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おもちゃの拳銃構え「みんな無事か!」 4児のママ芸人、TikTokフォロワー34万人


 家事育児、お疲れさまです――。そんな語り出しで「子育てあるある」を発信するインフルエンサーが静岡県富士市にいる。竹田美弥子(みやこ)さん(45)。2年半前から短編動画アプリ「TikTok(ティックトック)」で「竹田こもちこんぶ」として、2歳から小学4年生まで4人の男の子を育てる苦労や喜びを投稿している。母親らの共感を呼び、フォロワー数は34万人を超えた。竹田さんは昨年、人気番組のお笑いコンテストに出場し、参加735組から準決勝進出の38組に残った。地方発ママさん芸人の挑戦を追った。

 ティックトックを開けば、おもちゃの拳銃を構えた竹田さんが画面越しに語りかけてくる。

 <4人の息子を育てています。何と戦っているかって? 夏休みだよ! お母さんたちが心身ともに追い込まれる夏休みと戦ってるんだよ! 宿題やりな、ご飯食べな、テレビ消しな、さっさと寝な! 気付くと終始怒っているよ>

 <みんな無事かー! 私は無事だー! なぜなら夏休みに入ってすぐに家中のおもちゃをゴミ袋にぶちこんで戸棚に葬ったからな。おかげでヤツらは図鑑ばっかり読んでるぜ>

 立て板に水を流すような一人語り。実は台本がある。千葉県出身の竹田さんは、進学した明治大で演劇サークルに入っていた。「昔から内気だったけど、自己顕示欲も強かった」と振り返る。コミカルな動きや喜怒哀楽の豊かな表現力は、役者としての下積みを感じさせる。だが、ティックトックでブレークするまでには、いくつも転機があった。

病気で思い悩み

 最初は大学3年の春。軽い運動で動悸(どうき)や息切れがした。のどが腫れ、だんだん両目が見開いたようになった。病院で検査を受けると、免疫系が自分の甲状腺を異物と誤認することで生じる「バセドウ病」だと判明した。体の異変は典型的な症状だった。

 外見の変化は、明るかった性格を一変させた。「びっくりしてるね」「整形したの」。友人の悪気のない「いじり」が胸をえぐり、「生きていたくない」と思った。突然大声で叫んだり、ふらっと家を飛び出したりしたこともあった。

 発症から数カ月後に手術を受けた。症状は少しずつ回復したが、次第に大学から足が遠のき、一人、自分の部屋で思い悩んだ。そして一つの答えにたどり着いた。「同じ苦しい思いをするなら、自分が選んだことで苦しみたい」。人前で演じることに面白さを感じていた。この時、「絶対に役者になる」と心に決めた。

 在学中にサークルの仲間と劇団を旗揚げし、そこで経験を積みながらプロを目指した。東京・池袋の家賃2万7000円のアパートには風呂がなく、トイレは共同。アルバイトを掛け持ちして何とかやりくりしていたが、大変だと感じることはなかった。

「マイナス」を笑顔に

 30歳でもう一つの転機が訪れた。都内の小劇場のオーナーから、コント芸人の日本一を決める「キングオブコント」への出場を勧められた。勉強がてらにのぞいたお笑いライブ。そこには、自分のコンプレックスや過去のつらい体験を笑いに変えて会場を沸かせる芸人たちの姿があった。

 「カルチャーショックっていうか、単純にかっこよかったんです。なんで今までお笑いやってなかったんだろうって」。「マイナス」を「プラス」に転換することで人を笑顔にするエンターテインメントの世界にあこがれが募った。

 しかし、現実は厳しかった。大手芸能事務所への所属を目標にオーディションを受け続けたが、落選。フリーのまま、ピン芸人日本一を決める「R―1グランプリ」にも参加したが、1回戦を勝ち抜くことができなかった。

 この間に同じ劇団のメンバーだった夫と結婚した。30代半ばになって頭に浮かんだのは、一人の女性として「この先、どう生きるか」ということ。悩んだ末、夫に「子どもがほしい」とうち明けた。

 2014年、35歳で長男を出産し、夫の故郷の富士市に転居した。17年に次男、19年に三男が生まれ、2年前に四男を授かった。母親になってもお笑いに対する熱意は消えず、子どもを抱えてR―1に出場した。「息子を抱っこしてステージに立つから『竹田こもちこんぶ』なんです」

