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「文系学部廃止」騒動の真相から、文系の知が本当に役に立つ論拠、さらに、大学改革への提言までを含めた画期的論考を緊急出版。吉見俊哉著『「文系学部廃止」の衝撃』を集英社新書より2月17日(水)に刊行!



私は本書を通じ、「文系は役に立たないから要らない」という議論ばかりではなく、
「文系は役に立たないけれども価値がある」という議論を批判してきた。
これらに対し、「文系は必ず役に立つ」というのが本書の主張であったのだが、
そのような主張をするには、「役に立つ」とはいかなることかを
問い直す必要があった。「役に立つ」とは、今後五年の経済成長に貢献するといった
手段的な有用性に限定されない。そうした「効用」の論理は、
特定の価値世界のなかの出来事にすぎないのだが、
歴史のなかでは価値の軸は必ず変化する。
高度成長期と現在を比較してもらえば明らかなように、
これまでも数十年単位で価値の軸は変化してきた。
そしてこの価値の軸が大きく変化するとき、
過去の手段的な有用性は、一挙に「役に立たなくなる」。

――「あとがき」より


■集英社新書『「文系学部廃止」の衝撃』
[著者] 吉見俊哉(よしみ・しゅんや)
[発売日] 2016年2月17日(水)
[定価] 本体760円+税
[ISBN] 978-4-08-720823-8
[WEBサイト] http://shinsho.shueisha.co.jp/
【目次より】
第一章 「文系学部廃止」という衝撃

1.瞬く間に広がった「文系学部廃止」騒動
メディアは「文系学部廃止」をどう伝えたか/文科省批判の集中砲火/
海外メディア、産業界からも相次ぐ批判/文科省通知には何が書かれていたのか

2.「通知」批判の背後にある暗黙の前提
通知の内容は一年前に公表されていた/「文系学部廃止」批判の背景/
「儲かる理系」対「儲からない文系」という構図

3.文理の不均衡はいつから構造化?
国立大学における「文系」と「理系」/戦争の時代に導かれた理系重視路線/
現在に引き継がれる戦時の研究予算体制/
高度経済成長によってさらに強まる理系偏重/
ポスト高度成長期によってさらに強まる理系中心の体制/
理系偏重の科学技術政策に対する問題提起

4.法人化後、ますます拡大する文理の格差
国立大学法人化という決定打/文系の弱体化が加速する仕組み/
教育力と研究力の劣化が同時進行

5.「ミッションの再定義」のなかで文系の未来は?
繰り返し求められる「組織の見直し」と「機能別分化」/
国立大学が置かれた危機的状況/文系改革の方向性が見えない/
「イノベーション」の流れから取り残される文系/
「文系学部廃止」騒動からわかったこと


第二章 文系は、役に立つ

1.「役に立つ」とはいかなることか
「役に立たないが、価値はある」は本当か?/
大学は、国に奉仕する機関ではない/大学は、人類的な普遍性に奉仕する/

2.「役に立つ」の二つの次元
目的遂行型の有用性と価値創造型の有用性/マックス・ウェーバーから学び直す/
価値の軸は必ず変化する/理系と文系の「役に立つ」は違う

3.「人文社会系」と「教養」「リベラルアーツ」の違い
「文系=教養」という誤解/文系も理系も含まれる「リベラルアーツ」/
国民国家と「教養」の誕生/「グローバルな教養」は存在するか?

4.大学基礎教育の二〇世紀的変容
「教養」と「一般教育」は同じではない/「一般教育」導入の限界/
「教養教育の解体」はなぜ起こったのか/
「共通教育」「コンピテンス」による「教養」の空洞化

5.人文社会系は、なぜ役に立つのか
「文系」と「理系」の区別はいつから生まれたのか?/
人文社会科学はいかにして分化・独立したのか/
新カント派と<価値>への問い/文化主義への様々な批判的介入/
自分たち自身を疑う知としての人文社会系/
「文系」は長く役に立つ!


第三章 二一世紀の宮本武蔵

1.大爆発する大学をとりまく危機
文系に限らない「大学の危機」/少子高齢化のなかの大学爆発/
志願者マーケティングの隆盛――カンブリア紀的大爆発の時代/
世界規模での大学の爆発

2.大綱化・重点化・法人化――新自由主義のなかの大学改革
大学院重点化と学部・大学院をめぐる日米のズレ/
大学院重点化の二つの帰結

3.誰が大学危機を打開できるのか
国・文科省の役割の限界/産業界の経験は大学改革に有効か/
大学のことは、大学に任せればいい?

4.改革は、どこに向かうのか?
国・文科省は大学の教育改革に何を求めてきたのか/
流動化する社会のなかでの質保証/変革の主体を生成する三つの条件

5.大学は、甲殻類から脊椎動物に進化する
日本の大学を守る五つの壁/甲殻類から脊椎動物へ――ナメクジウオとしての大学

6.二一世紀の宮本武蔵へ
宮本武蔵の二刀流を大学に導入する/米国の「常識」とICUの教育改革/
国立大学の朝鮮と困難


第四章 人生で三回、大学に入る

1.大学は、人生の通過儀礼か?
高校と大学の間に存在する二つの壁/入試改革とカリキュラム・ギャップの関係/

2.人生のなかに、大学を位置づける
入口が最も難しい大学が最良の大学ではない/
入口管理から出口管理への移行は可能か?/人生のなかで、大学を位置づけ直す

3.人生の転轍機としての大学
異常なほど同質的な日本の大学生の年齢構成/
崩壊の瀬戸際にある入り口管理依存の大学教育/人生で三回、大学に入る

4.入学者の多様化と学生を主体化する学び
アクティブ・ラーニングによる授業実践――「アタック・ミー!」を例に/
教師の議論を批判するための五つの段階/
多様な年齢、背景の学生の質保証に必要な出口管理/
大学教育は、量の時代から質の時代へ

5.人文社会系は新しい人生の役に立つ
価値軸が多元化、複雑化、流動化した社会を生きる/
「時間差」で二一世紀の宮本武蔵を育成する/「論文を書く」というメソッド/
先行研究の批判から分析枠組みの模索へ/「ゼミナール」というメソッド

  
終章 普遍性・有用性・遊戯性

坂口安吾の宮本武蔵/宮本武蔵からコペルニクスへ/
一六世紀に近づいていく二一世紀/大学は、戦乱と政変を超える/
有用性の基底にある遊戯性


【著者プロフィール】
吉見俊哉(よしみ しゅんや)
1957年、東京都生まれ。東京大学大学院情報学環教授。
同大学副学長、大学総合教育研究センター長などを歴任。
社会学、都市論、メディア論、文化研究を主な専攻としつつ、
日本におけるカルチュラル・スタディーズの中心的な役割を果たす。
主な著書に『都市のドラマトゥルギー―東京・盛り場の社会史』
『「声」の資本主義―電話・ラジオ・蓄音機の社会史』
『天皇とアメリカ』(テッサ・モーリス・スズキ氏との共著)
『大学とは何か』『夢の原子力』ほか多数。


【問い合わせ先】 集英社広報部 電話03-3230-6314







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