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視力失った次女に届け、看病の母が病室で描いた「希望の光」


 「せめて絵で外の世界を見せたい」――。目の小児がんを患う3歳の次女の病室で、神戸市灘区の小原絢子さん(34)は、絵筆を走らせてきた。自身の不安をかき消すためにも、未来に希望が持てるようなモチーフを選んで。病の進行で光を失った娘のため、同じ病気で苦しむ人のために描き続けた「希望の絵」は100点を超えた。

 小原さんが、当時1歳4カ月の次女佳純ちゃんの異変に気づいたのは2021年3月のこと。おむつ替えの際、佳純ちゃんの右目の中が白く透けるように光って見えた。病院に駆け込むと、「このままだと失明し、命も危ない」と医師から告げられた。病名は「網膜芽細胞腫」。1万5000人に1人が発症するとされる希少な小児がんだった。

 小原さんは同年8月、手を震わせながら佳純ちゃんの右目の摘出手術の同意書に署名した。手術は成功したが、抗がん剤治療は続いた。その間、付き添っていた小原さんは、病室から出られない娘のため、外の世界を趣味の絵に描いて伝えたいと思った。

 佳純ちゃんが寝静まった病室で、不安に押し潰されそうになる気持ちを奮い立たせ、子どもたちの夢や、笑顔を乗せて羽ばたくクジャクなどをオイルパステルとアクリル絵の具を使って画用紙に描いた。大半がA2判だ。

 テーマは「明るい希望の光」。どんな時でも決して一人ではない、命の光はつながっていく。がんになったことを少しでも前向きに捉えられるようにと、「瞳の中に差す光」や千羽鶴などを画題に選んだ。その一枚一枚に「いい未来が待っているから、佳純、大丈夫やで」と祈りを込めた。残された左目で「きれいな絵」と喜ぶ佳純ちゃんの言葉に、母の心が救われた。

再手術…触って分かる絵も

 だが、22年12月ごろから、左目の視力も低下し始めた。医師からは、がんの転移を予防するための手術を勧められた。

 「お目々と光さん取るけど大丈夫?」「うん、大丈夫」。23年3月に佳純ちゃんは再手術を受け、左目が摘出された。

 視力を失った佳純ちゃんのために小原さんが次に用意したのが指で触って形が分かる「触れる絵」。粘土を使って凹凸を付け、形状を確かめられるようにした。「山、虹、雲……」。佳純ちゃんは、記憶に残る形を手がかりに楽しそうに触れているという。

 「目の前が真っ暗になるようなことばかり。でも、娘の未来は決してそうではないと思えるようになった」と小原さん。描きためた絵は、同じ病に苦しむ人たちの勇気と希望につながればと、佳純ちゃんが入院する兵庫県立こども病院(神戸市中央区)のロビーの通路に展示されている。

 佳純ちゃんは手術後、体調が良いと自宅に戻ることもあるが、大半は病院にいる。闘病は今も続く。小原さんは「つらい治療をしていても笑顔を絶やさず、元気いっぱいな佳純から私自身がパワーをもらっている気がします」。次は、1歳上の長女に佳純ちゃんの病気のことを伝える絵本を描こうとしている。

 小原さんと佳純ちゃんの物語は、始まったばかりだ。【関谷徳】

網膜芽細胞腫

 網膜に発生する悪性腫瘍で小児がんの一種。乳幼児に多く、瞳孔に入った光が腫瘍で反射して白く輝いて見えるため、周りの人に発見される場合が多い。早期治療すれば、生命に関わることは少ない。全盲のピアニスト・梯(かけはし)剛之さんが幼い頃にかかったことでも知られる。

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