ノンフィクション月刊誌『新潮45』が2018年8月号で杉田水脈衆議院議員(自民党)の寄稿『「LGBT」支援の度が過ぎる』を掲載。その中で「同性のカップルは生産性がない」と主張しさまざま批判が巻き起こりました。その後、2018年10月号では特集『そんなにおかしいか「杉田水脈」論文』を組んだことにより、新潮社へのデモが起きるなど大きな反対運動が起き、2018年9月25日に休刊に追い込まれました。

この特集には、LGBT当事者として松浦大悟氏が『特権ではなく「フェアな社会」を求む』を寄稿しています。秋田放送の元アナウンサーで、2007年から参議院議員を一期務めていた松浦氏は、2017年の衆議院議員選挙に落選後にゲイであることをカミングアウト。『新潮45』では当事者の立場でLGBT差別解消法案の問題点や杉田議員へのバッシングを批判的な視点で論じています。

今回、その松浦氏にインタビュー。『新潮45』休刊に関する考えや、LGBT当事者から見たメディア環境の問題点をお聞きしました。

ーーまず『新潮45』に寄稿された経緯と、最初に話があった時の感想を教えてください。

松浦大悟氏(以下、松浦):正確には覚えていないのですが、依頼されたのは8月の中旬だったと思います。これはチャンスだなと思いました。杉田議員が間違った情報を発信されていましたので、LGBTの当事者としてはこれを訂正しなければならない。読者の皆さんにLGBTの本当の姿を知ってもらいたいと思いました。世間では激しいバッシングがはじまっていましたけれども、私は強い抗議をすることによって対話のチャンネルをなくすのではなく、杉田議員と胸襟を開いて対話をしたいと考えました。

ーー今回の『そんなにおかしいか「杉田水脈」論文』特集では、リベラル派の論者に編集部が寄稿を依頼して断られたとのことですが。

松浦:それは事後に聞かされましたね。今回の特集を組むにあたってリベラル系の大物学者にも執筆依頼をしたのだけど断られたということでした。その時に私は「逃げたな」と感じました。このことに関わることで、自分のキャリアに傷がつくことを恐れたのだと思います。でもその保身はよくない。本当に差別を解消したいと思うのであれば、その場に出ていって、コミュニケーションを取るべきだったと思います。リベラルが最も声を伝えなければならないのは『新潮45』の読者の皆さんだからです。

ーー『新潮45』の編集方針に問題があったのではという指摘が、新潮社の内外で上がりました。雑誌が世に出てからどのようなことを感じられたのでしょう?

松浦:タイトルを見た時にはぎょっとしましたね。その中に自分が同列にくくられていることに違和感を持ちました。ワイドショーで連日のように10月号の表紙だけをドアップで報道していて、そこには私の名前も書いてあるわけです。松浦も同じように差別発言をしたと思われるじゃないですか。私としては忸怩たる思いでした。

ーー結果として『新潮45』は休刊となりました。率直な感想をお願いします。

松浦:そうですね、また言論空間がひとつ失われてしまったわけです。私は言論には言論で対抗すべきだと思いました。どんなに臭いものに蓋をしても差別がなくなるわけではない。自分たちの認識の違いがどこにあるのかということを示しながら理解を深めることが必要だったんじゃないかと思います。今回、一般の人たちはLGBT側からの抗議の声によって『新潮45』が実質的な廃刊に追い込まれたと感じていると思います。LGBTはアンタッチャブルな存在で、関わると面倒くさいことになってしまうという意識が広がることを恐れています。「差別だと認定されると社会的に抹殺されてしまう」と人々が委縮すれば、深いところでの議論ができなくなる。それでは差別の解消にはなりません。

ーー実際、LGBT差別を助長しているとして批判が巻き起こりましたが、当事者の温度感をどう捉えていますか?

松浦:当事者の皆さんは距離を置いて見ているように思います。当事者の頭を超えてストレートの人たちが激しい怒りを表明していることには「どの口が言っているんだよ」と。ついこの前まで同性愛者のことを「気持ち悪いと差別していたじゃないか」と。そうしたマジョリティの調子の良さに複雑な思いを抱いている人は少なくありません。杉田議員への批判はいい。だけど、杉田議員の姿はかつての「あなた」です。その思いを抱きしめて、批判するなら謙虚に行うべきです。

ーー寄稿された記事には、LGBT活動家やご自身も所属していた民主党出身の元議員から批判が上がっています。そのことをどう感じていますか?

