(文・インタビュー=常川拓也/『キネマ旬報 2019年5月上・下旬号』より転載)

長く続く遊びの時間

宝石のような夜が明け、朝を迎える―「きみの鳥はうたえる」は、主人公「僕」(柄本佑)と友人の静雄(染谷将太)、そして佐知子(石橋静河)が酒を片手に遊び回って、いくつもの夜を使いはたしていく夏の日々を叙情的に描写している。監督の三宅唱は、彼ら3人の物語をシネマスコープのフレームで際立せながら、その奥に広がる函館の町の夜や朝焼けの美しさを捉える。佐藤泰志の同名原作を映画化するにあたり、70年代の東京から現代の函館に舞台が移植されているが、地域性を打ち出すよりもむしろアーバンな雰囲気を感じさせるのだ。

三宅唱:観光映画にもしたくなかったし、閉塞する地方都市として描くようなこともしたくなかった。主人公たちとともに時間を過ごしていくなかで町の個性が立ち上がってくればいいと考えていたので、彼らとは関係なく「街はこうでござい」ってカットはいらないと思いました。東京/地方みたいな構図に貶めることはしたくなかったんです。また、見晴らしのいい特別な舞台を用意するのではなく、日常的な場所でこそドラマティックなシーンを演じることも重要でした。だから観光地として美しい場所よりも生活路を探していました。

男女の三角関係は多くの場合、友情の亀裂、あるいは対立や衝突を生むものとして描かれるのが一般的かもしれない。しかし三宅はその間に緊張を醸成するのではなく、彼らの一体感やカメラとの調和を優先している。長く続く遊びの時間、あるいは彼ら三人の関係は、選択や感情を先送りするように曖昧なまま継続していく。

三宅唱:原作を読んだときに感じたのは、取り返しのつかないある不幸な事件が起きるんだけど、それによって、いままで過ごしていた何気ない時間が幸せだったことが露わになることでした。だから映画化するにあたって、不幸になった瞬間よりもそれまでの彼らの幸福な時間をどれだけ描けるかが鍵になると思いました。そうでないと、取り返しのつかなさというものを描けないと思ったんです。幸せな時間も取り返すことができない。だから彼らの友情が最高潮に達しているリラックスした状態を生み出せればいいと考えました。それは場合によっては対立や葛藤といったドラマを撮るよりも難しいかもしれないけど、意義深いのではないかと思って挑戦しました。葛藤や衝突までの流れをどれだけ微分してあるか──スパッと描いてしまうこともできるけど、細かく見ていけば躊躇してる段階というのはいくらでもある。サッカーで喩えるなら、90分の試合のゴールシーンばかりをダイジェストしたような作品があるとすれば、この小説はゴールに至るまでの過程からちゃんと描いている。普通はダイジェストには入らないような、でも確かに自分たちの人生には存在している感情の揺れ動きが描かれてると思ったんです。

佐和子と「僕」の物語

そのようなラフでリラックスした雰囲気は、本作でも本人役でライブを披露するラッパーOMSBとBimの楽曲製作の過程を追ったドキュメンタリー「THE COCKPIT」(14)で濃く打ち出されたものだろう。人々がふざけあってじゃれあう何でもない日常の時間を引き延ばして見せるのである。特に本作で最も印象深いクラブの場面ではこれまでの日本映画が成し得なかった瑞々しさを獲得している(切り返しを用いないことで実際に音を鳴らした状態での撮影を実現させた結果、達成した描写だという)。しかしそれらは特別プロットに貢献する場面というわけではないかもしれない。

三宅唱:この物語をあらすじだけにすれば、古今東西いくらでもあるようなものと言えるとも思います。だから単にプロットや筋を追うだけなら映画化する意味が全くない。もはやあらゆる物語が映画化されているような状況にも関わらず、なぜぼくたちが新しい映画を作り続けるかと言えば、演じる人間が違えば新しいことが起きるということに賭ける以外ないと思うからです。だから今回の男ふたり女ひとりというある種何度も繰り返し演じられてきたものであっても、彼ら3人とならば新しい世界を描けるのではないかと考えていました。いまの時代の空気を吸っている彼らが現代的な品の良さを持ち込んでくれたし、友達みたいな近さで彼らを捉えようと思っていました。

