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重度障害訪問サービス、四国で低調 11市で実績ゼロ 「介護難民」も


 重度障害者が見守りや外出支援などの介護を長時間受けられる障害福祉サービス「重度訪問介護(重訪)」について、2021年度は四国の全38市の半分以上で利用者がいないか、利用時間がわずかだったことが各自治体への取材で分かった。重訪は在宅生活を支えるための「命綱」だが、県都と他の市とで格差が大きい。「介護難民」状態から逃れるため、都市部への移住を余儀なくされた当事者も出ている。

 各市の障害福祉担当部署に電話や文書で、21年度に重訪を利用した実人数と延べ時間(いずれも月あたり)の実績を尋ねた。全市から回答があり、計11市(高知5、愛媛4、徳島、香川各1)で利用実績がなかった。利用があった27市の中でも計11市(高知5、徳島、香川各3)で1人当たりの月平均利用時間が100時間未満で、1日当たりでみると数時間と短かった。人口が少ない市や都市部から遠い市で利用が少ない傾向があり、町村部ではさらに普及していない可能性がある。

そもそもニーズ把握せず

 ヘルパーに自宅で長時間にわたって比較的自由に支援してもらえる重訪は、利用できなければ家族の介護負担が過大になったり、在宅生活を諦めて施設入所や入院を選ばざるを得なくなったりする。

 4県庁所在地では、松山市が利用の実人数で最多で、1人あたりの平均時間でみても最も長く利用されていた。一方、高知県の11市では、高知市を除くすべての市で利用がないか1日平均数時間以下だった。松山、高知の両市の担当者は、県内の他の自治体から介護や医療の体制がより充実している市内に転居してきた重訪利用者がいると明かした。

 重訪の利用実績がないか少なかった自治体からは「夜間に働けるヘルパーがいない」「県庁所在地と違って事業所がなく、市外からヘルパーに通ってもらうのは難しい」「人手不足で1人が利用すると他の人が使えなくなる状況」などの声が多かった。「利用希望を聞いたことがない」など、そもそもニーズを把握していないとした市も複数あった。

ALS患者、在宅生活のため転居迫られ

 「すごく不安でさみしかった」。松山市でヘルパーの手を借りながら一人暮らしをする筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の井上裕子さん(54)は、親や友人のいる故郷を離れた心境を、視線入力装置を使って語る。

 愛媛県新居浜市で生まれ育ち、地元で商売をしていた井上さんは、39歳で全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病のALSを発症。進行は遅く、介護保険サービスなどを利用して自宅で生活していたが、同市には全身の介護が必要となったALS患者を受け入れられる事業所がなかった。自宅での生活を続ければ、同居していた高齢の母の負担が過大になる。在宅生活の方法を模索していたところ、日本ALS協会愛媛県支部を通して松山市の事業所「ぐっどらいふ」を知り、45歳で同市への転居を決めた。

 自身について「命ある限り人の手を借りないと生活できない」状況だと語り、転居した時の心境を「ぐっどらいふを信じて松山に来るしか選択肢がなかった」と振り返る。現在受けているサービスの支給時間は1日約19時間。同事業所がボランティアで埋めている3時間ほどを含め、1日約22時間を10人ほどのヘルパーが支えている。松山で子育てをしている2人の子どもも含めて家族の手はほとんど借りずに済むようになった。

 だが課題は多い。井上さんは目などを除き全身がほぼ動かず、言葉も発せないため、本来は2人介助も含めて1日24時間以上の支援が必要だ。ヘルパーが付き添わず1人で過ごす数時間の間に、首が傾いて呼吸が困難になってしまえば助けを求める手段はない。また、常にヘルパー不足で夜間は男性ヘルパーしかシフトに入れないためトイレに行きたくても我慢せざるを得ず、昼も行動の選択肢が少ない。今でも、介護体制の充実した東京など都市部への引っ越しを考えることもあるという。

「担い手が働きたいと思える状況を」

 障害者の地域生活に詳しい青森県立保健大学の高阪悌雄(やすお)教授(福祉社会学)は「居住・移動の自由は憲法で保障された基本的人権に不可欠。居住場所が障害のために制約される要因を国や自治体が取り除かなければ基本的人権の侵害に当たる」と語る。一方、障害福祉サービスの利用状況に詳しい京都府立大学の中根成寿准教授(障害学)は地域の事業所などの介護の担い手に着目し、「重訪は夜勤ができる人材が多く必要で、現状では大学があるなど若い人が多い地域しか広まらないのは当然」と指摘。「報酬単価を今の3、4倍程度に引き上げるなど、一般的な事業所や介護人材が重訪のサービスを提供したい、重訪で働きたいと思えるような状況を作らない限り現状は変わらない」と話した。【斉藤朋恵】

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