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統合失調症のリスクと生まれ持った「やせ傾向」は関係する?体型と精神疾患



図1

藤田保健衛生大学医学部精神神経科学(愛知県豊明市、学長:星長 清隆、以下 藤田保健衛生大学)の池田 匡志准教授、岩田 仲生教授、名古屋大学医学部附属病院の田中 聡助教を中心に、理化学研究所統合生命医科学研究センター・京都大学医学部と共同で行った体形と精神疾患についての研究の成果を発表いたします。



<論文名>

“Re-evaluating classical body type theories: Genetic correlation between psychiatric disorders and body mass index”

(日本語タイトル:古典的体型理論の再評価:精神疾患とBody Mass Indexの遺伝的相関)

掲載雑誌:Psychological Medicine





■研究成果のポイント

古くから統合失調症を含む精神疾患と、体型に関係性を見出そうとする観察が行われ、その関係性は「歴史的知見」として知られていました。代表的な研究者は、20世紀前半の精神科医であるクレッチマーや、心理学者のシェルドンらですが、彼らは、「統合失調症とやせ型」、「双極性障害と肥満型」などの関係性を提唱し、精神医学分野では教科書にも必ず登場するほど有名です。しかし、科学的根拠は乏しいため、実臨床に応用されることはほとんどありません。近年の遺伝子研究では、体重の個人差に影響する遺伝子多型の解析が進み、生まれ持ったやせ傾向や、肥満傾向と関係する遺伝要因が判明しつつあります。



また、その体重の個人差と関係する遺伝子多型と、他の疾患と関係する遺伝子多型が共通するかどうかを検討する研究も進み、精神疾患においては、統合失調症と低い体格指数(BMI:Body Mass Index)値が相関するという知見が報告されています。本研究では、日本人データと白人データを用い、BMIと精神疾患の遺伝的相関性を再解析・統合的に検討し、統合失調症と低いBMI値(生まれ持ったやせ傾向)の遺伝要因が相関することを確認しました。臨床的に統合失調症患者さんは、肥満との関係性が強く言われていますが、少なくとも遺伝学的には「やせ傾向」と関係する可能性が高く、現在問題視されている肥満は、後天的な要因と関係する可能性を示唆します。

ただし、本研究はあくまで遺伝子解析レベルの結果であり、生物学的メカニズムが明らかになったわけではありません。また、「BMIを高くすれば統合失調症のリスクが下がる」と証明されたわけではないことに留意が必要です。





■研究成果から得られた上記以外の新事実

(1) 双極性障害は、低いBMI値(生まれ持ったやせ傾向)と相関する傾向にあること(クレッチマーらの提唱では、肥満型ですが、逆の方向性となります)

(2) うつ病は、症状のタイプにより、高いBMI値(肥満傾向)あるいは低いBMI値(やせ傾向)と相関する可能性

が示唆されました。



本研究は、藤田保健衛生大学医学部精神神経科学の池田 匡志准教授、斎藤 竹生講師、岩田 仲生教授、名古屋大学医学部附属病院の田中 聡助教、名古屋大学大学院医学系研究科の尾崎 紀夫教授、理化学研究所統合生命医科学研究センター・京都大学医学部の鎌谷 洋一郎チームリーダーらが共同で行った研究の成果です。

この研究は日本医療研究開発機構の脳科学研究戦略推進プログラム「課題F健康脳(うつ病などに関する研究)」、同「臨床と基礎研究の連携強化による精神・神経疾患の克服(融合脳)」、「オーダーメイド医療の実現プログラム」、「先端ゲノム研究開発」、日本学術振興会「科研費」、文部科学省「私学ブランディング事業」の一環として行われたものです。





■研究の背景

古くから精神疾患を診断する補助として、病前の性格や体型に興味が持たれ、多くの仮説が提唱されています。有名な所では、メランコリー親和性気質(まじめで几帳面など)は、うつ病に罹患しやすいというものがあり、臨床的にも受け入れられています。体型との関係も実は有名で、奇妙に思われるかもしれませんが、統合失調症(※1)とやせ型、双極性障害(※2)と肥満型に関係がありそうだ、という仮説があります。特に、20世紀前半に、有名なドイツの精神科医であるクレッチマーや、アメリカの心理学者であるシェルドンらがこの体型仮説を提唱しています。



