10年前に国連は、大麻などの薬物は、懲罰的アプローチから人権に基づく公衆衛生アプローチを勧告。国際的に非犯罪化/合法化が進展するきっかけに。
- 2020年09月16日 16:00:00
- マネー
- Dream News
●薬物問題と人権問題に関して包括的に取り上げた初めての国連報告書
この報告書は、2010年の国連人権理事会及び第65会期国連総会に提出された「達成可能な最高水準の身体的及び精神的健康を享受するすべての者の権利に関する特別報告者の報告書」の和訳版です。日本臨床カンナビノイド学会(新垣実理事長)は、本報告書の和訳を今月16日にWEBサイトにて公表した。国連人権理事会で報告された薬物問題と人権問題に関して包括的に取り上げた初めての報告書です。
大麻などの薬物使用者には、有罪判決や刑罰を中心とした懲罰的アプローチから人権に基づく公衆衛生アプローチを勧告しました。2011年の薬物政策国際委員会(The Global Commission on Drug Policy)の報告書と共に、国際的に薬物の非犯罪化/合法化が進展するきっかけになりました。
●概要
現在の国際的な薬物統制システムは、ほとんど法執行政策と刑事制裁によって、薬物のない世界を作ることに焦点を当てている。しかしながら、このアプローチが失敗していることを示す科学的根拠が増えつつあるが、これは主に薬物使用及び依存の現実を認めていないためである。薬物は個人の生活や社会に有害な影響を与えるかもしれないが、この過剰な懲罰的アプローチは、定められた公衆衛生の目標を達成しておらず、数え切れないほどの人権侵害を引き起こしている。
薬物使用者は、刑事罰の恐れがあるためにサービスへのアクセスが妨げられたり、医療へのアクセスが完全に拒否されたりすることがある。犯罪行為や過剰な法執行行為は、健康増進の取り組みを損ない、汚名(スティグマ)を着せ、薬物使用者だけでなく全住民がさらされる健康リスクを増大させる。一部の国では、薬物使用者を投獄したり、強制的な治療を課したり、あるいはその両方を行っている。また、現在の国際的な薬物統制体制は、必要不可欠な医薬品へのアクセスを不必要に制限しており、これは健康に対する権利の享受を侵害している。
麻薬に関する単一条約 (1961年) の前文に述べられているように、国際的な薬物統制体制の第一の目標は「人類の健康と福祉」であるが、薬物の使用及び所持を規制する現在のアプローチはその目標に反している。薬物使用に伴う害を軽減するための介入 (ハームリダクション・イニシアティブ) の広範な実施と、薬物統制を管理する特定の法律の非犯罪化は、薬物使用者と一般住民の健康と福祉を明らかに改善するであろう。さらに、薬物を使用する人々の権利が尊重され、保護され、満たされることを確保するために、国際連合の諸機関及び加盟国は、薬物統制に対する健康に対する権利のアプローチを採用し、システム全体の一貫性とコミュニケーションを奨励し、指標及びガイドラインの使用を組み入れ、特定の違法薬物に関する新たな法的枠組みの開発を検討すべきである。
●報告書目次
I.はじめに p.4
II.健康に対する権利及び国際的な薬物統制 p.5
III.健康に対する権利の実現に及ぼす薬物統制の影響 p.8
A.サービス及び治療へのアクセスの抑止 p.8
B. 差別と汚名(スティグマ) p.9
C. 薬物使用時に増えるリスク p.10
D. 社会的弱者や社会から取り残されたコミュニティへの過度な影響 p.10
IV.薬物依存及び健康権侵害に対する強制的な取扱い p.11
V.規制薬物へのアクセス p.13
VI.薬物統制に対する人権に基づくアプローチ p.16
A. ハームリダクションと科学的根拠に基づく治療 p.16
B. 非犯罪化及び刑罰廃止 p.20
C. 人権指標及び指針の利用 p.22
D. 薬物統制のための代替的な規制の枠組み p.23
VII. 勧告 p.24
●勧告(全文)
加盟国は、次のことを行うべきである。
