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無給医を減らし、継続就労医師を増やせ!「准修練医」制度を生み出した東邦大学が取り組むダイバーシティ支援とは(joy.net)



今回は『joy.net』より岩田千加さん執筆の記事からご寄稿いただきました。


無給医を減らし、継続就労医師を増やせ!「准修練医」制度を生み出した東邦大学が取り組むダイバーシティ支援とは(joy.net)



日本の女性に医学教育を開いた東邦大学が、女性医師支援室を開設して今年で丸10年。それまでの“ALL OR NON”の原理にメスを入れ、週3.5日(うち1日は外勤もしくは自宅研修可)の有給ポジション准修練医を創設するなど、画期的な取り組みが注目を集め続けてきた。早くから女性医師支援に取り組んできた同大学が次にめざすのは、「ダイバーシティ」の推進だ。子育てとキャリアの両立を定着させた経験を活かし、「仕事と生活の共存」「多様な人材活用」を目標とする取り組みや狙い、女性医師支援の成功秘話などをダイバーシティ推進センター長の片桐由起子先生に取材した。


合わせて読みたい:医師たちが考える「無給医」問題

https://www.joystyle.net/articles/650


“ALL OR NON”以外の選択肢で

女性医師のキャリア継続をサポート


Q1.東邦大学が女性医師支援に取り組まれた背景をお聞かせください。


東邦大学は1925年に帝国女子医学専門学校として創立して以来、女子の医療・生命科学教育に積極的に取り組んできました。1970年には「東邦大学保育園」が開園するなど、女性医師支援でも時代に先駆けた活動を行ってきました。そんな歴史と経験をもつ当大学でも、妊娠・出産・育児というライフイベントを機に多くの先輩女性医師が現場を離れていきました。


その背景には、臨床現場における“ALL OR NON”の原理が挙げられます。つまり、妊娠・子育て中も皆と同じ働き方ができなければ、臨床現場を去るしかなかったわけです。皆と全く同じには働けなくても、女性医師が働き続けられるシステムを作ろうということで、2008年に開設されたのが「医学部女性医師支援室」です。


大学の組織内にこのような支援室を開設できたのは、日本私立学校振興・共済事業団の私立大学等経常費補助金特別補助事業(『女子教育の歴史と経験を生かした、女性医師への子育て経験等活用リカレントプログラム』)として採択されたことが大きかったです。


 

Q2.片桐先生が女性医師支援室室長に就任され、どのような取り組みを実践されたのですか?


ご存知の通り、大学病院で働く医師は、約10年間は無給医という時代がありました。その間に医師としての研鑽を積み、しかるべき年限が来た時にポストが空いていれば、有給のポジションに就けるというのが常でした。ところが、女性医師のなかには自己研鑽の途中で、妊娠・出産などのライフイベントがある人もいます。当時は、産休・育休の取得期間や、同級生より当直回数が少ないことなどを理由に、男性医師や後輩らにポストを譲ることが暗黙の了解だったわけです。


そこで、「皆と同じでなくても、妊娠・出産後も女性医師が働き続けることができる目玉施策」として、女性医師支援室が中心となり2010年に准修練医制度*1 を施行しました。


*1:「准修練医制度」『東邦大学 ダイバーシティ推進センター』

https://www.lab.toho-u.ac.jp/univ/diversity/backup/training/index.html


 

Q3.准修練医制度の特徴を教えてください。


准修練医制度は子育て、介護などの理由により、それまでと同様の勤務内容では勤務継続が困難な医師のために、新たに設けられた短縮勤務制度の有給ポジションです。勤務日数は週3.5日、そのうち1日は外勤もしくは自宅勤務も可です。週20時間以上の勤務となるので、社会保険の対象にもなり安心です。対象者は本学レジデント・シニアレジデント・大学院生もしくは過去に本学に研修歴ないしは勤務歴があり、再度修練を希望する医師です。利用期間は原則1年。年度毎の更新が必要ですが、最長10年まで利用できます。



准修練医制度の特徴


有給、社会保険完備


・対象者

  東邦大学のレジデント・シニアレジデント・大学院生・もしくは過去に東邦大学で研修歴ないし勤務歴があり再度修練を希望する医師


・制度の期間

  原則1年。年度毎の更新が必要で、最長10年まで


・勤務

  「医学部における医師及び教員の勤務時間に関する申し合わせ事項」が適用されます。ただし、勤務日数については週3.5日勤務とし、そのうち1日2単位※)は自宅勤務可能(※1単位=0.5日)


・修練機関の算定について

  准修練医が再度レジデント又は、シニア・レジデントに応募する場合の修練期間の算定については、准修練医としての勤務歴の2分の1を修練期間とする。


短縮勤務をサポートする同僚への配慮

上司の理解が成功のカギ


Q1.この制度を作る際に、注意したことはなんですか?


