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「脱はんこ」に負けない 印影の美追求 64歳職人、個展に向け汗


 印章(はんこ)彫刻で「現代の名工」に選ばれた大阪市の三田村薫さん(64)が「印影デザイン」に焦点を当てた個展に取り組んでいる。はんこの文字の美しさにこだわる職人が生み出すのは、印影を手描きで表現した作品。押印の機会が次々と失われている今、従来のあり方にとらわれない、生き残り方を模索している。【木村綾】

 丸い輪郭の中に流れるような曲線で描かれた篆書(てんしょ)体の文字――。朱肉で押した印影のように見えるが、赤色のアクリル絵の具でフリーハンドで描かれた作品だ。自由闊達(かったつ)に文字を変化させ、何度も配置やバランスを調整して、美しいレイアウトに仕上げる。機械にはできない、唯一無二の表現を生み出している。

 はんことの出会いは20代後半。過労や会社の人間関係が原因でうつ病を患って休んでいた時だった。はんこの卸売業をしていた義父に「はんこを彫ってみたら」と提案され、職人に付いて習い始めると、たちまち夢中になった。手彫りの技術を磨き、1996年に独立。2014年に卓越した技能を持つ「現代の名工」に選ばれ、17年には黄綬褒章を受章した。

 デジタル化とともに、はんこの需要は減り続けている。新型コロナウイルス禍では「リモートワークの邪魔者」として扱われ、「脱はんこ」が急速に進んだ。苦労して身に付け、うつ病からも救ってくれた技術が「要りません」と言われたようでショックだった。

 「今まで通りにしていたらはんこはなくなってしまう。自分は職人だとずっと思ってきたけれど、技術を後世に残すためには、作家にもなっていかないとだめだと感じた」

 実印や認め印といった中にも「美」があることを知ってほしい。重要な契約などに使われるという性質上、披露されることのなかった印影を見せるべく、オリジナルのデザインを「HANKO KIAN」と名付けてブランド化した。自身の雅号「煕菴(きあん)」がいつか海外にも通じるようになればとの願いも込めた。

 23年5月には、大阪市内で初めて個展を開いた。実用的なはんこの展示は例がなく不安もあったというが、5日間で200人以上が訪れ、「印鑑がこんな芸術的な作品に生まれ変わるとは」「自宅に飾りたい」などと反響があった。

 「商品としてのはんこにもう未来がないのなら、そこに醸し出された印影の美しさを後世に残したい」と語る。HANKO KIANの活動を広げるべく、23年末にはクラウドファンディングを通じて、目標を上回る約90万円を集めた。支援をもとに、今年は東京でも「禅語」をテーマにした個展に挑戦する。お客の注文に応じて名前や好きな文言を印影アートに仕立て、販売も始めた。こうした活動に、逆境にあえぐ同業の仲間から「励まされた」という声も届く。

 活動はまだ手探りだが、目指すのは商業デザインとしての活用だ。例えば、日本酒や国産ワインのラベル。「良くも悪くも日本の文化という認識があるはんこは、外国の方に日本をアピールするための材料として使ってもらえるのではないか」とする。「はんこを使わない」と言う人にも作品を見てもらい、印影デザインの新たな活用法を見いだしたいと意気込んでいる。

 個展「はんこと禅語」は東京・銀座のギャラリーSIACCAで5月15~18日に開催。入場無料。問い合わせは三田村印章店(06・6943・8003)。

みたむら・かおる

 1959年、大阪市生まれ。1級印章彫刻技能士。三田村印章店経営。技術講習会の講師や技術競技会の審査員を務め、後進の育成にも力を入れてきた。

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