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コラム【新潮流2.0】:アークヒルズの春(マネックス証券チーフ・ストラテジスト広木隆)


◆前回、マネックス証券の引っ越しの話を書いた。5年過ごした麹町から六本木のアークヒルズにオフィスを移転した。麹町もそれなりの風情があって好きだが、やっぱりアークヒルズはいい。日本の金融センターは丸の内・大手町に違いないが、アークヒルズを中心とする赤坂~六本木一丁目界隈もまた新たな金融街としての風貌を持つようになってきた。

◆だが、「アークヒルズ」と聞いて金融街と思うひとは少ないだろう。アークヒルズと言えば、カラヤン広場やサントリーホールに代表される「音楽の街」である。サントリーホールの開館は1986年だから2016年で30周年。現在は改修工事に入って休館中だが、秋には再開される。魅力的なプログラムが並んでいて今から待ち遠しい。仕事を終えたら歩いて直ぐにコンサートホールに行けるのは、なによりの贅沢だ。

◆今度の週末は3.11、東日本大震災から6年である。震災当日、新進気鋭の指揮者、ダニエル・ハーディングは新日本フィルを指揮し、マーラーの5番を演奏した。徒歩などでたどり着いたわずか100人余りの聴衆の前で。僕はもちろんその演奏に立ち会っていないが1年後、NHKの『3月11日のマーラー』という番組で観た。ハーディングはこう語っていた。「この交響曲は人間の永遠のテーマである生と死、そして悲劇、それも、とてつもない悲劇で始まります。そこからマーラーは我々を明るく幸せで穏やかな場所へと導きます。最悪な状況をもたらした後で、それを生き抜くようにと励ますのです。」

◆相場もまた人間の「生」であり「業」である。とてつもない悲劇もある。だが、そこから明るく幸せで穏やかな場所へと導くこと。それもストラテジストの仕事のひとつではないか。マエストロにはなれないが、最悪な状況の後でも、生き抜くようにと励まし、指針を示せるストラテジストになりたい。

◆季節は廻り、気が付けば桜の開花までひと月もない。近年、花見は千鳥ヶ淵だったが、今年からは霊南坂とカラヤン広場に変わる。アークヒルズで桜吹雪を浴びると、シンフォニーが聴こえる気がするのが不思議である。アークヒルズの桜もまた待ち遠しいもののひとつ。春よ、早く来い。

マネックス証券チーフ・ストラテジスト広木隆

(出所:3/6配信のマネックス証券「メールマガジン新潮流」より抜粋)






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