そして、それらは、精神医学の教科書の中では必ず記載されている歴史的業績でありますが、実際の臨床では、その「感覚」を使用して診断の重み付けを行う、ということはほとんどありません。その理由は明確であり、科学的根拠が乏しいからに他なりません。実際、病前の体型を知ることは過去に遡らないと測定できませんから、体重や身長を経時的に記録する必要があります。しかし、そのような「台帳」のような記録は、世界的に見てもあまりありません(一部、北欧にそうしたシステムはあります)。





他方、最近では、遺伝子解析が盛んとなり、さまざまな病気や体質に関する個人差と関係する遺伝子多型(例えば一塩基多型(SNP)※3)が発見されており、医学の進展に多大な貢献を果たしています。また、個々の遺伝子多型もそうですが、さまざまな疾患との関連性を膨大な数の遺伝子多型で計測する「遺伝的相関解析」も多くの興味深い知見を創出しています。もし、2つの病気や体質が、遺伝的に相関したとすれば、それらは、遺伝情報が共有していることを示し、同じ生物学的な経路を持っている可能性が示唆されます。



この遺伝的相関解析を用いて、精神疾患と体型について解析した初めての報告は白人によるものでした。その中では、統合失調症と生まれ持つやせ傾向(低いBMI値:Body Mass Index ※4)を報告しています。そして、昨年、理化学研究所でも、BMIに関連するさまざまな遺伝子を報告し、また、体型と様々な疾患や体質に関連を調べていますが、やはり統合失調症と低いBMI値の相関を報告しています( http://www.riken.jp/pr/press/2017/20170912_1/ )





■研究の手法

本研究では、白人データと日本人を含むアジア人の遺伝的相関解析の結果を用い、精神疾患(統合失調症、双極性障害、うつ病)とBMIの関係性を再解析し、包括的に解析する手法(メタ解析注5)を用いた検討を行いました。白人データは、精神疾患を対象とした最大規模データであるPsychiatric Genomics Consortiumで報告されている結果(統合失調症:33,640 の統合失調症vs 43,456人の対照者、双極性障害:7,481人の双極性障害 vs 9,250人の対照者、うつ病:130,664人のうつ病 vs 330,470人の対照者)と、BMIに関しては、GIANT Consortiumの結果(最大322,154人)を用いて行いました。



また、アジア人データでは、統合失調症(日本人:藤田保健衛生大学を中心に収集し、理化学研究所で解析:1,987人の統合失調症 vs 9,788人の対照者)、双極性障害(日本人:藤田保健衛生大学を中心に収集し、理化学研究所で解析:2,964人の双極性障害 vs 61,887人の対照者)、うつ病(中国人を用いた結果:Converge Consortiumで収集:5,303人の女性うつ病 vs 5,337人の女性対照者)の関連解析から得られた結果を、また、BMIに関しては、理化学研究所で解析された結果を用いました(Akiyama et al. 2017 Nature Genetics:158,284人)。





■成果の概要

<統合失調症>

白人、日本人ともに生まれ持つやせ傾向(低いBMI値)と統合失調症の発症リスクに相関を再確認しました。また、その統計的な確度はかなり高いものとなりました。この知見は、クレッチマーらが提唱したやせ型と統合失調症の仮説を支持する結果であると言えます。



<双極性障害>

白人、日本人ともに生まれ持つやせ傾向(低いBMI値)と双極性障害の発症リスクに相関傾向が認められました。この関係性は、クレッチマーら提唱したものとは逆の関係性でありました。



<うつ病>

白人では、肥満傾向(高いBMI値)とうつ病が、他方、アジア人では、やせ傾向(低いBMI値)とうつ病が相関関係にあることが示唆されました。この知見は興味深く、白人サンプルでは、非定型うつ病(うつ病期において食欲が亢進する)が一定数含まれている一方、アジア人サンプルは、メランコリー型(うつ病期において食欲が低下する)が多く含まれています。既報によると、非定型うつ病は高いBMI値と相関し、メランコリー型は低いBMI値と相関することが報告されていますので、その結果を支持するものと考えられます。





精神疾患とBMIの遺伝的相関解析の結果: https://www.atpress.ne.jp/releases/153454/img_153454_1.jpg



横軸は、それぞれのサンプル(例えば白人統合失調症)とBMIの相関係数を示します。もし、値がゼロならば、それらは相関がないと言えます。他方、マイナスを示している場合は、負の相関ですから、「低いBMI値」とその診断とが相関があり(つまり、やせ傾向と相関)、プラスを示している場合は、正の相関ですから、「高いBMI値」とその診断とが相関があります。



rgが相関係数の値となり、カッコ内のSeは標準誤差、P-valueは、相関の統計的な指標(帰無仮説(通常は差がないという仮説)が正しい時に、偶然によって観察されたデータ上に差が生じる確率)です。ダイアモンド型がメタ解析の結果であり、その中の●部分が、推定値、線が示す範囲が95%信頼区間となります。





