「4月15日」この日は何の日か、皆さんはご存知でしょうか?実は「イリオモテヤマネコの日」という、なかなかにセンセーショナルな日であります。沖縄県八重山郡竹富町に属する、豊かな自然に恵まれた西表島に生息するイリオモテヤマネコが、1965年4月15日に新種と公表。これにより「竹富町西表島にのみ生息する国指定特別天然記念物イリオモテヤマネコ」の発見から50年を記念、同町が2018年の4月25日に制定を発表しました。

このイリオモテヤマネコという動物については、様々な情報メディアでご存知の方も多くおられることでしょう。この動物が生息する西表島という場所についても近年、多くの関心が集まっています。その一方でイリオモテヤマネコを含めた環境の保全という面にも多くの注目を集めており、この課題に企業のプロジェクトとして、アウトドア・フットウェアブランドとして近年人気を高めつつあるKEEN(以下、キーン)が推し進める「Us 4 IRIOMOTE」が4月15日、「イリオモテヤマネコの日」より始動することが発表されました。

西表島、その計り知れない魅力と、島に訪れる危機

今回のプロジェクトの発端は、プロジェクトを始動したキーンジャパン合同会社(以下、キーンジャパン)のジェネラルマネージャーである竹田尚志さんが2016年に石垣に出向き、それに合わせ水牛の撮影を行おうと、初めて西表島に行ったことがきっかけだったとのこと。この島のイメージというと、やはり一番のイメージは絶滅危惧種のイリオモテヤマネコが真っ先に来ると思われますが、この島の魅力はそれだけではありません。太古から続く原生林、日本最大面積のマングローブ林という豊かな自然。そして島にある独自の長い歴史、文化と、知られざる魅力はまさに未知数であります。そんな魅力を守るため、今回のプロジェクトは発足しました。プロジェクトは現在西表が直面する様々な課題を考えることから発足しました。

2013年には石垣空港が新設、西表島も近年の訪日観光客の増加に伴い、観光客の来島は目に見えて急増しているといいます。特に2020年にはオリンピック東京大会が行われ、さらに同年には「世界自然遺産」登録が行われる見込みもあり、相当数の観光客同課が見込まれています。この増加は近年「オーバーツーリズム」と呼ばれる現象も考えられ、奥地の入域人数増加、交通量の増加といった、現地の自然に対する影響、生態系や植生へのダメージなど、様々な問題、課題が提起されています。

西表島では、移住者の増加に加え観光客の増加により、イリオモテヤマネコの交通事故死の件数が急増、2018年にはこれまでで最高の9頭が亡くなったと報告されています。現在イリオモテヤマネコの生息数は、西表島の中で約100頭といわれており、9頭はその10%ほど…と考えると、かなり大きな数であることがわかります。また、西表島の生態系を考えると、イリオモテヤマネコは島内の生態系の頂点にあたるため、猫の数が減るということは生態系にも大きく影響してくることは明確であります。

一方、島内だけでなく近年は海洋からのプラスチックゴミ(漂着ゴミ)も増加傾向にあります。西表島にはゴミ処理設備などはないため、こういったことも島内の自然環境には大きく影響してくることになります。

「知ろう」「守ろう」「話そう」「残そう」4つの柱に従い行われるプロジェクト

さて、このプロジェクト「Us 4 IRIOMOTE」ですが、まず「Us」という言葉には英語「Us」にある「私たち」という意味と、日本語の「明日(あす)」という二つの言葉を掛けて「他のツーリストに向けて発したい」という思いが込められているといいます。その発したいものが、次の「4」という数字で示されています。それは4つのキーワード「知ろう」「守ろう」「話そう」「残そう」というもので、プロジェクトの具体的な方向を示しています。

「知ろう」では、LNT(Leave No Trace:“跡を残さない”の意)ワークショップなどによる啓蒙活動を指します。これは事前の計画やゴミの適切な処理、影響の少ない場所での活動、最小限の焚き火の影響など、入島からいかに自然に影響を及ぼさず、度を行うかを考えるもの。「守ろう」では、具体的な自然の保全活動をサポート。イリオモテヤマネコを守るため、パートナー団体の活動「JETF西表島支部 やまねこパトロール」の支援や、ゴミ回収の積極化を狙う「530(ゴミゼロ)アート・プロジェクト」など、自然の保護に向けた積極的な活動を行うものとなります。