●薬物使用者、特に投獄されている人々に対して、あらゆるハームリダクションの方法(国連エイズ合同計画(UNAIDS)が箇条書きにした)と薬物依存治療サービス、特にオピオイド補充療法が利用可能であることを確保する。
●薬物の所持及び使用を非犯罪化するか、又は刑罰を軽くする。
●薬物使用者への必須保健サービスの提供を禁止する法律や政策を廃止又は大幅に改革し、人権上の義務を遵守するために規制薬物に関する法執行イニシアティブを見直す。
●管理された必須医薬品へのアクセスを拡大するために、法律、規制、政策を改正する。
国連の薬物統制機関は、次のことを行うべきである。
●法律、政策及びプログラムにおける薬物統制への対応に人権を統合する。
●薬物使用及び市場の影響並びに薬物統制の政策及び計画に関心を有する国連諸機関の間の一層のコミュニケーション及び対話を奨励すること。
●国際的な人権関係者が国際的な薬物政策の策定に貢献できる独立した委員会のような恒久的な機構の創設を検討し、薬物使用者とその居住地域の健康と人権を保護することを主要な目的として、国内の実施状況を監視する。
●人権に基づく薬物統制のアプローチをとることについて関係者に指示を与えるガイドラインを策定し、薬物統制と健康に対する権利に基づく指標を考案し、公表する。
●たばこ規制枠組み条約のようなモデルに基づいて、長期的な、代替的な薬物統制の枠組みの創設を検討する。
本報告書の全文ダウンロードはこちら
http://cannabis.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=106286
【画像 https://www.dreamnews.jp/?action_Image=1&p=0000222582&id=bodyimage1】
●国連システムにおける薬物問題と人権問題の報告書(英語版の原文)
2010年 達成可能な最高水準の身体的及び精神的健康を享受するすべての者の権利に関する特別報告者の報告書A/65/255
https://undocs.org/A/65/255
2015年 世界の薬物問題が人権の享受に与える影響に関する研究 国連人権高等弁務官報告書A/HRC/30/65 → 健康、刑事司法、差別、児童、先住民などの点から調査し、翌年の国連薬物特別総会UNGASS2016へ提供
https://undocs.org/A/HRC/30/65
2018年 世界の薬物問題に効果的に取組み、対処するための共同コミットメットの実施と人権について 国連人権高等弁務官報告書 A/HRC/39/39
https://undocs.org/A/HRC/39/39
●国連システムにおける薬物問題と人権問題の年表
2001年 国連特別総会「HIV/エイズに関するコミットメント宣言」
→薬物使用のハームリダクションの確保について明記。
2007年 国連総会決議A/RES/62/176
→国際的な薬物問題に対して、人権を尊重してという文言が入る
2008年 薬物と人権に関する国連麻薬委員会決議51/12
→薬物条約の実施における人権の促進と国連機関の協力を明記
2009年 第52会期麻薬委員会ウィーン政治宣言
→「関連支援サービス」の解釈を「ハームリダクション」を意味するとした。
国連総会決議A/RES/63/197
→国際的な薬物問題に対して、人権を尊重してという文言が入る
2010年 達成可能な最高水準の身体的及び精神的健康を享受するすべての者の権利に関する特別報告者の報告書A/65/255 →国連総会で薬物問題と人権・健康について初めて報告された。
2014年 WHO「主要集団のHIV予防、診断、治療、ケアに関する総合ガイドライン」 →非犯罪化、人権アプローチについて言及。
国連総会決議A/RES/69/201
→世界薬物問題は、国連憲章に完全に合致し、すべての人権を完全に尊重して対処しなければならないことを再確認した。
2015年 国連加盟国「持続可能な開発目標(SDGs)」の最終文書に合意
