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「結局なにを食べればいい…?」粗食ブームの後に肉ブーム、次々に登場する健康食、その裏側に迫る




バブルが弾けたあと、「食べ放題」が一世を風靡したことは以前書いた。1995年からは、食べ放題とは対極的な食べ物がブームを巻き起こした。「粗食」である。



 



 



■粗食ブームの火付け役



 



粗食の意味を広辞苑で引くと「粗末な食事をすること。また、その食事」とある。そんなものがブームになったのである。いま振り返ると、不況を象徴するような出来事だった。



 



ブームのきっかけは、95年7月刊行の『粗食のすすめ』(東洋経済新報社)。飽食をやめ、粗食に戻れば、健康になって長生きでき、しかもスマートになれると説き、売上140万部のベストセラーになった健康本である。



 



それからというもの、『粗食のすすめレシピ集』『「粗食」とは生きること』『プチ粗食のすすめ』『外でも粗食』『粗食で生き返る』……と、シリーズ本が続々と発売されて、なんと累計300万部。ブームは長く続き、著者の管理栄養士、幕内秀夫は“粗食のカリスマ”となって、多数の信奉者を集めた。



 



戦前までの日本人は総摂取カロリーの約90%を主食から摂り、おかずは塩辛い漬け物を中心に、少ししか食べなかった。炭水化物に偏った食習慣が原因で、平均寿命は男女とも40歳代と低く、塩分の摂りすぎによる脳溢血や胃病が多かった。



 



その反省から、戦後には厚生省(現厚生労働省)主導による栄養改善運動が展開されて、たんぱく質と脂質の摂取量が増え、炭水化物の比率は減った。とくに顕著なのが、食生活が欧米化して、肉と油脂をたくさん食べるようになったことである。



 



この本は、その栄養改善運動こそが、日本人の健康をむしばんだ元凶だと批判する。欧米型の食事が栄養的にすぐれているという「錯覚」から抜け出して、日本の伝統的な食を見直そうというのがテーマだ。ほとんどの病気は間違った食生活が原因で、生活習慣病が急増し、アトピーなどのアレルギー疾患が蔓延しているのは、肉や乳製品など、洋風の食品を食べすぎているためだとした。



 



具体的にいうと、肉と牛乳とパンを食べるのをやめて、主食は玄米(あるいは未精製の米や雑穀でもOK)、それに漬け物と味噌汁をしっかり食べれば、おかずは野菜と魚を少しだけでよい。つまり粗食とは、おおむね戦前までの食事(※1)である。



 



実は、玄米と菜食で健康になれるという考えは、けっして目新しいものではなく、明治時代から食養生法として人気があった。マクロビオティックも、その仲間だ。健康食にあんまり興味のない人でも、玄米と野菜には、なんとなく体によさそうなイメージを抱いていると思う。



 



だが、この本が画期的だったのは、ご飯さえちゃんと食べていれば、三大栄養素のバランスはおろか、栄養素にこだわる必要はない明言したこと。書き方はおだやかで読みやすいが、栄養学の常識を真っ向から否定する爆弾本だったといえる。



 



「たんぱく質の多食は不完全燃焼を起こす」「白砂糖は心も狂わせる」など、衝撃的な話も多く、行きすぎた食の欧米化や肉中心の食生活に、なんとなく疑問や不安を感じていた人たちは、思わず「やっぱりそうだったのか」と納得させられた。



 



 



■粗食ブームに引き起こされた余波



 



粗食がブームになって、どんなことが起こったかというと、2000年代後半から「新型栄養失調」が問題視されるようになった。「野菜は肉よりヘルシー」「年をとったら動物性たんぱく質を控えよう」という考え方が普及した影響で、見た目は激やせしているわけではないのに、血液中でもっとも重要なアルブミンが低下している人が、高齢者だけでなく若い女性たちにも多いことがわかってきたのである。



 



それ以降、「健康と長寿の秘訣は肉」という考え方が、力を持つようになって、ついには“空前”と呼ばれる肉ブームが起こった。



 



いまでは粗食の旗色はよくないが、それでも「伝統的な食事は体にいい」と信じている人は、まだまだ多い。食料自給率を上げる意味でも、お米はきちんと食べたほうがよいかもしれないが、過ぎたるは及ばざるがごとしで、やっぱり栄養バランスは大切。過激な健康食や健康法は、カルト的になることもある。気をつけよう。



 



ちなみに、『粗食のすすめ』の翌96年のベストセラー総合1位だったのは、プラス思考と食事(納豆が最高の脳活性化食品とされる)、瞑想などで脳内モルヒネの分泌を促せば老化が防止できると説いた『脳内革命』だった。不況の時代には、このタイプの健康本が売れる傾向があるようだ。



 



 



(※1)戦前も、白米を食べていたので、そこが違う。戦中には白米が禁止され、1943年から玄米が配給されるようになった。総理大臣の東条英機は率先して玄米食運動を唱導したが、各家庭では白米食べたさに、玄米を一升瓶に入れて棒で搗き、糠を落としてから炊いた。玄米はたしかに栄養価は高いが、炊飯には白米の2倍の時間がかかり、消化吸収率が非常に低く、よく噛んで食べないと下痢をしやすいのが欠点。


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