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【今週の大人センテンス】○○をあぶり出す「万引き家族」と是枝監督への批判


写真:Best Image/アフロ


巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。



 



第100回 真っ当な対応を非難される社会



 



「公権力(それが保守でもリベラルでも)とは潔く距離を保つというのが正しい振る舞いなのではないかと考えています。」by是枝裕和



 



【センテンスの生い立ち】



第71回カンヌ国際映画祭で、是枝裕和監督・脚本・編集の「万引き家族」が最高賞のパルムドールを受賞した。7日の参院文教科学委員会で林芳正文部科学相が野党議員から「政府は是枝監督を祝福しないのか」と質問され、「(文科省に)来てもらえるか分からないが、是枝監督への呼びかけを私からしたい」と答えた。この答弁を受けて、是枝監督は自身のHPに「『祝意』に関して」と題した文章を掲載。映画と公権力との関係についての自身の考えを表明した。



 



【3つの大人ポイント】




  • 映画人として当然で真っ当なスタンスを示した

  • 「右」と「左」の両方に向けて異議を唱えている

  • 助成金へのお礼を述べつつ、要望を述べている



 



重苦しい物語だけど、どこかさわやか。出口や答えが見つからないからこそ、希望や救いが見えてくる――。カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した「万引き家族」は、そんな映画です。見終ったあとは心の中に複雑な感情が渦巻き、さまざまな刺激が自分の深いところをつついて、いつもは忘れていることを呼び起こされずにはいられません。映画にせよ小説にせよ歌にせよ、それがエンタテインメントの醍醐味でありありがたいところです。



 



8日の公開以来、客足も好調のようです。この映画を観た人たちが自分が抱いた思いを語り合ったり、まだ観ていない人に「面白かったよ。観るといいよ」とオススメしたりといった素敵な光景が、これからどんどん広がっていくことでしょう。しかし、残念な雑音も混じってきてしまいました。政治から距離を置こうとしている是枝監督の思いとは裏腹に、政治的な主張にからめて映画とは関係のない批判をしたがる人が湧いてきています。



 



友達を減らすだろうなと思いつつ書きますが、是枝監督の「公権力(それが保守でもリベラルでも)とは潔く距離を保つ」という姿勢が批判されてしまっている騒動は、今の世の中を覆っている空気のうっとうしさを象徴し、あちこちにいる「ちょっと残念な人」「信用しないほうがいい人」をあぶり出していると言えるでしょう。



 



タイトルの○○には、ストレートに「バカ」を入れてもらってもいいし、ひとひねりして「絶望」や「劣化」でもよさそうです。批判的な立場を取る自分を肯定したい方は、よかったら「知性」や「誇り」を入れていただいてもかまいません。本文の内容とはかけ離れてしまいますけど、とりあえず仮想のタイトルで留飲を下げて、あとは大目に見てください。



 



そもそも「万引き家族」というタイトルの映画が外国で注目を集めたことにも、ケチをつける人がたくさんいました(作品も観てないのに)。日本がこういう貧しい国と思われたら恥ずかしいとかみっともないといった理由だとか。なんかもうどこからどう説明していいのかわかりませんが、世の中や人間のいろんな面を描いて観る人の心を豊かにしてくれるのが映画の役割です。きっとケチをつける人は、きれいな部分や自慢したい部分だけを描くのが映画だと思っているのでしょう。そんな独裁国家の国民みたいな人がたくさんいる国だと思われるほうが、よっぽど恥ずかしくてみっともない気がします。



 



それ以上に残念でタチが悪いのが、政治家が「祝福してやるから来い」と呼びつけたことを是枝監督が辞退したことに対して、非難の声がたくさん上がったこと。国会で上のようなやり取りがあったその日のうちに、監督は公式HPに「『祝意』に関して」という文章を載せ、そこで「(そういう申し出は)全てお断りさせて頂いております」と書きました。国会で「祝福しないのか」と質問するほうも「呼びかけたい」と答えるほうも、自分の人気取りに利用しようという魂胆が見え見えです。映画監督はいい映画を作るのが仕事だし、その役割は十二分に果たしました。政治家の人気取りに付き合う義理はありません。



 



その文章の最後に、監督は「今回の『万引き家族』は文化庁の助成金を頂いております。ありがとうございます。助かりました」と書きました。非難する側はそこをとらえて、鬼の首を取ったように「金をもらっているんだから素直に言うことを聞け」という理屈をドヤ顔で振りかざします。なんかもうどっからどう説明していいのかわかりませんが、それがいかに恥ずかしくてみっともない言い種か、言っている人は気が付かないんでしょうか。



 



まず、お金を出しているのは正確には芸術文化振興会という独立行政法人で、おもに民間企業や個人の資金で成り立っているという前提があります。百歩譲って国が税金で資金を出していたとしても、何でも言うことを聞かなければいけない筋合いはありません。先ほども書いたように、映画監督の仕事はいい映画を作ることであり、いい映画が生まれるには、国の意向を忖度するのではなく、いろんな表現が許されるというのが必須の条件です。



 



そして、もし税金だった場合、それを出しているのはいろんな考えを持った国民で、政治家や役人ではありません。たまたま予算の権限を少し持っている市役所の課長代理が、さも自分のお金のような顔をして、業者に無理難題を押し付けるのと構図は同じです。「お金をもらっているんだから素直に言うことを聞け」と言いたがる人は、日頃から小さな権力を振り回して業者をいじめたり、自分が客になったときだけやたら威張ったりするタイプなのでしょうか。あるいは、いじめられたり威張られたりしている側なのでしょうか。



 



少し前、ある女優さんがSNSに、広告の仕事で露出の多い撮影をする日になると、いつもはいないスポンサーの人がたくさんスタジオにやってくる、という話を書いていました。「金を出している側のいうことを聞け」という非難は、その日だけスポンサーの人が増えるのと同じセコさがベースにあります。「会社に給料をもらっているくせに文句を言うな」「誰の金で養ってもらっていると思っているんだ」あたりのセリフも同類。早くも「過去の話題」になりつつありますが、その手の非難がめぐりめぐって、監督やコーチに言われたら善悪の判断を見失ってしまう構図を作り出していると言えるでしょう。



 



是枝監督は、映画人としても人としても真っ当なスタンスを貫きました。「このことを巡る左右両派!のバトルは終わりにして頂きたい。映画そのものについての賛否は是非継続して下さい」と、「右」と「左」の両方に向けて異議を唱えているところも、ひじょうにアッパレ。作品でたくさんの刺激を与えてくれただけでなく、毅然とした態度でも私たちにいろんなことを考えさせてくれました。あらためて御礼申し上げます。



 



 



【今週の大人の教訓】



小さな力を振り回すのが好きな人ほど、大きな力には従順である(逆もまたしかり)


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