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「女の子」だから、抗議する プーチン政権下のロシアの女性たち


 <フェミニストは戦争に反対します>

 こんなメッセージを掲げるロシアの女性たちによる反戦グループのSNS(ネット交流サービス)に4万人以上の賛同者が集っているという。ロシアでは、ウクライナ侵攻に反対の意思を表明するだけで逮捕される危険がある。女性たちはなぜ活動を続けているのか。【菅野蘭】

反戦メッセージ SNSに4万人の賛同

 <将来、戦争が終わった後には(2月23日に軍人をたたえる祝日)「祖国防衛の日」が廃止されることを望む。(侵攻が始まった)2月24日は、殺害されたウクライナ人を追悼し、ロシアの戦争犯罪を忘れない日となってほしい>

 ロシアによるウクライナ侵攻から1年が過ぎた2023年2月25日、こうロシア語でつづった文面がインスタグラムに投稿された。アカウント名は「フェミニスト反戦レジスタンス」。

 グループの中心の一人は、ロシア人作家で詩人のダリア・セレンコさんだ。政府批判の言葉や社会問題を書いた紙やボードを持って公共交通機関に乗る「静かなピケ」運動などをしたフェミニストとして知られる。

 そのセレンコさんが、図書館や美術館など、ロシア国立の文化施設で働いた経験から書いた小説の邦訳が2月に出版された。「女の子たちと公的機関 ロシアのフェミニストが目覚めるとき」(エトセトラブックス)だ。

 作品では「女の子」という表現が用いられている。ロシアの公的機関で働く人たちが、年齢やジェンダーも問わず「女の子」のようにひとくくりに扱われている、という状況を指す。「女の子」たちが、使い捨てられる労働力として働く中で社会への違和感を抱き、フェミニストとして目覚めていく様子を描いた21年の作品だ。

 プーチン露大統領の写真を市民が出入りする各部屋に掲示するよう求められたり、「女の子」たちの行動が監視されたりしている様子も登場する。

 翻訳したロシア文学研究者の高柳聡子さんは、ウクライナ侵攻が始まったとき、セレンコさんの小説に「戦争に向かう社会の空気が描かれている」と気づいた。

 当時、セレンコさんは、反プーチン派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏を支持したフェイスブックの投稿が原因で逮捕されていた。刑務所内からSNSを更新し、侵攻開始とほぼ同時に出所。侵攻翌日の25日には「フェミニスト反戦レジスタンス」を発足させた。

 発足当時は主要メンバーは1人を除き匿名だった。しかし、高柳さんは発足宣言の文体からセレンコさんが中心に動いていると確信したという。「女性たちが本気で反戦のために立ち上がったと感じた」と振り返る。

激化する女性への攻撃とフェミニズム運動

 逮捕などの危険もある中、なぜ反戦活動を続けられるのか。高柳さんは動機について「いま暴力を振るわれている人がいるのだから、救わなければという思いです。ドメスティックバイオレンス(DV)をなくす活動の姿勢と全く同じ」と説明する。

 もう一つ重要なのは通信手段だ。反戦運動に参加するフェミニストたちは、ロシア発の通信アプリ「テレグラム」を利用してきた。秘匿性の高さで知られ、互いに連絡した証拠を残しにくい。ロシア当局の監視の目をくぐり抜け、ウクライナから避難してきた女性たちを支援したり、反戦のメッセージを発信したりしてきた。

 高柳さんも活動への支援を考えた。しかし、対露経済制裁の影響で日本からは物資や金銭を送れない。代わりに彼女たちの活動を日本語で発信したり、記事を書いたりしている。「女の子たち」の出版も、出版社のサイトで紹介したところ、邦訳の要望が多数届いて実現した。

 高柳さんによると、現在のロシアのフェミニズム運動は、10年代以降に文学と社会活動の両方で育まれたものだという。

 1991年のソ連崩壊後に欧米の思想が受容され、フェミニズムの研究者が登場した。女性の文学も広く評価されるようになり、若い世代の作家や詩人が、旧来のロシア文学にとらわれず性の問題について書くようになった。

 一方、ロシアでは13年に「非伝統的性的関係(同性愛)」について未成年に「宣伝」することを禁じる法律が成立した。17年にはDVを非犯罪化する法改正もあった。こうした情勢を背景に女性支援団体の活動が活発化し、フェミニズム運動にも火が付いたという。

 「女の子たち」の著者のセレンコさんも、LGBTなど性的少数派の活動家たちの休息の場「フェムダーチャ」を運営していたが、脅迫などが相次いでやむなく閉鎖した。セレンコさんも現在はロシアを出国し、外からメッセージを発信している。

◇「今こそ自分ごととして感じて」

 「女の子たち」の日本語版への序文で、セレンコさんは深い後悔を吐露している。ロシアは14年にクリミアを併合し、そのころからウクライナ東部で起きた武力紛争に加担していた。しかし、ロシア国民を含め世界の各国もそれほど関心を払わなかった。当時から今のような厳しい非難があれば、22年からの戦争が起きることはなかった、との思いだ。

 そうした罪悪感は、日本に住んでいる私たちにとっても決して人ごとではない、と高柳さんは感じている。政府は防衛費増額の方針を掲げ、23年度当初予算の防衛費も過去最大となった。気づかないうちに日本も戦争へ歩み出しているのではないか、と考えるからだ。

 「大きな政治がそばにいたのに、そっぽを向かれていたから私たちは気付かなかった。政治は生活にダイレクトに影響しているのに、なかなか気付けない。彼女たちの後悔に私たちも学ばないといけない」

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