(文・インタビュー=平田真人/『キネマ旬報 2019年6月上旬特別号』より転載)

増村保造監督に導かれて

リーゼントにサングラス、ツナギ服。ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの風貌は、宇崎竜童自身のパブリックイメージとしても多くの人に焼き付いていた。それだけに、「曽根崎心中」(78)の徳兵衛が彼だと知った人々の驚きは、かなり大きかったようだ。宇崎も当時を思い出し、苦笑いしつつも懐かしそうに逸話を語り出した。

宇崎:「本格的にセリフのある役をいただいた初めての作品でしたが、最初から徳兵衛が僕に決まっていたわけではなくて。増村保造監督とプロデューサーで何か映画をつくろうというところから、主役の梶芽衣子さんの相手役を誰にするかというミーティングが何度かあって、最後に名前が挙がったのが僕だったんです。それで監督と何回かお会いしたんですけど、そのたびに『これを読んでおいて』と文庫本を何冊も渡されて。そしたら、ある日電話で『近松門左衛門の心中ものをやります』と。僕は当初、紀伊國屋文左衛門と勘違いしていたんですけど、どっちにしても時代劇だと気付いた時、サングラスを外して芝居することに『ハッ』となったんです。率直に、素顔を晒してしまうのはアウトでしょ(笑)」

だが、撮影のスケジュールがほぼ決まり、宇崎は腹を括って話を受ける。かくして、初めて本格的な芝居に挑戦する日々が始まった。

宇崎:「勝手がわからない僕に、最初は増村監督も手取り足取り、芝居のお手本を示してくださったんですけど、そんな簡単には出来ないんですよ。なので、そのうち諦めたんでしょうね。『宇崎さん。強く、喘いで、死ぬ気、ね?』と、3つのことしか言わなくなってしまって(笑)。毎カット、必ず『ヨーイ』と『スタート』の間の2秒ぐらいで、その三原則を監督が唱えるんですけど、ある種の諦観が伝わってくるんです。だから、いかに現場で迷惑をかけないようにするかが、僕のテーマでした」

本業のミュージシャンとしてのライブでは、楽曲の世界観に入る際、カウントの間に気持ちをつくり、イントロが鳴ると同時に切り替える――というのが、宇崎流アプローチだった。芝居でもカチンコを合図に役に入ろうと考えたが、これが物議を醸すことになる。

宇崎:「楽曲の主人公になるようなタイミングで、『ヨーイ、スタート。カチン!』で徳兵衛になるために、なるべく休憩中はふだんの僕自身として過ごそうとしていたんです。だから出番までの間は椅子に座って、かつらの上からヘッドホンをして音楽を聴いていたんですね。今にして思うと結髪さんも腹立たしかっただろうなというのがわかるんですが、ある日、梶さんも見るに耐えかねたんでしょう。『何をしていらっしゃるの?』と聞いてきまして。『ロックを聴いています』と答えたら、『あなたね、私たち、これから(芝居で)死ぬのよ。よくそんな音楽を聴いていられるわね……』と言われてしまって。それ以後は聴くのをやめましたが、梶さんは現場で終始、お初の気持ちでいらっしゃって、後ろ姿から今にも心中しそうな気配が漂っているんです。そもそもの臨み方が違っていたので、僕に対して苦々しい思いが多々あっただろうなと、今さらながら申し訳なく感じているところがあります」

目鼻の飛び散った顔の利点

慣れないながらも奮戦し、どうにか「曽根崎心中」はアップした。が、自身の徳兵衛に対する世間の反応に、宇崎は気もそぞろとなる。

宇崎:「ATGの前作にあたる『サード』(78)が好評で、ロングランになったので観に行ったんですけど、そこで『曽根崎心中』の予告篇が流れましてね。すると、お客さんが徳兵衛の顔を見てクスクス笑うんですよ。『宇崎はサングラスを外すと、こんなに不細工なのか』って。もう、いたたまれなくなってね、途中で劇場を出てきちゃいました。ただ、公開されてから評論家の方が書いてくださった記事に『これまでの心中ものは美男美女が主流だった。が、徳兵衛役の宇崎竜童の目鼻の飛び散ったロマンのない顔はどうだ? 従来の心中ものの概念をひっくり返した』とあって、うれしいような悲しいような気持ちになったのを覚えています。何にせよ、こんな僕でも役者をやっていいのかなと思わせてもらう、きっかけになりました」

それから5年後、宇崎は再び映画に主演する。大阪の銀行に人質をとって立てこもった男をモデルに描いた「TATOO[刺青]あり」(82)。高橋伴明監督初の一般映画作としても知られる名作だ。

宇崎:「ずっとピンク映画を撮ってきた伴明さんの反骨精神や思想、哲学が、一気に噴射された作品だと思います。現場でも、そのシャワーを浴びているような感覚がありましたね。ただ……自分で言うのも何ですけど、この映画の主人公の竹田明夫にせよ徳兵衛にせよ、美しい男優さんが演じていたら、女性や母親に対する愛情に飢えた、ある種の情けなさや哀れな感じというのは出なかったんじゃないかな、と。関根恵子(高橋惠子)さんに愛想を尽かされるシーンで唾を吐かれますけど、あれは台本にはなかった仕草なんですよ。芝居とはいえ、切なくてねぇ(笑)。この二作に関しては自分の非力さを痛感するばかりで、見直すのがためらわれるんですけど、ある種のリアリズムを体現できたのかなとは思っていて。『曽根崎心中』を観た岡林信康が好意的な感想をくれたことが、今でも思い出深いです」

両者が放つ熱は冷めることなく、40年が過ぎてもなお、ほとばしる。

宇崎竜童(うざき・りゅうどう)
1946生まれ、東京都出身。1973年にダウン・タウン・ブギウギ・バンドを結成しデビュー。〈港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ〉が大ヒット。作曲家としても山口百恵の楽曲をはじめ、数多くのヒット曲を送り出す。映画・舞台音楽の制作、俳優としても活動。最新出演映画「波乗りオフィスへようこそ」が全国公開中。

「TATOO[刺青]あり」≪HDニューマスター版≫
●2019年6月12日発売 BD 5800円+税 DVD 3800円+税
●1982年・日本・カラー・BD/1080p Hi-Def(ビスタ)、DVD/16:9(ビスタサイズ)・音声BD/日本語:DTS-HD Master Audio(2.0ch)、DVD/ドルビーデジタル(2.0ch)・本篇107分
●監督/高橋伴明 脚本/西岡琢也 撮影/長田勇市 音楽/宇崎竜童
●出演/宇崎竜童、関根恵子、渡辺美佐子、太田あや子、忍海よし子、矢吹二朗
●発売・販売元/キングレコード
(c)1982 国際放映/ブロウアップ/東宝

「曽根崎心中」≪HDニューマスター版≫
●2019年発売(予定)BD・DVD
●1978年・日本・カラー・本篇112分(予定)
●監督/増村保造 脚本/白坂依志夫、増村保造 原作/近松門左衛門撮影/小林節雄 美術/間野重雄 音楽/宇崎竜童
●出演/梶芽衣子、宇崎竜童、井川比佐志、左幸子、橋本功、木村元
●発売・販売元/キングレコード
(c)1978 藤井慶太/東宝

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(執筆者: キネ旬の中の人) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか

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情報提供元:ガジェット通信
記事名:「サングラス越しの素顔に宿ったリアリズム―宇崎竜童インタビュー「TATOO[刺青]あり」「曽根崎心中」