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赤ちゃんは遊びのなかで何を楽しんでいるのか [理論編] (note)



今回は臼井 隆志さんの『note』からご寄稿いただきました。

※元記事タイトルは「赤ちゃんは遊びのなかで何を楽しんでいるのか [理論編(1)]」です。


赤ちゃんは遊びのなかで何を楽しんでいるのか [理論編] (note)


こんにちは、臼井隆志(@TakashiUSUI)です。ここでは「子どもの探索活動」をキーワードに認知・発達・振る舞いについてのリサーチ過程を公開していきます。


(自己紹介はこちら)

「はじめまして」2018年1月6日『note』

https://note.mu/uss_un/n/nb0b87b03c94d


前回の記事*1 では「赤ちゃんは遊びのなかで何を楽しんでいるのか」を知るために、赤ちゃんの観察をはじめたこと、そこから見えてきた赤ちゃんが没入する行動を10個あげてみました。なんとなく「赤ちゃんはいろんなことを考えながら試している!」ということを感じていただけるかと思います。


*1:「赤ちゃんは遊びのなかで何を楽しんでいるのか [ 観察編 ]」2018年1月10日『note』

https://note.mu/uss_un/n/n0859c4992bd8


今回は「赤ちゃんが遊びのなかで何を楽しんでいるのか」という問いに対する考え方を整理していきたいと思います。


文献リサーチ!!!!


ぼくは子育て経験もなければ、発達心理学の専門家でも、認知科学の専門家でもありません。それでも、赤ちゃんと関わる仕事を3年続けています。赤ちゃんの感じている世界を想像することは容易ではありませんが、関わりを続けていくこと、そして赤ちゃんについて発達心理学、認知科学、脳科学、感覚統合理論などなどの書籍を読んでいくことで少しずつ赤ちゃんと何かを共有している実感を得られるようになっていきました。


今回は今まで読んできた書籍の一部をご紹介しますが、雑な紹介なので読み飛ばしていただいてOKです!(赤ちゃんについて学ぶためのブックリストもそのうち作ろうと思います)


(1)『乳幼児の発達 運動・知覚・認知』

「乳幼児の発達―運動・知覚・認知」『amazon.co.jp』

https://www.amazon.co.jp/dp/4788512823/ref=cm_sw_r_cp_ep_dp_9-StAb9CW33X8


まずは、発達心理学の礎を築いたジャン・ピアジェの理論を、その直系の弟子であるジャック・ヴォークレールがまとめた乳幼児の発達についての研究概説。ピアジェの発達段階論における「感覚運動期(0~2歳の乳幼児期)」の説明が特にわかりやすかったです。


そこには「1歳から1歳半頃までのあいだに、ものごとの因果関係を理解していく」という説明が出てきます。あ、そうか、因果関係を理解、、、していないんだ!最初は!と思って、ハッとしたのがこの本でした。(ピアジェの理論については別の記事で詳しく書きます)


(2)『感覚と運動の高次化から見る子ども理解』

「障害児の発達臨床〈1〉感覚と運動の高次化からみた子ども理解」『amazon.co.jp』

https://www.amazon.co.jp/dp/4761407042/ref=cm_sw_r_cp_ep_dp_5.StAbXF7AZ12


ピアジェの理論をつきつめ、モンテッソーリ教育の思想もひきついで「感覚統合理論」としてまとめ、発達障害の臨床に適応させた宇佐川氏の30年以上にわたる研究。「はらばい」「おすわり」といった姿勢の制御から、視覚・聴覚・触覚などで物を認知し、予測し、操作するまでのプロセスを細かい段階にわけています。


特に面白いのは「遊びの始点と終点」という考え方。赤ちゃんの遊びは繰り返しが基本なのですが、それを始点と終点で分節してみるとわかりやすいです。


例えば、寒天つぶし遊びのとき、11ヶ月の男の子が、集中して寒天を指で押す、ぐぐぐぅーっと寒天に力が加わって、ぷちゅっと指が入る。それを見てにカーッと笑う。これを何度も繰り返していたことがあります。(まじで100回ぐらいやるんじゃないかという勢いで、30回ぐらいやってました)ここには、神経を集中して人差し指を立て、寒天に注意を向けるところが始点、指が入ったのを感じてニカーッと笑うところが終点になります。この始点と終点を繰り返します。


