグローバルSCMソリューション事業部を発足以降売上拡大を優先し積極的に受注を取りに行った結果、収益性が低下したため、現在は採算を重視した営業活動を行っている。
それでも、グローバルSCMのアウトソーシングニーズは今後も拡大すると弊社では見ている。米中貿易摩擦の激化で中国から東南アジアや中南米あるいは日本に工場を移転する動きが一部で出始めているほか、コロナ禍や半導体工場火災による部品調達リスクが再度顕在化したことによって、SCM機能の重要性が再度見直されてきているためだ。単独でサプライチェーンを構築するよりも、顧客企業にとっては専門事業者にSCM機能を委託したほうが事業リスクの低減が図れるほか、コスト面でもメリットが出てくる。同社にとっては、既存顧客との取引規模拡大につながるだけでなく、新規顧客獲得の機会ともなる。なお、SCMサービスにおける競争力を強化するため、事業部の発足と同時にグローバル物流インフラの見直しと改善活動を開始している。その一環として倉庫管理システム(WMS)の本格運用を開始しており、案件ごとの物流コスト可視化を実現することで、収益性の改善を図っている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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