 だが、育児をしながら「ネタ見せ」の場を確保するのは難しかった。「芸人はネタをライブにかけて、本当に受けるものだけを厳選してコンテストの本番に臨む。子育ての合間にライブに出るのはほとんど無理でした」と明かす。

 解決策は身近なところにあった。友人の勧めるままに、軽い気持ちで始めたティックトック。投稿した育児ネタに数百件のコメントが寄せられた。「ティックトックは1分くらいの短い動画が主流で、その尺がお笑いにはちょうどいい。家にいて育児をしながらネタ見せもできる。すごく良い場所をみつけたぞ、と」

 思いがけない反応もあった。「娘がかわいいと思えなくて死ぬことを考えていたけど救われました」「また育児をやろうって思えました」。母親たちが竹田さんの動画に勇気づけられていた。「なつかしいね」と過去の子育てを振り返る年配の女性や、「お母さんにありがとうっていう気持ちを持てた」という女子学生の声もあった。

夜な夜なスマホで

 昨年秋、記者は富士市内にある竹田さんの自宅マンションを訪ねた。ふすまは子どもたちの落書きで埋め尽くされ、部屋も雑然としていた。「掃除は諦めたんです」と、ばつが悪そうに笑った。

 この日の朝、次男と三男を幼稚園に送り出す準備をする竹田さんに、三男は「エレベーターに乗りたくない。階段を使いたい」とだだをこねたらしい。2人を連れて8階にある自宅から階段で1階に下りたところで、次男が言った。「うんこがしたい」。あきれつつ3人で戻った。

 家事や育児に追われる一日はめまぐるしい。子どもたちが寝静まる午後9時ごろから、やっと一人の時間をとることができる。アイデアをノートに書き取り、まずは声に出してみる。テンポや言い回しを工夫しながら、気になる部分を修正して1本のネタに仕上げ、納得がいくまで何度もスマートフォンで動画を撮影する。

 「お母さんの何が大変って、自分の時間が全くないこと。24時間365日、手足を縛られているようなものだから。子育てが、やりたいお笑いにつながっている私は、まだ幸せな方なんです」。地道な動画投稿の成果か、毎年挑み続けた日本テレビ系列の人気番組「女芸人No.1決定戦 THE W」で、初めて準決勝に駒を進めた。

準決勝を終えて

 迎えた12月の本番。緊張を乗り越えて披露した育児ネタで、客席は笑いに包まれた。「おいやめろ、壁に絵を描くな賃貸だぞ! おいやめろ、人前で年齢を聞くな! 『鬼くるよ、お化け出るよ、サンタさん来ないよ!』奴らにダメージを与える言葉だ」――。全力を出し切ったけれど、決勝進出は逃した。家に帰り、悔しさで泣いている竹田さんを夫や子どもたちがなぐさめてくれた。

 年が明けて、うれしい出来事もあった。竹田さんは5人目を妊娠していた。高齢出産の不安はつきない。でも自分の元へ来てくれたことがうれしかった。予定日は9月だという。

母に捧げる応援歌

 「全ての母に捧(ささ)げる応援歌。歌わないけど」。竹田さんのティックトックのプロフィル欄に書かれている言葉だ。動画には、同じように大変な思いをしながら育児に励む母親と子どもたちへの優しさがにじんでいる。記事の締めくくりに、竹田さんがティックトックに投稿した詩を紹介したい。

 <あなたへ インスタにかっこいい写真がのせられないあなたへ こじゃれたカフェで友達とランチができないあなたへ 仕事仲間と派手に打ち上げられないあなたへ>

 <今日1日何を生み出したのかも分からない 髪振り乱し育児して 自分が消えてしまいそうになるあなたを 私は全身全霊で肯定する>

 <育児 それは果てしない無との戦い 育児 それは絶え間ない不自由との戦い ここを越えし者たちを待ち受けるのは大躍進>

 <間違いないよ インスタにのせられない不格好な毎日こそ 価値があるんだ>

 「ママはね、とっても面白い芸人なんだよ」。わが子に胸を張ってそう伝えたい。育児とお笑いに、今日も全力で向き合い続けている。

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