富士ソフト Research Memo(6):働き方改革等による生産性向上効果の顕在化を期待したい
1. 会社公表の2019年12月期業績予想は必達目標との位置付け
2019年2月に公表された富士ソフト<9749>による2019年12月期の業績予想は、売上高が前期比3.0%増の210,500百万円、営業利益が同2.6%増の11,700百万円、経常利益が同1.1%増の12,200百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同2.8%増の6,700百万円である。2018年2月に公表された業績予想(売上高:193,000百万円、営業利益:10,300百万円)に対して、売上高は9.1%、営業利益は13.6%の上方修正がされている。
また、2020年12月期の業績予想も、売上高199,000百万円→217,000百万円(前期比3.1%増)、営業利益10,600百万円→12,000百万円(同2.6%増)と上方修正された。どちらの予想も2ケタ増収増益となった2018年12月期実績における上振れ分を単純に上乗せしたものであり、増収局面にありながら営業利益率が横ばい見込み(2018年12月期実績5.6%→2019年12月期予想5.6%→2020年12月期予想5.5%)となっていることも加わって、物足りなさも感じられるだろう。
これらの点について会社側は、1)公表業績予想は必達目標であり、更なる上積みが可能、2)収益性に対する課題認識は持っており、長期的には一段の収益性向上を目指す、としている。実際、先行投資と働き方改革に注力しながらも、高付加価値案件獲得や経費コントロールに取り組むことで、売上総利益率や営業利益率は維持されており、今後の収益動向については期待を持って見守りたい。
2. 先行投資と働き方改革に注力することで、生産性は向上方向にある
同社は、新卒の大量採用を軸とする人材投資に注力する一方で、「ゆとりとやりがい」の実現に向けて、多様なライフスタイルに合わせた働き方改革・支援を真剣に実践している。
具体的には、1990年に導入したコアタイムなしのフレックスであるスーパーフレックス制度を一段と進化させた「ウルトラフレックス制度(スーパーフレックス制度+時間帯を固定することなく30分単位で有給休暇や10分単位のリフレッシュタイムが取得可能)」のもとで、遠隔地勤務の環境整備や全社員を対象とした在宅勤務制度を本格運用に取り組んでいる。こうした結果、2017(集計期間は4~3月)年には、1)有給取得率:73.2%(民間平均51.1%、政府目標は2020年に70%)、2)在宅勤務利用者:延べ3,975名、3)育児休業取得者:164名導入、4)月間残業80時間超過者:0名、を達成、外部機関からも、テレワーク先駆者百選(総務省)や子育てサポート企業認定(厚生労働省)、健康経営優良法人(経済産業省)、神奈川子ども・子育て支援推進事業者(神奈川県)といった評価を獲得している。
ここで注目したいのは、労働集約型とされるITサービスでありながら、働き方改革による生産性向上を実現しつつあることである。
短期で見れば、既存社員の稼働時間短縮が生じる働き方改革や新卒の大量採用は人的戦力の希薄化や先行コストの増加に直結するため、1人当たり営業利益(営業利益/期首期末平均従業員数)等の生産性指標にとっては抑制要因となるケースが多い。同社の場合、働き方改革の成果を出しながら新卒の大量採用を開始した2015年12月期以降、直後の2年間は1人当たり営業利益が減少しているものの、2017年12月期からは増加に転じている。
具体的には、単純計算による新卒含有率(新卒採用者数/前年末従業員数)が、2014年12月期1.5%→2015年12月期4.3%→2016年12月期4.6%→2017年12月期5.1%→2018年12月期7.2%と年を追って上昇し、残業時間の削減と有給取得の増加も進んでいる。一方、2018年12月期の1人当たり営業利益は、2014年12月期に比べ3.0%増となる80万円強まで向上、同社が1時間生産性と呼ぶ内部の管理指標については過去最高営業利益を示現し一人当たり営業利益が135万円であった2006年12月期に比べ1.16倍にまで良化している。ICT利活用の実践や勤務形態・労働環境の継続的見直しを通じ、業務の仕組み、社員の「ゆとりとやりがい」の向上が生産性アップにつながっているとみて良いだろう。
今後は、残業削減や有給取得増加の余地が縮小し、新卒含有率のピークアウトが見込まれるため、時間当たり生産性向上による業績押上げ効果が顕在化しやすくなる。長期的には一段の収益性向上を目指すとしている、同社の今後に期待したい。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 前田吉弘)
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