オンコリス Research Memo(4):国内では順天堂大学呼吸器内科と共同研究契約を締結
2. テロメスキャン
(1) 概要
テロメスキャンは、アデノウイルスの基本構造を持ったテロメライシンにクラゲのGFPを組み込んだ遺伝子改変型アデノウイルスとなる。テロメラーゼ陽性細胞(がん細胞など)に感染することでGFPが発現し蛍光発光する作用を利用して、がん転移のプロセスに深く関与するCTCを高感度に検出する。検査方法としては、患者の血液を採取し、赤血球の溶血・除去を行ってからテロメスキャンを添加しウイルスを感染させる。感染により蛍光発光したGFP陽性細胞を検出、CTCの採取といった流れとなる。また、必要に応じて採取したCTCの遺伝子解析も行っている。
これまでPET検査などでは検出が難しかった直径5mm以下のがん細胞の早期発見や、転移・再発がんの早期発見などに応用する可能性が期待されるほか、検出したCTCを遺伝子解析することによって最適な治療法を選択する「コンパニオン診断」※のツールとしての利用も視野にいれている。また、直近では米国において子宮頸がんの診断用としての開発も検討され始めている。子宮頸がんはHPVウイルスの感染が発症原因となるが、HPVはCTCにのみ存在するため、テロメスキャンで採取したCTCを調べることで、子宮頸がんの診断が可能となるためだ。従来、子宮頸がん検査は子宮頸部の細胞を採取する必要があったため、受診率も高くなかった。テロメスキャンにより血液検査で診断が可能となれば、受診率の向上が期待される。
※患者によって個人差がある医薬品の効果や副作用を投薬前に予測するために行われる臨床検査のこと。薬剤に対する患者個人の反応性を遺伝子解析によって判別し、最適な治療法を選択できるようにする。新薬の臨床開発段階でも用いられる。
テロメスキャンF35は、テロメスキャンの基本構造をもったウイルス遺伝子配列に、正常な血球細胞でその増殖を抑制するマイクロRNA標的配列を組み込み、さらに違う型のアデノウイルスのウイルスファイバーを導入した、感染率の向上とがん特異性を高めた改良型のテロメスキャンとなる。それぞれの特性には一長一短があり、テロメスキャンは蛍光体の輝度が高く検出がしやすいものの、白血球にも反応し若干発光するため、前段階で白血球を取り除く工程が必要となる。一方、テロメスキャンF35はがん細胞のみを発光させるため、白血球を取り除く工程は不要となるが、発光輝度が若干弱いといった難点がある。
テロメスキャンに関しては2015年11月にペンシルベニア大学発のベンチャーであるLiquid Biotechと北米市場でのライセンス契約を締結し、テロメスキャンF35については2014年12月に韓国WONIKと韓国市場におけるライセンス契約を締結している。
(2) 開発状況
テロメスキャンの国内での開発状況に関しては、胃がんのPTC検査薬として岡山大学消化器外科系と、膵臓がんのPTC検査薬として大阪大学消化器外科とそれぞれ共同研究を進めているほか、2017年11月には順天堂大学呼吸器内科とテロメスキャンの実用化を目的としたCTCの検出法開発及びシステム構築のための共同研究契約を締結した。
具体的には、テロメスキャンを用いて肺がんの超早期発見や予後診断、CTCの遺伝子解析を行うことによる最適な治療法の選択等の実用化に取り組んでいく。また、テロメスキャンの課題であったCTC検出工程の時間も高性能なフローサイトメーターを活用することで10分の1に短縮することを目指している。従来は顕微鏡で目視によりCTCを採取しており、1回の検査で2~3時間を要していたが、これが10分程度の時間に短縮できることになる。フローサイトメーターによってCTCが採取できることを確認できれば、臨床試験を実施した上で薬事承認を目指していくことになる。順調に進めば、順天堂大学内にCTC検査センターを設ける構想もある。
一方、米国では子宮頸がん検査用としての臨床研究を2018年中にも開始すべく、ニューヨーク大学と協議を進めている段階にある。子宮頸がんの検査に関しては、すべての女性が対象となるだけに潜在需要は大きい。また、非小細胞肺がんを対象としたCTCの遺伝子解析による治療法選択に関する共同研究に関しても、2018年にペンシルバニア大学中心に10施設で実施する予定となっている。テロメスキャンのアッセイについてはライセンス供与先であるLiquid Biotechが担当する。
なお、韓国についてはWONIKがテロメスキャンF35の製造販売承認に向けた開発を進めているが、製造したウイルスの品質改善に向けたテコ入れを同社で進めていく予定になっている。
(3) 競合状況
テロメスキャンのターゲット市場となるCTCの検査市場では、現在米VeridexのCellSearchシステムが唯一欧米市場で販売承認を受けており、既に乳がん・大腸がん・前立腺がんのCTC検出において使用されている。また、同業他社もCTC検査機器の開発にしのぎを削っており、開発競争が激しい領域となっている。しかし、これらの検査システムはEpCAM(上皮細胞接着分子)と呼ばれる細胞表面マーカーを検出する方法を用いており、その細胞表面マーカーの発現が低いと言われている肺がん細胞等の検出が困難であるという欠点を持っている。
一方、同社のテロメスキャンでは肺がん細胞を始めとするほとんどのがん種において、CTCの検出が可能なほか、生きているCTCや悪性度の高い間葉系がん細胞を捕捉することが可能で、がん転移後のCTCを分析することで最適な治療法を選択できるといった長所を持つ。米ペンシルバニア大学で実施したCTCの検出率比較においても、7種のがん疾患のうち5種において検出率に顕著な有意差が出ているとの調査結果が発表されている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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