今ではこの考え方に則って、赤ちゃんの観察をふりかえるときに、頭の中に録画された赤ちゃんの行為を読み込み、編集ソフトのタイムライン上で始点から終点までトリミングしてループさせるような感覚で、その行為を記述をしています。(感覚統合についても別の記事で。)


(3)「How brain science will change computing」

https://www.ted.com/talks/jeff_hawkins_on_how_brain_science_will_change_computing


これは書籍ではなくTEDから。ここでは脳の主な機能は「記憶と予測」であるといっています。脳は物事のパターンを記憶し、順序を記憶することができるため、「このパターン、この順序に従えば次はこうなる」と予測ができるようになる。だから脳の主な機能は記憶と予測だ、という主張です。(脳についても、今勉強中です…)


なるほど「予測」か。宇佐川先生の本でも登場した「予測」が脳科学の視点からも言われていて、なるほど、と。さきの始点と終点も、因果関係の理解も、予測と確認あってのものか。そして「パターンの記憶」ってピアジェのいう「シェマ」だよな…ぶつぶつ言いながらこの動画の内容を咀嚼していたときに「わかった!」という感じがしたのです。


赤ちゃんは [予測と確認] を楽しんでいる


赤ちゃんが遊びのなかで何をしているのか。日々の観察と、いくつかの理論をひもといて到達した一つの見立ては「赤ちゃんは遊びのなかで[予測と確認]を楽しんでる」ということです。


例えばこんなこと。





もちろんこんな単純なことばかりではありません。しかし、ある種のリズムやパターンがあるものを繰り返し楽しむことが多く、それは [予測と確認] なのでは?と考えると、赤ちゃんたちの行為への想像の解像度がぐぐっとあがります。


[予測と確認]の前後で一体何がおきているのかをもうちょっとだけ細かく見てみます。「ボールを落とす」を例にとってみてみましょう。月齢はだいたい生後10ヶ月から12ヶ月くらいの子です。



予測を確かめるために、運動をしてみます。(ボールをつかんではなす)

その運動に物が反応します(ボールが重力に従って落ち、床に当たり、音がなり、跳ねる)

この物の反応を感覚がとらえます。(ボールの動きを見て、音を聞く)

それによってはっきりと確認することができます(ボールが落ちたということがわかる)


そもそもなぜ予測ができるのかというと、赤ちゃんはいろんなものを見て触れて経験してきたことを記憶していて、その記憶から予測を立てることができるようです。


さらに、予測と運動の間には「計画」があります。思考し、計画を立て、運動を実行します。なんか、プログラミングっぽいですよね。こうしたいというイメージがあり、スクリプトを書き、実行する。確認してみて予測との誤差があったらデバッグする。


たった1~2秒の行為ですが、このように細かく見れば、記憶→予測→計画→運動→物の反応→感覚→確認というサイクルで行為が生まれていると言えます。年齢が上がれば上がるほど、より先のこと、複雑なことの[予測と確認]をするようになっていきます。


この[予測と確認]は、「ボールを落とす」というような物理現象だけでなく、「いないいないばあ」のような遊びや、「こうやったら怒るかな?」「やっぱり怒った!」というような対人行動まで、あらゆるものに当てはめることができます。他者との関係のなかで愛着をつくりだすことにおいても重要な役割を担うと思われます。


また、全く記憶に書き込まれていないような新しいもものに出会った時はどう振る舞うのか。これは「片栗粉絵の具に出会ったときの赤ちゃんの興味・不安・葛藤・勇気」というテーマで、また別の記事で書こうと思います。


大人も毎日 [予測と確認] をしている



よく考えればぼくたちも毎日、活動しているほとんどの時間に[予測と確認]をやっているんですよね。例えば、iPhoneをスクロールしてこの記事を確認しているいまも、指で画面を動かせるということを知っていて、「文字を下まで読んだから画面を動かそう → 動いた」「動かそう → 動いた」ということを繰り返しています。もちろんほぼ無意識ですが。



