サンワテクノス Research Memo(5):エンジニアリング事業では利益率上昇に向けて戦略を微調整
2. 『コアビジネスの強化で顧客のものづくりに貢献する』の進捗状況
新中期経営計画で掲げられた4つの基本方針のうち、「コアビジネスの強化で顧客のものづくりに貢献する」というテーマは、サンワテクノス<8137>の収益成長に直接的に言及しているという意味で、最も重要なものだと弊社では考えている。
前中期経営計画と比較して、「コアビジネス」の中身が広がり、エンジニアリング事業とグローバルSCMソリューション事業の2つが新たにコアビジネスに加わった点が注目される。この変化は両事業が「コアビジネス」にふさわしい規模と重要性を持つ事業に成長したことを示唆している。
2つの事業の具体的な内容は、過去のレポートで繰り返し言及してきており、今回はその主な進捗について言及する。
(1) エンジニアリング事業の進捗状況
エンジニアリング事業とは、従来は電機部門・電子部門・機械部門の3つの領域それぞれが取扱商材を単品販売してきたものを、同社自身が組み合わせてシステム化して顧客に販売する取り組みを言う。すなわち、エンジニアリング事業とは、何か別の新しい事業ではなく、代理店事業の各商材についての言わば販売手法と言える。同社がこれに注力する背景には、技術開発に伴う各商材の高機能化やソフト化、また、需要先のニーズの高度化などの流れのなかで、個々の商材を単品で販売するだけではニーズに対応できず、いきおい、商機も拡大しにくい状況となってきたことがある。
エンジニアリング事業の事業規模は年々拡大し、ここ数年は同社が事業開始時に当面の目標としていた100億円の大台を安定的に上回る状況が続いている。このことがエンジニアリング事業をコアビジネスへと“昇格”させた大きな要因と考えられる。
これまで順調に推移してきたエンジニアリング事業であるが、一方で課題も見えてきている。それはエンジニアリング事業の利益率が当初想定した水準(具体的には、25%~30%とみられる)にまでなかなか上がってこないことだ。
この点をもう少し掘り下げると、利益率が上がってこない要因は、同社が過去の知識・経験を生かした形でエンジニアリング事業に取り組むのではなく、顧客に言われるままに作業を行い、本来、“付加価値”として利益となるはずの部分がコスト先行になっていることが原因のようだ。
同社のエンジニアリング事業についてはこれまで、カレーになぞらえて説明してきた。すなわち、従来は肉と野菜と米を素材のまま個々に販売していた(代理店事業)のに対し、それぞれの食材を用いてカレーライスも作って販売しようというのがエンジニアリング事業であり、カレールーの製作作業と味付けが付加価値という構図であるが、現状の同社は完成したレシピでカレーを作って提供するのではなく、毎回、顧客の好みに合わせてカレールーを一から開発している状況と言える。
こうした状況を受けて同社は、エンジニアリング事業のビジネスモデルの練り直しに着手している。既に行っているのは、過去の知見を生かせないような案件の受注は見送るという、採算性重視の受注方針の採用だ。これ以外にも同社は事業モデルやサービス体制、“料金表”など、様々な点で見直しを図ってくるとみられる。
採算性重視の受注方針は短期的には売上高を減らすことになる可能性もあるが、同社がエンジニアリング事業強化を打ち出した最大の理由が収益性の改善であることに鑑みると、そうした受注スタンスの変更は正当化できると弊社では考えている。次のステップとしては、売上高の成長と採算性の改善を両立できるような施策と考えられ、具体的にどのような施策を打ち出してくるのか注目される。
(2) グローバルSCMソリューション事業の進捗状況
グローバルSCMソリューション事業は、同社が古くから行ってきた調達代行や物流代行、納期管理といったサービスがルーツとなっている。同社の主要取引先のメーカー各社は、大手企業ほど効率化を追求し、事業構造改革やリストラを推進してきた。その過程でグローバル物流や在庫管理、資材調達等の分野も人員・拠点の削減対象となり、人材が不足している状況となっているのが現実だ。同社のグローバルSCMソリューション事業はそこで生じるアウトソーシングニーズを取り込むものだ。これもまたエンジニアリング事業と同様に、電機・電子・機械の3部門の商材の販売手法・営業手法の1つだ。
個人の引っ越しを例に取ると、従来の調達代行や物流代行の時代は荷物を旧宅から新居に移動して終了だ。一方、グローバルSCMソリューション事業においては、引っ越してすぐにテレビやパソコンが使えるよう、アンテナやWi-Fi機器を調達し設置するところまでカバーする。新居の地域に応じたアンテナやWi-Fi機器の選定・調達と配線の構築がエンジニアリング事業にあたり、この引っ越しを契機に外構・植栽の整備を受注できればビジネスの拡大になる。同社は技術商社としての長い歴史で蓄積したノウハウと海外ネットワークを強みとして活用し、グローバルSCMソリューション事業の拡大を目指している。
グローバルSCMソリューション事業の売上高について、新中期経営計画における数値目標は公表されていないが、200億円が当面の目標になると弊社ではみている。
新中期経営計画に臨むに当たり同社は、2019年4月からグローバルSCMソリューション部を発足させた。この狙いは、調達代行や物流代行、納期管理といったサービスがこの事業のルーツとなっているため、ややもすると受け身になりがちな点を180度転換してプロアクティブなスタンスで臨み、これまで以上に収益事業として成長を加速させることにある。
グローバルSCMソリューション部の発足により、業務遂行の体制整備と社員の意識改革の両面でプロアクティブ化が進んだ。その結果、顧客のアウトソーシングニーズの取り込み(これは顧客の“手間”の肩代わりで本質的には利益率が低い)を突破口として他の取引の取り込みへと発展させてそこでより高い収益性を目指す“波及ビジネス”の流れが出始めている状況だ。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 浅川裕之)
<MH>
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