他人にやさしいひとでありたい。みなさん、そう思っていることでしょう。そんなあなたに起こりうる、毎朝の通勤電車でのひとコマ。

 

 

■「混んでる通勤電車に乗るんじゃねえよ!」

 

途中、停車した駅でドアが開いたままなかなか発車しません。頭をめぐらせて様子をうかがうと、となりの車両で車椅子、もしくはベビーカーが乗り込もうとして手間取っているようです。混んでる通勤電車に乗るんじゃねえよ! 迷惑だろが、チッ!

 

おやおや、舌打ちですか。他人にやさしくないあなたのような乗客をなだめるために、車掌が車内放送で謝罪します。

 

「電車が遅れまして、お客様には大変ご迷惑をお掛けしました」

 

なんたるヒドい仕打ち。車椅子やベビーカーの乗客は、「通勤電車を混雑させてやるぞウヒヒ」なんてイジワルをしに来たのではないでしょう。その日、その時間に電車に乗らねばならない理由があったから仕方なく利用したんです。なのに、電車の定時運行を妨げ、他の乗客に迷惑をかけた犯人として、車内放送で責められるんです。

 

 

■奇妙な「遅延証明書」

 

ところで、なぜあなたは、通勤電車に車椅子やベビーカーが乗り込んできたことにイライラしたのでしょう。電車が混むから? 違いますね。だって乗り込んできたのはとなりの車両です。

 

あなたが舌打ちするほどムカついた真の理由、それはもちろん、電車が遅れるかもしれないから。電車が遅れると会社に遅刻するからですよね。では、なぜ会社に遅刻してはいけないのでしょうか。

 

あなたの会社では、全員揃って午前9時ジャストから「いっせいのせ!」で始めなければならない業務があるのですか。それ、だれかが5分遅刻しただけでシステム全体がダウンするほど緻密な作業なの?

 

電車が遅れて遅刻したとき、鉄道会社が発行する遅延証明書を提出しなきゃいけないって日本の習慣も奇妙です。なんで日本人はそこまで同僚や部下を疑うか。だったら社員が忌引きで休んだら、死亡証明書を提出させるのですか。出がけに子どもがグズって会社に遅刻したら、子どもから遅延証明書をもらうのですか。

 

 

■実は時間にルーズだった日本人

 

過去には、電車の遅れを取り戻そうと運転士がスピードを出した結果、死亡者が出る大事故を起こした例もあります。遅刻ギリギリで学校に駆け込んできた女子高生が、勢いよく閉められた校門の鉄の門扉に挟まれて死亡した例もあります。海外のメディアはこの事件を、命よりも時間厳守を大事にするなんて、日本人はクレイジーだと報じました。

 

もともと日本人は時間にルーズ、というかおおらかな民族だったことが、江戸時代に来日した西洋人の日記や手紙からわかります。

 

彼らは日本人が約束の時間を守らないことに腹を立ててました。そりゃしょうがない。西洋人は時計を使って分単位で動いてましたが、日本人は季節ごとの日の出・日の入りをもとにした、現在の30分くらいを単位とする、おおざっぱな時間感覚で生活してたんですから。

 

事情が変わったのは、明治時代末期から大正時代にかけてのこと。日本政府は国をあげて、時間厳守を徹底するべく指導をはじめました。で、これがどういうわけか尋常でない効果を発揮します。時間にルーズだった日本人が、たった20年くらいで、時間を守りすぎる国民へと変貌したのには、驚くばかり。

 

昭和初期に鉄道局は、東京の通勤電車の殺人的混雑を緩和するため、時差出勤をしてくれと繰り返し要請してました。しかし応じる企業はありませんでした。すでにこのころ、日本人は定時出勤に異常な執念を燃やすようになっていたのです。

 

 

■遅刻しても「生産性」は落ちない

 

こうして日本人は、時間を守るという新たな美徳を身につけました。ただし、それと引き替えに、時間を気にせず他人にやさしくする余裕を失ってしまったように思えます。

 

工場労働者を効率的に管理するために大正時代にはじまった「遅刻厳禁」という労務管理を、いまだに日本企業はなんの疑問も差し挟まずに続けてます。でもそれは、すべてを人力に頼っていた時代の方法論です。

 

機械化や遠隔通信手段が発達したいまの時代、社員の遅刻を徹底管理したところで、生産性への影響は微々たるものでしょう。製品の品質検査でデータ改ざんをやってたことがバレて業績不振に陥った企業は何社もあるけど、社員の遅刻で株価が暴落したなんて話は聞いたことがありません。

 

もしも日本人が遅刻を気にしなければ、電車の運転士は多少の遅れを気にせず、安全運転をしていたはずです。女子高生が校門で挟まれて死ぬこともなかったはずです。通勤電車に車椅子やベビーカーが乗ってきたら、舌打ちせずに手伝ってあげられます。遅延証明書のチェックなんてどうでもいい労務管理もなくせます。

 

とりあえず、10分や15分くらいの遅刻を許す働き方改革、意識改革をしてみませんか。そうすれば日本人は、もっと他人にやさしくなれるんです。

情報提供元:citrus
記事名:「遅刻を許せば、日本人はもっとやさしくなれる