あるいは階段を上る時。階段の段差の高さがどれくらいで、足を乗せる段差の幅がどれくらいかを目で見て確認して、自分の体のスケールから想像してどれぐらい脚をあげればいいか、足をどこに下ろせばいいか、重心をどう移動させるのがいいかを予測し、実行しているはずです。


駅の階段などはだいたい高さや幅が一緒なので予測が簡単でスイスイ登れますが、山道の中にある岩でできた段差などは高さや幅が段差ごとにちがうので、予測と確認に一苦労します。


この予測と確認の複雑さをスポーツにしたのがボルダリングだと考えてもいいかもしれません。新しい壁を登るとき、ホールドの位置や形状を目で見て確認し、予測を立てながら実行し、失敗すればやり直す、ということ、それ自体を楽しむもの。(このあたりのことをピアジェが「同化」「調整」「均衡化」といった言葉を使って説明をしてくれています。そのあたりは次回の記事で書きます)


ちなみに2歳児は、傾斜70度ぐらいの凸凹のついた壁をのぼろうと試みます。そのとき壁の凹凸をじっと見て、手でさぐり、ここだと思ったところに手をかけ、壁に体をあずけながら足を上げ、足先で突起を探すか、目で足元を見て引っ掛けられる場所を探します。自分の身体の状態と、壁の突起の状態を視覚や触覚で確認し、次にどうすれば上にいけるかを予測しながら身体を動かすのです。


こうして見てみると、ぼくたち大人も毎日している(けど当たり前すぎて意識しなくなってしまった)ことを、赤ちゃんたちも毎日やっています。そう気づいたとき、赤ちゃんが何かの行為に没入しているときに、何を確認し、何を予測しているのか、どのように計画をしているのかを想像するその解像度が少し上がったように思います。


ふりかえれば、日常生活のなかで「あ、この行為の[予測と確認]おもしろい」と思ったものを、赤ちゃんが遊びやすいようなスケールに翻訳してみる。そうやってこれまで赤ちゃん向けのワークショップを開発してきました。


いつ、どこで、だれと、どうやって学ぶの?


さて、こうやってちょっと考え方が整理されたところで、新たな問いが浮かんできます。


「赤ちゃんはどうやって [予測と確認] を学んでいくの?」


「赤ちゃんの [予測と確認] は成長とともにどう進化していくの?」


「赤ちゃんはたった一人でこうした [予測と確認] を学んでいくの?(んなわけないよね?)」


なぜ、どうやって、いつどこでだれと、こうした遊びを学びとり、できるようになっているのか。ひとつひとつ考えていきたいと思います。


次回、理論編(2)として、ピアジェの「感覚運動期」についてご紹介します。


https://note.mu/uss_un/n/n73f9fc79ffd0


赤ちゃんの探索環境デザイン 目次



1. 赤ちゃんは遊びのなかで何を楽しんでいるのか[観察編]

https://note.mu/uss_un/n/n0859c4992bd8


2. 赤ちゃんは遊びのなかで何を楽しんでいるのか[理論編(1)]

https://note.mu/uss_un/n/n5f79a2a7d3db


3. 赤ちゃんの探索の世界はどのように変化していくのか[理論編(2)]

https://note.mu/uss_un/n/n73f9fc79ffd0


4. 赤ちゃんと関わるときのマインドセット(1)

https://note.mu/uss_un/n/n2324d5b49943


5. 赤ちゃんと関わるときのマインドセット(2)

https://note.mu/uss_un/n/n7ffcd07cb92d


6. 赤ちゃんの探索の世界はどのように変化していくのか[理論編(3)]

https://note.mu/uss_un/n/nee9bc123c61d


7. 赤ちゃんの好奇心・不安・葛藤・勇気


8. なぜ「五感を使うのが大事」と言われるのか[理論編(4)]


9. 赤ちゃんは全身をどうやって使っているのか[理論編(5)]


10. 赤ちゃんの探索と触覚の科学


11. 「いないいないばあ」はなぜ面白いのか


12. 探索環境デザイン[実践編]



 

執筆: この記事は臼井 隆志さんの『note』からご寄稿いただきました。


寄稿いただいた記事は2019年10月6日時点のものです。


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