筑波精工 Research Memo(4):報告セグメントは3つ。根幹技術は「静電チャック」(2)
3. 半導体業界の動向
(1) 半導体製造プロセス
一般的にメーカーが半導体(ICチップ)を製造するプロセスは、まずシリコンインゴットを薄く切りシリコンウエハを作成する。この時点でウエハの厚さは約700μあるが、この表面に真空蒸着、エッチング、アニーリング、スパッタリング、イオン注入などの方法で回路を形成する。パワー半導体に特徴的なプロセスとして、この後回路側の面に保護用のテープを貼付した後、裏面を研磨して100〜150μまで薄くする。この薄化後にさらに裏面へのイオン注入やアニールなどの工程が必要となる。このようなシリコン上に回路を作成するプロセスは、これらの工程を何度も繰り返してようやく1枚のウエハの回路作成が完了する。したがってこの回路作成には、通常は6~10日ほどかかるが、複雑な回路では1か月近くかかる場合もある。
この間、シリコンウエハは真空状態や高温のプロセスなどを何度も繰り返し移動することになるが、裏面研磨後のシリコンウエハは非常に薄く、回路形成によるストレス蓄積等のため反りや割れといった損壊が発生し易い。そのため回路生成プロセスにおいては、ウエハの裏面に保持材を貼って補強してからプロセス間を移動する。そして最後に回路形成が終了した後に、この保持材を分離する。今までは、この裏面保持の方法として保持材を接着剤で貼り付けるのが一般的であった。しかし下記に述べるように、今後自動車分野でのパワー半導体の需要が高まるとシリコンウエハはさらなる薄型化と大口径化が進むと予想され、この接着剤方式では薄型化と大口径化には対応が難しいと見られている。
(2) 自動車向け半導体
近年自動車のEV化が急速に進んでおり、この勢いは加速することはあっても減速することはないだろう。この自動車のEV化にとって重要な要素の一つが半導体の供給である。特に動力(パワー)部分では、バッテリーから出た電気(DC=直流)をモーターで使用する交流(AC)に高速で変えるインバータ(IGBT)が必須の部品となる。これらの半導体はメーカーにとって、径を大きくすることで1枚のウエハからより多くのデバイスを作成することにより生産効率を上げ、1個当たりのコストを下げることが可能となる。しかし大容量(高アンペア)かつ高電圧(高ボルト)で作動するため、ウエハ面積が大きくなると発熱量も増える。そのため、発熱させる原因となるオン抵抗値をできる限り小さくするためにウエハを薄型化する必要がある。半導体メーカーは、発熱量の点からこのような半導体をできるだけ薄いウエハで生産し、かつ生産効率の点から大口径のウエハでの生産を目指す必要がある。
(3) 半導体の薄型化と静電チャック
自動車のEV化とともに半導体、特にIGBTの需要が今後は急速に高まることが予想される。ただしこの生産プロセスでは、ウエハの薄型化がさらに進み、その薄さは50~75μとなるという見方もある。さらに、多くのメーカーが12インチ(300mm)ウエハへ移行する可能性が高い。その結果、シリコンウエハはより薄く大きくなるため、反りや割れといった損壊のリスクは一段と高まる。それを避けるために保持材の貼付は必須だが、従来の接着剤方式では、プロセスのなかで溶剤が溶け出す恐れや剥離するリスクが高まるなど難点が多いと言われている。
そこで注目されるのが、同社が提供する静電チャックである。前述のとおり、同社の製品は一度電界をかけると半永久的に吸着保持を続けることが可能で、さらに真空、高温などの環境下でも保持力は落ちない。薄型化・大口径化されたウエハに対して最適な製品と言える。
4. 主な顧客と需要
同社の主力製品である「サポーター」の主要顧客は半導体のデバイスメーカーである。需要は、生産される半導体の数(シリコンウエハの枚数)に比例する。「サポーター」は1枚のウエハが一通りのプロセスを終了した後、ウエハから外し洗浄してから繰り返し利用することが可能である。したがって、仮に一通りのプロセスを終了するのに6日かかるとすると、1枚のサポーターは月間5回利用できるため、ウエハの生産能力の5分の1の枚数が必要になる(例:ウエハ生産能力が5万枚/月であれば、月間で1万枚のサポーターが必要)。なお「サポーター」の絶対寿命は約2年間である。
同社の主要顧客については開示されていないが、同社によるとIGBTの表面パターン(回路生成)に関連した特許は米国と日本に多く、この分野では米国と日本が進んでおり中国は遅れている。そのため中国では表面プロセスではなく薄型化の分野(裏面プロセス)に積極的に投資を行っていることから、同社の主要顧客も中国や台湾メーカーのようだ。参考として、同社公開資料「発行者情報」に記載された2020年3月期の販売先別実績の上位は、XIN CHENG PRECISON LIMITED COMPANY(売上高に占める比率17.5%)、深セン市瑞ジ泰思科技有限公司(同16.9%)、日伝<9902>(同16.1%)、盟立自動化股フン有限公司(同10.9%)となっている。
5. 同社生産能力と特許政策及び競合
同社製品の生産については、ある部分は内製しているが、そのほかの部分は数か所に分けて外注する「ファブライト」の方式を採用している。したがって外注先は最終的にどのような製品になるかは不明である。また需要が急増した場合でも、大型の生産設備を必要とする製品ではないため、同社は「生産が間に合わない事態にはならない」と説明している。
特許についても、外注の分散と同様に秘匿性を高める策を講じている。同社は数多くの特許を保有しているが、すべての技術・ノウハウを特許申請しているわけではない。ある部分は申請をしていないため技術の詳細は不明となっており、競合会社が同社の技術を盗用して類似製品を提供することは難しいようだ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)
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