■研究成果の意義

今回の研究成果により、統合失調症と生まれながらのやせ型傾向と相関が認められ、クレッチマーらが提唱した仮説を支持する結果となりました。他方、双極性障害においては、逆方向の相関が、また、うつ病では、病型によって異なる可能性が示唆されました。



1) 統合失調症と低いBMI値(やせ型傾向)について

まさにクレッチマーらが提唱した結果を示しました。精神医学の教科書に載っているが、多くの精神科医は使用していない「歴史的な仮説」が、遺伝学的な解析で支持されたことは興味深く、また驚きがあります。クレッチマーらの見立ての鋭さに感嘆せざるを得ません。

ただし、これはあくまでやせ傾向との相関であり、どの程度やせていたら統合失調症になりやすい、という類いの解釈は困難です。その視点からは何も言えない状況ですので、解釈に注意が必要です。



また、現在、統合失調症患者において臨床的に問題となっていることは、「肥満」です。さまざまな要因が原因として推測されます(例えば、薬物療法で用いられる抗精神病薬の副作用や、発症後のライフスタイルなど)。しかし、今回の結果が真実であるならば、統合失調症の患者さんは、生まれ持つ特性としてはやせ傾向であるわけなので、上述にあげたような後天的要因が、体質よりも大きく影響する可能性が示唆されるわけです。



もちろん、精神科医は、その観点から治療を行っており、より副作用の少ない薬剤を選択しようとしたり、生活習慣の指導を行っていますが、遺伝的体質により「肥満」を起こすというわけではないかもしれないので、今後新たな薬剤の開発などで、「肥満」ということはコントロールされていくことが期待されます。



2) 双極性障害と低いBMI値(やせ型傾向)について

この関係性は、クレッチマーらが提唱したもの(肥満と双極性障害)とは逆の方向性です。解釈は難しいですが、近年は、双極性障害と統合失調症の遺伝的相関も証明されていますので、そのことを反映しているものと考えられます。ただし、ここでの確度は、統合失調症ほどではないので、未だ確定的なことは言えません。



3) うつ病とBMIについて

成果の部分でも述べましたが、うつ病のタイプにより、BMIとの相関が逆向きになることが示唆されます。このことは、言い換えると、うつ病は異質性が高い疾患、すなわち細かく見ていくと、さまざまなタイプが合わさって「うつ病」と診断されていることを示唆するものと考えられます。今後、このような遺伝的な情報を補助情報として用いて、新たな病型分類ができれば診断の向上に繋がる可能性があります。



ただし、本研究結果の解釈において、留意が必要な点があります。例えば、本研究はあくまで遺伝子解析レベルでの統計的相関のみを扱った結果であり、生物学的メカニズムが明らかになったわけではありません。また、BMIを高くすれば統合失調症のリスクが下がると証明されたわけではありません。





※1:思春期以後に発症し、幻覚・妄想といった陽性症状、感情鈍麻・意欲の減退・社会的引きこもりなどの陰性症状、さらには認知機能障害などを特徴とする疾患です。



※2:躁うつ病という名前でも知られていますが、「気分の波[うつ状態を呈する時期(うつ病エピソード)と、躁状態を呈する時期(躁病エピソード)]」を繰り返すことが最大の特徴の疾患です。



※3:遺伝情報は塩基と呼ばれる4種類の化学物質の配列で記録されているが、突然変異が生じた結果、集団の1%以上の頻度で見られる塩基の置換。多くのSNPは機能的意義を持たないが、アミノ酸をコードする領域や、発現などに影響する領域のSNPは、機能に変化を起こすことがある。



※4:体重(kg)/身長(m)2 で表される。肥満ややせ傾向を現す指標。18.5-25が普通体重、25以上が肥満とされる



※5:独立して行われた複数の研究を集約・結合し、effect size(効果の大きさ)を引き出す手法





■研究者概要

〒470−1192 愛知県豊明市沓掛町田楽ヶ窪1-98



研究者:池田 匡志(イケダ マサシ)

藤田保健衛生大学医学部精神医学講座 准教授



研究者:岩田 仲生(イワタ ナカオ)

藤田保健衛生大学医学部精神医学講座 教授



研究概要詳細: https://www.atpress.ne.jp/releases/153454/att_153454_1.pdf

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