starthome-logo 無料ゲーム
starthome-logo

「38人に1人」の衝撃 ダブルケアの名づけ親はどう見る?


英ブリストル大の山下順子上級講師

 育児と介護がいっぺんに重なる「ダブルケア」。少なくとも子育て中の38人に1人が直面しているとの推計が明らかになった。ダブルケアの「名付け親」で研究の第一人者として知られる英ブリストル大の山下順子上級講師(社会政策学)に、現状や課題についてインタビューした。【聞き手・斉藤朋恵、井手千夏】

 ――今回の集計をどう見ているか。

 ◆少子化で子どもの人口が減っているにもかかわらず、ダブルケアを担う人は確実に増えていることを裏付けた有意義な集計と言えます。社会の中核を担う30~40代を直撃し、経済的な負担が顕著になっていることを浮き彫りにした点も重要だと感じました。

 ――「29万3700人」は、育児をしている人の38人に1人が介護も抱えているという推計になります。実態に近い結果と感じますか。

 ◆この数字はあくまで推計値で、実態の一部に過ぎないと考えるべきでしょう。

 ――なぜですか。

 ◆国の就業構造基本調査は育児の対象を未就学児としていますが、小学生や中学生になっても子育ては終わりませんよね。介護も入浴や排せつなどの身体介護のみを想定していて、見守りや買い物など生活援助のような身近な世話に追われる人は含まれていないからです。

 ――特に注目する集計結果はどこでしょうか。

 ◆無職になっている8万4000人のうち、7割近くが就職を希望している点です。その大半が「収入を得る必要がある」と回答しています。ダブルケアに伴う経済的な負担や就労機会の喪失で、貧困に陥っている家庭が少なくないこともうかがえます。

 ――仕事を持っていても3割超が非正規雇用になっている点も見過ごせません。

 ◆その通りです。私たちが実施した当事者たちへのインタビューでも、育児と介護に追われて時間を失い、経済的に苦しいにもかかわらずパートにしか就けない人が少なくありません。育児のために会社を辞めてパートに変えたら、「もうパートなんだから」と言われて親の介護を引き受けることになった人もいる。非正規の多さは、「ダブルケア労働」がひとりに集中していることや生活困窮と密接に関連しています。

 ――重い負担が女性に偏っていることも明らかになっています。

 ◆労働時間の長さや育児休暇が取りづらい職場の雰囲気、あるいは「育児や介護を主に担うのは女性」という考え方が男性をダブルケアの現場から遠ざけています。男性の責任というよりも、男性がケアに関わりにくい社会制度を問い直す必要があります。さまざまな仕組みを見直し、男女がともにケアの責任と向き合える社会にしていかなければいけません。

 ――新型コロナウイルス禍を経てダブルケアに直面する人の負担がさらに増したという指摘もあります。

 ◆私たちもこれは詳細に分析する必要があると感じています。まず経済的な状況が悪化した人が少なくないとみられます。さまざまな行動制限や経済活動の停滞を受け、非正規という弱い立場で働く場を失ったり、働く時間が減ったりして収入が大幅に減った人も多いでしょう。

 そのような状況で、ダブルケアの負担も増えました。感染拡大で介護サービスが一時的に停止したり、保育施設の受け入れが中断したりして、家庭の中にケアが集中しました。

 一方で、保育士や介護職の方々はコロナ感染のリスクと隣り合わせの緊張状態の中、増加する仕事に見合わない賃金で対応してきました。

 ――少子高齢化や晩婚・晩産化が進む中、ダブルケアが急速に広がっています。適切な支援につなげるために、国や自治体は何から対策を講じる必要があると考えますか。

 ◆日本には、ダブルケアの詳細な実態を追跡した統計がありません。国はまず全国調査で正確な状況や課題を把握することから始めるべきです。ダブルケアの難しさは、担い手が異なるタイプの要求に対して同時に応えなければならないことです。育児と介護の悩みや手続きに関する行政窓口を一本化し、包括的な支援を届けられる仕組みを作るべきだと思います。

    Loading...
    アクセスランキング
    game_banner
    Starthome

    StartHomeカテゴリー

    Copyright 2024
    ©KINGSOFT JAPAN INC. ALL RIGHTS RESERVED.