【コンピューターゲームの20世紀 67】ゲームの世界に入り込んだ主人公が目にする衝撃の結末とは? 『moon』
その後も国民的RPG『ファイナルファンタジー』『ドラゴンクエスト』の最新シリーズが発売されるなど勢いはとどまるところを知らず、次世代機戦争に完勝。最終的には全世界生産出荷台数1億台以上という驚異的な記録を打ち立てた。また、ソフトウェアの全世界生産出荷台数は9億本以上と言われている。流通や販売、広告戦略についても過去のハードとは一線を画すものであり、それらのほぼ全てが奏功したといっていいだろう。
挑戦者らしい野心あふれる戦略は個々のソフトにもよくあらわれている。いわゆる音ゲーのはしりとされる『パラッパラッパー』、原始人となって自由気ままに生きる『太陽のしっぽ』など、新しいジャンルの作品が幾多も登場し、それまでゲームに興味のなかった層を一定数取り込むことに成功した。
一方、既存のジャンルでも従来のそれとはひと味異なるゲームが数多く発売されたのも初代PSの特徴であろう。今回はそのひとつである『moon』を紹介したいと思う。アスキーから1997年に発売された本作のキャッチコピーは「もう、勇者しない。」。本作はRPGでありながらも(公式にはRemix RPG adventureと表記)、RPG自体を風刺した一風変わった作品である。
ゲームは本作の主人公である少年が8bit風RPGをプレイするシーンから始まる。ゲームに没頭する少年だったが、母親から「ゲームなんてやめて早く寝なさい!」と促され、しぶしぶ中断する羽目に。しかし、何故か消したはずのTVが点いていることに気づいたその瞬間、少年はブラウン管の中へ突如吸い込まれてしまい、ゲームの世界へと迷い込んでしまうのであった。
さて、ここからが本編。以降は異世界での話となるのだが、この世界での勇者は、モニター前のカッコいい姿とは裏腹に、経験値稼ぎや自身の強さを顕示するため人畜無害の動物を無駄に殺し続け、さらには他人の家に無断で入り込んでアイテムを略奪することもある困った人。月の光を食べてしまったとされる竜を退治するという大義名分はあるものの、傍若無人なその振る舞いから、この世界の住民からは嫌われている。
そんな世界に降り立った少年は、ある晩枕に現れた月の女王から、「ラブ」を集め、光の扉を開いて欲しいと告げられる。ちなみに本作にはRPGでありながら戦闘要素は一切存在せず、実質的にはこのラブ集めが経験値稼ぎの要素を担っている。また、主人公には体力等のステータスも存在しない代わりに行動できる時間に制限が設けられており、画面左上に表示されたアクションリミットが0になると行動不能となりゲームオーバー。アクションリミットが限界に近づくとヘタリ状態となって移動速度が落ちてしまうので、常に余裕のある行動が求められる。なお、リミットの上限はラブを集めレベルアップすることで徐々に伸びていき、途中からは丸1日行動できるようになる仕組みだ。
では、ラブを獲得するにはどうすればいいのか。その方法は主に2つ。1つ目は勇者に殺された動物の魂を救済すること。これは「ソウルキャッチ」と呼ばれ、動物の死骸の近くを彷徨っている魂をキャッチすることで、一定数のラブを得ることができる。ただし、動物たちの魂はじつに様々な形で出現するのでひと筋縄ではいかない。近寄ったら一目散に逃げ出すこともあれば、特定の方法、特定の時間にしか姿を現さない動物もいる。よく観察していればソウルキャッチの方法がなんとなく分かることもあるし、ある住民との会話でヒントを得られる場合も。
ラブを得るための2つ目の方法、それは住民の悩みを解決することである。異世界「ムーンワールド」に住む多くの住民にはラブが宿っており、個々の悩みを解決することでラブを獲得可能。「ソウルキャッチ」に対し、こちらは「ラブキャッチ」と呼ばれる。しかしながら、住民の悩みを解決するのはかなり骨が折れる作業だ。何故なら本作には時間及び曜日の概念が存在するだけでなく、それらが合致したうえで、かつ特定条件を満たさなければならないものが多々あるためである。
ラブキャッチに失敗した場合、ゲーム内で一週間待たされることもあり、さらにそれが連続イベントになっている場合もあるなど相当な根気がいる。とはいえ、その一連の作業こそが本作の醍醐味でもあり、たとえばディープ・パープルの「ハイウェイスター」を密かに練習している洋楽かぶれの住人・バーンの場合は、彼が間奏部分をひっかからずに演奏できる、つまり彼のギタープレイが上達した瞬間を主人公が目撃することで、ラブを得られるといった具合だ。
彼以外にも本作には個性豊かな面々が多数登場する。当初は勇者が殺した動物の魂を神と崇めていたのだが、後に自ら神を名乗るアダー、縛られるのが大好きな変態大工のニッカ、怪しいキノコでトリップしながら意味深な言葉を吐くフローレンスなど、怪しすぎる住人がわんさか。
ややもすれば反RPG(特に日本のRPG)部分が強調されがちであるが、このように本作の魅力は決してそれだけではないので、未体験の方はぜひお手にとっていただければと思う。ただし、現在はやや入手困難かつ価格も若干高めなのが難点。
(内田@ゲイム脳)
■DATA
発売日…1997年
メーカー…アスキー
ハード…プレイステーション
ジャンル…Remix RPG adventure
1997 (C)ASCII Corp. (C)LOVEDELIC
【記事提供:リアルライブ】
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