主に2点あります。1つは利用者にとってメリットのある制度であること。例えば、週3.5日以上勤務していれば常勤職とみなされ、週20時間以上勤務であれば健康保険などの社会保障も付けられます。週3.5日のうち1.0日は外勤も認められており、例えば、大学で2.5日、残りの1.0日は外勤または自宅修練も可能です。外勤が可能なので収入は確保できます。また、ライフイベントをより優先したい方は自宅研修を選択することでプライベートの充実を図ることができ、自分に合ったワークライフバランスを選べることがポイントです。


もう一つは、フォローしてくれる同僚にも配慮した制度であるという点です。准修練医の外勤日を1.0日に限定したのは、フルタイム勤務の医師より高額所得になるという不平等をなくす意図があります。「准修練医制度の利用者ばかりが支援されてずるい」という不公平感が現場に生じないように、細心の注意を払いました。


我々がめざしたのはこの制度を被支援者が当然の権利として利用するのではなく、やがて自らも支援する側になり、その姿を後輩に示すことで以後に続く女性医師のロールモデルの構築につながるように喚起することです。また、支援された体験が次世代の支援を形成する礎となり、支援が連鎖となって持続・拡大していく仕組み作りが目標でした。


 

Q2.不平等感がないように、というのが重要なのですね。


女性医師支援が受け入れられた理由は、上司や同僚など当事者を取り巻く周りへの働きかけが実を結んでいる部分が大きいと思います。また、女性医師支援室設立にあたり、上位職を引き込んだこともポイントだと考えます。キックオフには学長、副医学部長をはじめ、教授・医局長クラスの執行部の多くの方々が参加してくださり、女性医師支援にトップダウンで取り組むことを、病院全体に意識付けすることができました


トップが進んで協力してくださったのは、東邦大学保育園に子どもを預ける保護者としてつながりがあったことが大きかったですね。約50年の歴史を誇る東邦大学保育園は、みんなにとって「あって当たり前」という大切な存在です。



Q3.学生への啓発・教育にも力を入れておられるそうですね。


最初は、男女が等しく受けられる「男女共同参画と医療という選択授業だったのですが、最近では女子より男子学生により人気の高い科目となっていました。女子学生の場合は、将来自分が当事者になるので受講の理由も明確なのですが、男子には二通りあるようです。自分の母親が働きながら家事・育児をこなす大変さを目の当たりにしていたため課題意識が強い学生。もう1つは、自分が将来理解あるイクボスになりたいという学生です。


いずれにせよ、男子学生の間に妊娠・出産・育児中の同僚を支援すること、働き方の多様性を認めることが当たり前という意識が根付いたことも、当病院の今後の強みになると思っています。医師の配偶者は医師であることも多いですから、出産・育児などを機に、女性医師だけが働き方の見直しを迫られるという現状は、変わっていくかもしれませんね。



○女性医師支援は当事者にだけでなく、同僚への配慮も重要

○トップダウンで取り組む土壌づくりが成功の鍵

○学生への啓発・教育で男女共同参画への意識を改革


“復職支援”より“継続就労支援”に重点


Q1.現在、准修練医制度を利用中の医師はどのぐらいいるのですか?

2017年度実績は産業医を合わせて34名です。利用者の特徴は経験豊富な医師というよりは、専門医認定試験を控えている研鑽途中の方が多いことです。准修練医制度は子育てなどを理由に、今までと同じスピードで階段を昇り続けられなくなった時に利用し、再び階段を昇れるようになった時に戻ってくるための制度をめざしており、まさにそういう方々にご利用いただけていることはうれしい限りです。


 

Q2.女性医師支援室開設以来、この10年でどのような変化がありましたか?

