全国唯一の刑務所内に設けられた公立中学校として知られる長野県の松本市立旭町中学校桐分校の卒業式が5日、松本少年刑務所（同市）の講堂で行われた。卒業生3人のうち2人が出席し、卒業証書を受け取った。卒業生の一人は「自慢の母校ができてうれしい。多くの方々の支えがあったからこそだと思う」と感謝の思いを口にした。【高橋秀明】
卒業式に臨んだ2人は20代と50代。ともに刑務所内の教室で、1年かけて主要5教科や音楽、美術など中学課程を学んだ。1日7時間の授業に加え、3時間の自主学習が必要なハードスケジュールだったが、一日も欠席せずに学び終えた。
式では旭町中学の林邦彦校長から卒業証書を受け取った。林校長は「皆さんは1日10時間の勉強を積み重ね、この日を迎えた。その努力をたたえる。つらい時、悲しい時、くじけそうになった時は出会った方々の顔を思い浮かべてください」と語りかけた。
もう一度学び直したい、人生をやり直したいという動機で入学した卒業生の一人は「勉強してこなかった私たちにとっては大変だった」としたうえで、「自分に負けてたまるかという気持ちでとりあえず机に向かい続けていると、不思議と苦ではなくなった」と回想。また外部講師を招いての救命救急の特別授業を振り返り、「これまではお金を稼げるか稼げないかで仕事を選んでいたが、消防士さんは一人でも多くの人を助けたい気持ちで働いていると知って恥ずかしくなった。人を助けるための強さや優しさがほしいと思った」と率直に語った。
最後に2人は旅立ちをテーマにした卒業式の定番ソング「道」を歌い、拍手に送られて会場を後にした。
桐分校は1955年の開設。当時、松本少年刑務所では受刑者の8割が義務教育を終えておらず、社会復帰を後押しすることが目的だった。現在では全国の刑務所から希望者を受け入れており、これまでに今年度の3人を含めて776人が卒業している。
