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妻であり母であり、ひとり息子は19歳…それでも“男”として生きなおしたい【昏いものを抱えた人たち】


ノンフィクションライター亀山早苗は、多くの「昏(くら)いものを抱えた人」に出会ってきた。自分では如何ともしがたい力に抗うため、世の中に折り合いをつけていくため彼らが選んだ行動とは……。性の自認はむずかしい。自分が男であるとか女であるとかを一度も疑ったことのない人もいるだろうが、中には揺れてしまう人もいるのだ。肉体が性を決定するわけではない。本人さえ惑ってしまうことがあるのだから。



 





■妻で母だけど……



 



「妻で母ではあるけれど、私は本来、男で産まれるべきだったような気がしているんです」



 



カナコさん(47歳)はそう呟いた。大学を卒業して就職してからは着実にキャリアを積み重ねていたが、27歳で結婚。翌年出産してからは体調を崩し、職場復帰ができなくなった。それでも子育てをしながら少しずつ仕事を始めた。



 



「夫は仕事が第一で週末も職場に行くような人。研究職で仕事が大好きだからしかたがないんですが、そのおかげで私は完全にワンオペ状態。子どもが小学校に上がるころ、また心身共に調子がおかしくなって入院しました」



 



夫は子どもを自分の実家に預けた。カナコさんは2ヶ月ほど入院したが、その間、夫が来たのは3回だけ。子どもを連れてくることはなかった。



 



「実は私自身、いろいろ事情があって実家と縁が切れているんです。義父母ともなじめなくかったから、私が退院したとき、義父母は子どもを返してくれませんでした」



 



実家近くに住むなら返すと言われ、カナコさんは夫と子どもとで夫の実家近くに移り住んだ。だがそれをいいことに、夫はますます仕事に没頭、週末しか帰宅しなかった。



 



「私は週に3回くらいパートで働いていました。どうも自分が思ったような人生を歩めていないので、カウンセリングにもかかるようになりました。そこで少しずつわかってきたのが、私は自分が女であることを嫌悪しているということでした」



 



 



■男として生き直したいけれど



 



子どものころから「女の子」として扱われることがしっくりこなかった。女だから男性と結婚しなければいけない、妊娠したら子どもを産まなければいけないと思ってきたが、それは果たして自分が望んだことなのだろうか。考えれば考えるほど、自分の「生きたい」人生ではなかった。



 



「私、男になりたかったんです。それがわかってからは、どうやって男になればいいのか、そればかり考えてしまう。ひとり息子は19歳。一年浪人していますから、来年、大学受験です。こんな大事なときに、私は男になりたい欲が強くなっている。そんな自分にも嫌悪感を覚えます」



 



今は自分の本当の気持ちを誰にも言えない。息子が成人したら、いや、独立して家を離れたら男として生きることを考えてもいいのではないか。ただ、そのときカナコさんは50歳を過ぎている。



 



「そこから男として生き直すのは大変なことですよね。私にできるんだろうか。そう思うと怖いんですが」



 



おそらく夫とは離婚せざるを得ないだろう。息子も離れていくかもしれない。



 



「今思えば、ずっと自分の体にも心にも違和感があった。どうして自分の素直な気持ちを認めなかったんだろう。そう思います。親との関係が複雑だったので、自立して生き抜くことを最優先させてしまったんですが……」



 



結果、自分の気持ちが見えなくなってしまったのかもしれない。彼女と長時間、話し込んだ。彼女の葛藤と不安が手に取るように伝わってきた。


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