2008年当初は、世間では一度臨床現場を離れてしまった女性医師に、いかに現場に戻ってきてもらうかという“復職支援”にフォーカスが置かれていました。東邦大学は当時から“継続就労支援”に力を入れてきました。学生にも継続して働くことの大切さや、継続して働くための方法などを教育・啓発してきました。その結果、今では妊娠・出産後も働くことが当たり前という意識が、女性医師のなかに浸透してきたように感じます。産休・育休を取る前から、戻って来る方法が明らかになっているので、育児休暇のままフェードアウトしてしまう人は確実に減少し、小さい子どもを育てながら働く人が非常に増えています


 

Q3.継続就労支援に重点を置いたのはなぜですか?


既に専門医認定を取得しているなど、ある程度医師として完成した方は、少しぐらい間が空いても、比較スムーズに元に戻ることができます。しかし、まだ階段を昇っている途中の方がある程度の期間現場から離れてしまうと、また振出しに戻ってしまうので、継続就労支援の方がより重要だと考えました。学生のときから、継続して働くことの大切さや方法をアナウンスしたり啓発することで、本人たちの意識の中に働き続けることが当たり前となり、その方法も事前に分かっているので安心感が違います。そのためか、フェードアウトが減っていることに手ごたえを感じています。


 

Q4.妊娠・出産は専門医を取得してからの方がいいという考え方も多いと伺います。


もちろんそういう考え方もあるでしょう。しかし、私個人としては比較的若いうちにライフイベントを迎える方がいいと思っています。最近は、専門医を取ることがあたかもゴールのように勘違いしている方が多いように思います。本来、そこからが医師として社会貢献できる活躍の場が広がるのですが…。専門医を取った時点で妊娠・出産・育児などのライフイベントが来ると、そこから先の階段を昇る角度がかなり緩やかに、あるいはフラットに近くてもいいと考える医師も少なくありません。


逆に、初期研修修了、専門医取得など、必ず到達したい具体的な目標がある時期の方が、その先の伸びが期待できます。また、その時期を乗り越え、再び階段を昇り始める頃には、子育てをしながら働くというリズムがある程度確立されているので、上手に両立することができるのではないでしょうか。


 

Q5.准修練医制度は女性しか利用できないのですか?


男性医師も利用できます。もともとは妊娠・出産・育児というライフイベントを念頭において女性医療支援室が作った制度ですが、実際にこの制度を使って、高齢のご両親の介護という難題を乗り越えた医師もいます。妻の妊娠中に介護を受けているご両親の具合が悪化し、介護度も上がったため男性医師自身が退職して、介護と仕事の両立できる道を探すと聞き、准修練医制度の利用を提案しました。


男性医師はこの制度を利用したことで、一番困難な約2年間を乗り越え、現在は大学病院の関連総合病院の主要スタッフとしてフルタイムで働き続けています。もしあの時、大学を辞めて、フリーランスのような働き方になってしまっていたら、高度医療機関の貴重なスタッフが一人失われていました。この制度が当事者にとっても現場にとっても役に立ったことがうれしいですね。ほかにも、ご本人の健康上の理由で、闘病期間中だけ使用する人もいます。


○妊娠・出産後も現場に復帰することが当たり前という意識が浸透

○利用者は専門医取得前の女医が中心

○専門医取得など具体的な目標がある時期の方が、現場復帰の意欲が高い

○現場に戻る頃には、子育てをしながら働くリズムが確立されている

○准修練医制度は男性でも、介護・療養が理由でも利用できる


ハードルを下げる一方で

求められる利用者のモラル


Q1.この10年で見えてきた課題はなんでしょう?


1つは、皆と同じに働けない、配慮してもらう時期をどれぐらいの期間過ごすのかということです。医師という仕事は、そもそも働き方がハードで、時間的な調整が難しい職業です。他の職種のようにお子さんが何歳になるまでなど、元のレベルに戻れる時期の線引きが難しいところがあります。だからといって、ズルズルと免除期間が長引くのはこの制度の本意ではありません。2人目、3人目と使ってもらって構いませんが、利用は今までと同じスピードで階段を昇れない一定期間に留めること、その間に子育てとの両立の助走期間を作って、また戻ってきてもらいたいというのが本音です。


利用者のなかには、長く使い続けている人も出てきており、この先どうするかというのが現在の課題です。また、制度を受け入れる医局側が、この制度を医師の数を増やすために利用することのないよう、注視することも重要です。准修練医制度の利用者は各医局が持っている枠外で、ここに女性医師を置いておけば、男性医師や独身の女性医師の枠を確保できるという、本来とは違う使い方をされる可能性があるからです。

また、本来めざしているポジションにはいけず、「君は准修練医制度でいいよね」という使われ方をされないように常にウォッチしていきたいと思います。



Q2.最近は女性医師側の価値観も多様化しているのでしょうか?


