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「自己責任の原則」巡り意見書対立 埼玉・クライミング事故訴訟


 「自然が相手」に重きをおくか、時代に沿った安全管理重視か――。小鹿野町の二子山(1166メートル)で起きた岩場墜落事故で重傷を負った男性が、町と小鹿野クライミング協会に慰謝料などの支払いを求めた訴訟は、クライミングを巡る「自己責任の原則」が最大の争点となっている。原告、被告双方から3通ずつ出された意見書は、最大の争点に関わる安全性を巡る主張が真っ向から対立している。【照山哲史】

安全確保 整備者の意識改革必要 原告側

「自然相手」行為者自らで 協会側

 「岩場を管理すると宣言した団体が整備した場所で起きた事故。整備した側には一定の責任はある。すべてが利用サイドの自己責任ですむものではない」。原告男性のためにまとめた意見書にそうつづったのは、アイスクライミング界をリードし、スポーツクライミングルート開拓も手掛けた、東京都山岳連盟会長の廣川健太郎さん(64)だ。

 意見書は「自己責任の世界として巻き込んだ側が免責されることは、安全への配慮や注意をおろそかにすることになりかねない」とする。「岩場の安全確保のために、議論すべきタイミング」「司法の判断に委ねる前に、クライマー、登山者がいまの時代の倫理観として作り上げていくべきもの」と提案した。

 廣川さんは毎日新聞の取材に「(事故は)公園を囲む塀に寄りかかったら、塀がくずれて転落したようなもの。塀の設置者に責任がないと考える人はいないでしょう。協会が『自己責任』という形で、事故に向き合わない姿勢を残念に思う」と話した。

 クライミング歴40年、自らルート開発の経験がある男性が書いた意見書は「クライミングは五輪競技種目にもなり、幅広い人がスポーツとして楽しんでいる。昭和時代は冒険や危険を伴うものだったが、今は安全性確保が重要」と指摘。「すべてを『自己責任』で終わらせる時代ではなく、安全への意識の変革が必要な時期。ルート開拓者や整備者は安全意識をより高め、技術やスキルを上げることで、今回のような事故がなくなることを期待したい」と結んだ。

 一方、「クライミング文化にとって危機的状況になる」と考え、被告のクライミング協会側の意見書をまとめたと話したのは、山岳ライターで元クライミングジャーナル編集長の菊地敏之さん(63)。意見書では「自然を相手にしたスポーツまたは野外活動をする場合、イベントなどと違い個人的な活動では、大前提としなければならないのは安全管理責任はすべてその行為者本人にあるということ。(その前提が守られなくなると)自然の中で行われる活動、スポーツは成り立たなくなる」と警鐘を鳴らす。

 更に、クライミングは「『ルート』を個人が開発し、その後のプレーヤーに提供しており、そこに安全責任まで要求されたら、新たなルート開拓に挑む者はいなくなる」と危機感をあらわにし、「クライマーは自らの責任でルートの安全性を確認しなければならない」とした。

 クライミングジム経営で、フリークライミングインストラクター協会代表の奥村晃史さん(54)の意見書も同様だ。クライミングを「非社会的環境で行う冒険」とし、「自然と向き合い危険を察知して、知識や経験と技術で、それを乗り越えていくもの」と位置付ける。訴訟が与える影響については「賠償が認められれば日本のクライミング文化は萎縮し、衰退するとともに、ともすると崩壊する危険すらある」と結んでいる。

 事故は、2022年9月に二子山西岳で岩場のボルトが外れて、クライミング中の男性(当時59歳)が落下して起きた。23年6月に町と協会を相手取り、さいたま地裁川越支部に起こした訴訟は、同年8月の第1回口頭弁論以降、非公開の弁論準備手続きが続く。次回は4月17日に4回目の同手続きが行われる予定だ。

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