全米の俳優らが加入する米映画俳優組合は13日、ストライキに突入すると発表した。映画やテレビ、インターネット配信動画などの大手制作会社が所属する業界団体との間で、待遇改善や人工知能（AI）の利用制限などをめぐる交渉が決裂したため。5月からストを続けている脚本家の組合と合流し、米メディアは「ハリウッドは実質的に閉鎖される」と報じている。
米映画俳優組合によるストは1980年以来。脚本家組合との共闘は60年以来、63年ぶりだという。当時は俳優時代のレーガン元大統領が組合トップを務めていた。テレビ局のほかネットフリックス、アマゾンなどのネット配信大手で放映されるドラマなどの制作も中断され、今後の公開スケジュールに遅れが生じる可能性がある。
米映画俳優組合のフラン・ドレシャー会長は、同日の記者会見で「雇用主は（金融システムの象徴である）ウォール街と貪欲さを優先し、現場を動かしている重要な貢献者たちのことを忘れている」と訴えた。組合側は制作会社に対し、公平な利益の配分や、AIで作られた顔や声を俳優の代わりに使用しないことへの保証などを求めていた。
俳優や作家、脚本家など米国のクリエーターたちは、ネット動画配信やAIの進展がもたらした業界の構造的な変化に大きな危機感を抱いている。脚本家組合は制作側に対し、これまでに組合員がかかわったコンテンツをAIに学習させないことなども要求している。
AP通信によると、米映画俳優組合は16万人以上の俳優や番組司会者などが所属している。今回のストは、テレビなどの番組や映画にかかわる俳優6万5000人に影響するという。組合員の俳優は、新作のプロモーション活動なども停止することになり、日本を含む国外でのイベントにも影響が生じそうだ。
米紙ロサンゼルス・タイムズによると、「原爆の父」と呼ばれた物理学者を描いた新作映画「オッペンハイマー」（クリストファー・ノーラン監督）の出演者らは、交渉決裂の報告を受けて13日に英ロンドンで開かれたプレミア上映中に会場から退席した。この日のイベントは、影響を最小限に抑えるために1時間早めて開始されたという。【ニューヨーク八田浩輔】