より多くの女性医師が乗り越えられるようにハードルを下げると、考え方が緩やかな人や、「支援されることが当たり前」と思うような人たちも、制度の対象者になるというジレンマはあります。「そうまでして働きたいと思わない」という価値観の人たちが、ある一定数以上、実は沢山いることもこの10年でわかってきました。それでも自分たちが本当に支えたい人たちに支援を届けるためには、対象者を広げていかないと、水上の氷山のように浮かび上がってきません。今の時代、特定の人しかできないことをやりなさいといってもダメで、できる限りみんなが越えられるハードルを準備することが大事なのです。


また、私たちの側も利用者の価値観には差異があることを留意していかなければならないと思っています。たとえば、当院にはすべての教職員の子弟が利用できる病児保育「ひまわり」(2009年開設)があります。感染症や食物アレルギーがあっても受け入れてくれ、パソコン、スマートフォンなどからネット予約も可能で、働くママにとっては大変心強いものです。しかし、すべての人が病児を預けたいと思っているわけではありません。病気のときくらいは自分で看てあげたいと思う人がいることも、理解することが大事だと考えています。



○「これなら続けられる」と思える環境を準備

○価値観の多様化で、利用者側の意識が課題に

○病児保育室は全教職員利用可

○病児は病児保育室に預ければいいという決めつけは禁物


男性も、介護、療養、障がいがあっても

多様な働き方が可能な体制づくりが目標


Q1.2017年4月に男女共同参画推進センターから、ダイバーシティ推進センターに改称されました。この取り組みが組織に与えている影響は?


女性医師支援室の開設以来、准修練医制度をはじめ、全国でも先駆的な病児保育室、看護師を研究者として支援する非常勤研究生制度、医学部の学生を対象とした講義「男女共同参画と医療」などさまざまな企画を実現してきました。


ダイバーシティ推進センターではこれまでの経験を活かし、性別や年齢、職種に関わらず、一人ひとりが専門性を中断することなく、キャリアを積みあげていくことができる支援体制の整備をめざしています。高い専門性を有するスタッフの継続就労が、東邦大学を支える財産になると考えています。

東邦大学はアイデアを実行できるように策を練ることは、非常に得意な大学です。ダイバーシティ事業に関しても、みんなが必要と感じ、積極的に関わろうとしてくれる。そんな校風や家族的な雰囲気に助けられている部分も大きいと思います。


 

Q2.最後に、今後の展望についてお聞かせください。


今後特に力を入れていきたいのが介護をしながら働く方々への支援です。我々は常に時代に合った課題に向き合いながら、働くスタッフたちのニーズに即した支援を継続していきます。また、身体が不自由な方々や、病気やケガで今まで通りの働き方ができなくなった方々への支援に取り組むのもダイバーシティ推進センターの役割だと思っています。



○専門性の高いスタッフが働きやすい環境を整えて、“人財”を確保

○今後は介護、障がい者支援にも着手




片桐 由起子(かたぎり・ゆきこ)

東邦大学医学部 産科婦人科学講座 教授

リプロダクションセンター

臨床遺伝診療室

ダイバーシティ推進センター センター長


東邦大学医学部医学科卒業。同大学院医学研究科修了。東邦大学医学部助手を経て2001年より米国に留学。2009年東邦大学医学部女性医師支援室長就任。2010年に准教授、2014年より現職。日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学会認定専門医ほか。専門領域は生殖内分泌・不妊(体外受精)・生殖遺伝。


文/岩田 千加


<合わせて読みたい>

医師たちが考える無給医問題

https://www.joystyle.net/articles/650


 

執筆: この記事は『joy.net』より岩田千加さん執筆の記事からご寄稿いただきました。


寄稿いただいた記事は2018年10月31日時点のものです。


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