1982年に公開されたSFホラー映画の傑作『遊星からの物体X』がデジタルリマスター版として劇場に蘇る。実に36年ぶりとなる全国公開は10月19日から。

監督は、「ハロウィン」「ニューヨーク1997」等の名作で知られるジョン・カーペンター。主人公のヘリ操縦士役には、のちに「バックドラフト」に主演するカート・ラッセルを起用している。

物語

極寒の南極アメリカ観測基地に、ノルウェー観測隊のヘリコプターに追われて一匹の犬が逃れて来る。ヘリを降りた男は何か叫びながら犬を撃ち殺そうと銃を乱射したため、アメリカ隊員はたまらず男を射ち殺してしまう。

実は、犬の正体は10万年前に宇宙から飛来し、氷の下で眠っていた生命体で、接触した生物に同化する特殊能力をもっていた。アメリカ観測隊員は12名。1人、また1人と接触され人間の姿のまま成りすまし、そして怪物に姿を変えて人間を襲う。やがて隊員たちは目の前の仲間が人間なのか、それとも人間の姿をした化物なのか、互いを疑いながら過ごすことになる・・・。

36年前のクオリティ

 
コレを“好きな映画ベスト10”に挙げる人は結構いると思う。私もそんな一人である。

観たことがないという若者は多いかもしれないが、36年経ってデジタルリマスターとして復活するほどコアな人気を誇る作品であり、また2012年には、本作のストーリー前に起こったノルウェー基地での出来事を描いた「遊星からの物体X ファーストコンタクト」(監督:マティス・ヴァン・ヘイニンゲン)が作られるほどなので、その根強い人気加減が伺えるだろう。

あるサイトの書き込み欄を見ると

「30年以上前の作品で、CGとか使っていないからリアルな感じが出てる。生き残っている隊員が人間なのか侵された生物なのか、わからないのがゾワゾワする」/10代男性

「マンガ『寄生獣』のモチーフとなった映画と聞いて観てみたけど、内容が全く違っていて怖かった」/20代女性

「宇宙から来た生命体なはずなのに、蟹か蜘蛛みたいな変化はあるが、頭・胴体・足といった動物的な生物ではない形に変わるのが斬新。本当に未知な生物というのが不気味」/20代男性

――――― 最後のコメントに補足を付け足すと、例えば映画「プレデター」や「エイリアン」は姿カタチをハッキリ見せて人間を襲撃するが、この映画では最後まで地球外生物の原型の姿が出てこない。なので生命体としか表現ができず、ソレに名前さえつけることができない。

映画の正式タイトル「The Thing(物体)」もシンプルでミステリアスだが、邦題「遊星からの物体X」はとても的を射たタイトルで、“X”はまさにワケのわからない物体としか例えようがないのである。

B級映画と嘲笑われたが

HiVi(ハイヴィ) 2012-12-17 発売号
Fujisan.co.jpより

36年前当時は、生物の生々しい死体や惨殺シーンなどをグロテスクに描写する“スプラッタームービー”が大量に制作されて人気となった。特にグロテスクさを売りにした正統派ではない映画や、低予算で作られた映画なども含め、それらは「B級映画」とくくられ呼ばれるようになった。(※本来のB級映画の由来は、低予算の映画が貸料金の安いBスタジオで撮影されていたから、という説が有力)

この「遊星からの物体X」もいわゆるB級と評価された。しかし、一部の映画ファンから高評価を得てじわじわと人気が高まっていった。

人間と生命体と同化し化物になった姿はまさしくグロい。CGがない時代、アナログな特殊技術で未知の生命体を作ったわけだ。ある人は「チープ感があって完成度が低い」と言い、ある人は「動きのぎこちなさが今までにない生命体感に見せる」と褒めるなど、賛否が分かれた。

確かに、隊員の血液を採取し謎の生命体に同化しているかを検証する緊迫したシーンで、化物に姿を変えた隊員が仲間を襲い高々と持ち上げたカットで、その仲間は腕や足の関節がない人形だったのは、ちょっと苦笑した。更に、クライマックスで登場する巨大な生命体も動作のクオリティは低かったかもしれない。

仲間を疑う心理

本作が未知の生命体のグロさ(特殊効果)を推した作品だったらここまで人気にならなかったはず。この作品の妙味はストーリー性にあると思う。観ながら頭の片隅に必ずあるのは、「こいつは人間なのか?」「こいつはもう接触して人間じゃないのでは?」という“疑惑”。

それはさながら、推理小説「そして誰もいなくなった」のような、この仲間の誰が犯人なのか?を探す感覚にも似ている。そして「七人の侍」のように、本当に敵を倒せるのか?誰か生き残れるのか?というサバイバルマッチの様相も見えてくる。SFホラー映画とジャンル分けしているケースが多いが、自分の感覚ではミステリー、サスペンスが強い。

ライバルは「E・T」だった?

余談だが、アメリカでの公開は1982年6月25日。実は、その2週間前の6月11日に、スティーブン・スピルバーグ監督の「E・T」が公開されている。かたや、宇宙から来た奇妙な物体が人間を襲う古典的なSFホラー。かたや、人間と宇宙人の友情を描いたSFファンタジー。

どちらもユニバーサルスタジオ製作・配給だが、「E・T」は興行収入全米で約3億ドル、日本では135億円で当時の歴代1位を記録するなど世界的大ヒットとなった。

「遊星からの物体X」は記録より記憶に残る映画と評価するのは失礼で体のいい言葉かもしれないが、例えば今、時を同じくして「E・T」もデジタルリマスター版を上映したとして、どちらかを選択しろと言われたら、「遊星からの物体X」を選ぶ人が多いのではないだろうか。それは“なぜ?”と疑問に思ったら、ぜひ劇場へ足を運んで接触してみて欲しい。

情報提供元:マガジンサミット
記事名:「【遊星からの物体X】がデジタルリマスター版で劇場に蘇る。36年前の映画がなぜ今も人気なのか?