さらに、三宅はビートルズの曲名に由来した題名の意味合いにも変化をもたせている。静雄から佐知子へと歌をうたう主体が変わり、彼女はクラブでしなやかに舞い踊る― 原作にあった暗く悲劇的な要素を剥ぎ取り、佐知子と「僕」の物語として読み直しているのだ。

三宅唱:佐知子と「僕」の話にするんだと決めました。本作は恋愛映画でもあると同時に、主人公は友情に重きを置いている人物であって、友達でい続けることの難しさについての映画でもあると思う。だから彼と佐知子の間でそれがどう転換していくのかというのが核だと考えました。タイトルの意味合いもビートルズから佐藤さんに移植されて変わっていってるけど、ぼくらにとってはこの映画で佐知子というヒロインをどれだけ魅力的に描けるかが重要でした。マッチョな映画にはしたくなかったので、石橋さんが強いエネルギーを定着させてくれたおかげで、佐知子が引っ張ってくれる映画になったと思います。ありとあらゆる場面で彼女は素晴らしかった。

そして映画の終局、私たちはふたりがうたう鳥に遭遇する瞬間に立ち会うことになる。あの鳥の声は演出なのだろうか。

三宅唱:あそこは実はたまたまですね(笑)。編集しながら「鳥が鳴いてて、佐知子と「僕」がふいと空を同時に見上げた」と気づきました。あれは鳥がまさに鳴いてくれたんです。

三宅唱(みやけ・しょう)/映画監督
1984年生まれ。北海道札幌市出身。一橋大学社会学部卒業、映画美学校フィクション・コース初等科修了。09年に短篇「スパイの舌」 (08)が評価される。初長篇「やくたたず」(10)を発表後、12年に劇場公開第1作「Playback」を監督。14年、ドキュメンタリー「THE COCKPIT」を発表。17年、「密使と番人」で時代劇に挑戦。18年、「きみの鳥はうたえる」が公開。第73回毎日映画コンクール男優主演賞&音楽賞、『映画芸術』2018年日本映画ベスト1位、『キネマ旬報』ベスト・テン第3位&主演男優賞、第10回TAMA映画賞 最優秀新進監督賞を受賞。第68回ベルリン国際映画祭に正式出品。また同年、山口情報芸術センター(YCAM)にて映画「ワイルドツアー」を監督、19年公開。その他、ビデオダイアリー「無言日記」シリーズ(14~)などがある。

「きみの鳥はうたえる」
●リリース中
●Blu-ray5,200円+税、DVD3,800円+税
●映像特典(セルのみ)
<ブルーレイ特別版・特典映像>
・トークイベント①(柄本佑×三宅監督)
・トークイベント②(石橋静河×三宅監督)
・トークイベント③(山本亜依×三宅監督)
・未公開クラブシーン・ディレクターズカット
・完成披露試写会
・オーディオコメンタリー
・メイキング
・予告篇
<DVD・特典映像>
・オーディオコメンタリー
・メイキング
・予告篇
●2018年・日本・カラー・本篇106分+特典映像
(1)DTS-HDマスターオーディオ2.0ch (2)DTS-HDマスターオーディオ5.1ch・16:9 1080P High Definition スコープサイズ・2層(以上、BD特別版)
(1)ドルビーデジタル2.0ch (2)ドルビーデジタル5.1ch・16:9LB スコープサイズ・片面2層(以上、DVD)
●監督・脚本/三宅唱 原作/佐藤泰志 音楽/Hi’Spec 撮影/四宮秀俊 照明/秋山恵二郎 録音/川井崇満 美術/井上心平
●出演/柄本佑、石橋静河、染谷将太、足立智充、山本亜依、柴田貴哉、水間ロン、OMSB、Hi’Spec、渡辺真起子、萩原聖人
●発売元/日活
●販売元/TCエンタテインメント
(C)HAKODATE CINEMA IRIS

―― 見たことのないものを見に行こう 『ガジェット通信』
(執筆者: キネ旬の中の人) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか

―― やわらかニュースサイト 『ガジェット通信(GetNews)』

情報提供元:ガジェット通信
記事名:「いくつもの夜を使いはたしていく夏の日々―「きみの鳥はうたえる」三宅唱監督インタビュー