世界の薬物問題が人権の享受に与える影響に関する研究 国連人権高等弁務官報告書A/HRC/30/65 → 健康、刑事司法、差別、児童、先住民などの点から調査し、翌年UNGASS2016へ提供
2016年 国連薬物特別総会(UNGASS2016)の成果文書A/RES/S-30/1
→ 1998年以来、需要削減、供給削減、国際協力の3本柱に、健康、開発、人権、新たな脅威の4本柱を加えた。
2017年 12の国連機関による「保健医療の場で差別を解消するための国連機関共同声明」 → 薬物使用および薬物所持の非犯罪化、懲罰的法律の廃止を求めた。
2018年
・国連人権理事会決議37/42「人権に関する世界の薬物問題に効果的な取組み及び対策のための共同コミットメントの実施への貢献」
・世界の薬物問題に効果的に取組み、対処するための共同コミットメットの実施と人権について 国連人権高等弁務官報告書A/HRC/39/39 → 国連人権理事会決議37/42に基づいて提出された報告書
・国連薬物犯罪事務所(UNODC)・世界保健機関(WHO)「薬物使用防止に関する国際基準第2版」→ 幼児、青年初期、青年・成人期の各段階でエビデンスに基づく予防と政策を示す
・国連システム事務局長調整委員会(CEB)「効果的な国連機関間の連携を通じた国際薬物統制政策の実施を支援する国連システム共通の立場」を全会一致で支持 →この年に初めて国連全体で、実質的に人権擁護と健康対策に焦点を当てた公衆衛生アプローチが薬物政策の中心となった。
2019年
・国連システム調整タスクチーム「過去10年間に私たちが学んだこと:国連の薬物関連制度によって得られ、生み出された知見の要約 国連システム共通の立場で分析された報告書
・第62会期国連麻薬委員会「世界薬物問題に対処する共同コミットメントの実施加速化のための国内的,地域的,国際的あらゆるレベルでの活動強化にかかる」閣僚宣言 2009年のウィーン政治宣言以来の国際的な公約メッセージ。次の2029年までの方針という位置づけ
・国連エイズ共同計画(UNAIDS)、世界保健機関(WHO)、国連開発計画(UNDP)らが「人権及び薬物政策に関する国際ガイドライン」を発表 人権と薬物政策の関連を体系的に整理。
・国連薬物犯罪事務所(UNODC)が「薬物と持続可能な開発目標(SDGs)の市民社会ガイド」を発表 国連の各機関が新しい薬物政策における公衆衛生アプローチのための指針を発表
・国連薬物犯罪事務所(UNODC)と世界保健機関(WHO)が「刑事司法制度に接する薬物使用障害者の治療とケア」を発表 有罪又は刑罰の代替手段をまとめた報告書
2020年 国連薬物犯罪事務所(UNODC)と世界保健機関(WHO)が「薬物使用障害の治療に関する国際基準(2020年版)」を発行 これまでの実地試験を踏まえ、健康アプローチの原則と基準を示した。
本学会は、大麻草に含まれる有効成分のカンナビノイドに関する専門学会ですが、国際的な薬物政策の影響が大きいテーマであるため、今後もこのような世界情勢についての有益な資料の和訳および紹介に努めていきます。
日本臨床カンナビノイド学会
2015年9月に設立し、学会編著「カンナビノドの科学」(築地書館)を同時に刊行した。同年12月末には、一般社団法人化し、それ以降、毎年、春の学術セミナーと秋の学術集会の年2回の学会を開催している。2016年からは、国際カンナビノイド医療学会;International Association for Cannabinoid Medicines (IACM)の正式な日本支部となっている。2019年7月段階で、正会員(医療従事者、研究者)67名、賛助法人会員12名、 賛助個人会員23名、合計102名を有する。http://cannabis.kenkyuukai.jp/
配信元企業:一般社団法人日本臨床カンナビノイド学会
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