また「話そう」では、イリオモテヤマネコの保護啓蒙活動のサポート、シンポジウム開催など、「知ろう」をさらに推し進め、人々が積極的に参加する意向をサポート。特に“観光によって地域に起こる課題に目を向け、現地の自然環境や文化にリスペクトをもって観光を行う”という「エシカル・ツーリズム」という考えは、その啓蒙の中でも最も大きな思想となります。そして最後に「残そう」ですが、“今残っているものを、できるだけ忠実に残したい”という思いに沿って、西表島の今を映し出したドキュメンタリー映画を製作。現在2020年に公開予定となっています。

プロジェクトでは、こうした4つの柱に従った活動を、様々なパートナー団体とともに実施していきます。またプロジェクトでは発足とともに、プロジェクトの活動に活用されるフットウェア「UNEEK EVO」の売り上げや協力パートナー、有志者からの支援、クラウドファウンディング、チャリティーグッズ販売などにより構成される「Us 4 IRIOMOTE」基金を立ち上げ。様々な活動を展開していきます。

西表島の環境における「エシカル・ツーリズム」

また、この日はプロジェクトに参加する様々な関係者がゲストで登場、「エシカル・ツーリズム」にのっとったもろもろの思いを語っていただきました。ドキュメンタリー映画の監督を務められているシネマトグラファーの中程長治さんは石垣島の生まれで、西表島の様々な魅力に広く触れられており、島の魅力をたずねられると「すべてが美しい」と感じられる中でも、日が昇る前、沈む前に飛ぶ野鳥・アカショウビンが現れる時期などで、本当の時の流れを感じられるような、そんな雰囲気に深く惹かれているそうです。

環境省・西表野生生物保護センター勤務の竹中康進さんは、島内の西表野生生物保護センター(IWCC)に勤務し西表石垣国立公園の保護管理、イリオモテヤマネコの保護、世界自然遺産関係などの業務を行われています。

竹中さんは「オーバーツーリズム」という面に関して「トイレが少ない」「自然の中にたくさんの人が立ち入ることで、環境に影響を及ぼす」などの環境変化に加え、観光に必要なガイド要員の問題を提起。「島内にはガイドもたくさんいるが、一部にはマナーが悪い人も現れてきている」と自身ならではの視点による課題を語られました。こうしたもろもろの問題に対して環境省としては「自然に入っていく際に、場所によって上限をつくる仕組み」づくりや、ガイドの登録制度を設けるなどの活動を進める意向があることを示されていました。

「やまねこパトロール」を行っている認定NPO法人「JTEF トラ・ゾウ保護基金」の理事長・戸川久美さんのお父さんは、イリオモテヤマネコの発見者である、動物学者の戸川幸夫さん。ご自身が子供の頃に、政府より依頼を受け、2年半ほど自宅でイリオモテヤマネコとともに暮らしたという経験の持ち主とのこと。その頃のことを、世間でセンセーショナルな反響があった一方で「庭にケージを用意して飼っていたんですが、臭いもするし…本当に野生の臭いというか、ペットの猫とは全く違う。近くに行っても馴れないし、私にとっては全然かわいくない猫でした」などと振り返られました。しかしその“馴れない”という性格は、実は重要なポイントでもあります。

近年西表島では同一個体のイリオモテヤマネコが、同一箇所で発見されることが多くなってきているといいます。それは、イリオモテヤマネコが人に懐き始めていることの表れともみられるのですが、島の生態系を維持する上では、あまり人と猫の距離が近づき過ぎるのもどうか、という考えもあります。その意味では、生物との接し方という点も考えていくことが必要な点ではあります。

また「アウトドアシューズメーカーが、なぜこういうこと(活動)をやられているのか?」とたずねられ、竹田さんは「私が(そういったことが)好きだから」などとサラリとコメントしつつ「(キーンのビジネスは)アウトドアがあって初めて成り立つビジネスですから。楽しんでもらって、心が晴れ晴れするような体験を、靴からしていただきたいというのが私たちの思い。その楽しむフィールドが無くなるのは、我々としては死活問題でもありますし」と語られていました。今回のプロジェクトが、企業としての思い、個人としての思い、そして社会的なあるべき姿への追求という面がうまく重なっているという印象もあります。

本プロジェクトでは西表島という場所での活動に焦点を置いていますが、これは例えばほかの観光地などでも十分に当てはまるものであります。「エシカル・ツーリズム」の考えは、社会的にも今日多く提唱されている内容でもあり、非常に大切な思想となるでしょう。こうしたキーンジャパンの活動は、その思想をさらに深く考えさせてくれるものとなるに違いありません。

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Fujisan.co.jpより

情報提供元:マガジンサミット
記事名:「フットウェアブランド・キーン提唱の「エシカル・ツーリズム」を啓蒙する「Us 4 IRIOMOTE」に注目!