松浦:記事の中でLGBT差別解消法案のアキレス腱を指摘していて、政党側から反論があることは予想していました。しかし、私は政党関係なく一当事者としてこの問題を伝えなければならないと思っていました。LGBT差別解消法案は表現規制やメディア規制に繋がる文言を含みます。野党議員の中には私が現職の頃に一緒になって表現規制に取り組んできた方がたくさんいるんです。その人たちがわかってないはずがないのに、これを次の選挙の目玉政策にしようとしているところに憤りを覚えました。多くの人にLGBT差別解消法案の問題点について知ってもらいたいと思うんです。私が記事を書いたことについて、たぶん野党の皆さんは「面倒なことをやってくれたな」と感じているのではないでしょうか。

ーーLGBT法案は一度廃案になっています。松浦さんとしては、修正をした上で可決を目指すという立場なのですね。

松浦:はい。せっかくの機会なので、LGBT差別解消法案の表現規制やメディア規制部分を省く形で修正して、改めて提出すべきだと思います。

ーー今はLGBTという言葉が浸透してきていますが、性的少数者を一括りにすることに対して議論があると思います。

松浦:LGBTをどのように捉えていくかということなんですよ。LGBT差別解消法案では「差別を禁止する」といいますけれど、例えばLGBTという枠組みについてクィア・スタディーズの立場で疑問を呈している人は「差別なの?」と。あるいは「私はLGBTと呼ばれたくない。プライドをもってオカマという言葉を使います」といった東郷健さんのような存在はどうなるのか。かつて『週刊金曜日』は、「伝説のオカマ~」というタイトルで東郷さんについての記事を掲載し、ゲイ当事者から差別だと訴えられました。しかし別のゲイから「それは本当に差別なのか?」と異議が上がり大激論となりました。LGBT差別解消法案は、こうした出版の歴史を踏まえているとは思えないんです。

ーー「差別」というのは強い意味が込められていますが、線引きが難しい問題です。

松浦:実はLGBT差別解消法案には何をもって差別とするのか明確に書かれていません。それは文脈によって決まることであり、人と人との関係性で決まることで、本来的に規定することなんてできないんです。そういったことが全く考えられていないのが怖いなと思います。今回『新潮45』が廃刊になりましたけれど、結局深い議論には至りませんでした。

ーーおそらく、松浦さんは杉田議員ご本人の言説や発言以上に、杉田議員の支持層を意識されているのではと感じました。

松浦:そこが一番メッセージを届けなければいけない層だと思います。私は、今回の10月号で杉田議員へのお手紙を書いたつもりだったんです。『新潮45』は杉田議員の事務所にも届けられているという話でしたので、それを杉田議員がお読みになって、私との対談を快諾して下されば、その後の号で対談を掲載していただけるとイメージしていました。杉田議員との対話を通して、杉田議員を支えていらっしゃる皆様にメッセージを届けたかったんです。また、『新潮45』が続いていたのならばLGBTの保守の論客を紹介したいと思っていました。現状LGBT保守の書き手が寄稿する場がないのです。

ーー社会のLGBTへの理解を深めるためには、保守層へのアプローチが不可欠ということですね。

松浦:政治は敵を増やすのではなく仲間を作っていかなければなりません。自民党支持者をいかに説得できるか。そこに対するメッセージなわけです。世間では民主党はリベラルなのでLGBT政策に積極的、自民党は保守なので消極的と思われていますがそうではないんです。民主党は鳩山(由紀夫)首相の所信表明演説でLGBTについて盛り込もうとしましたが、閣内の反対により結局入れることはできませんでした。当時400人近い議員がいましたが、私が性的マイノリティ小委員会設立を呼び掛けた時に協力してくれたのは10人ほどでした。一方自民党は、党内にLGBT特命委員会を作り、各省庁に33の要望書を提出。LGBT法についても検討しています。皆さんはにわかには信じられないかもしれませんが、皮肉にも安倍政権の下でLGBT政策は前に動いているのです。ここが政治の大変面白いところだと思います。正しい主張をすれば正しい社会が訪れるわけではない。社会はもっと複雑で深いのだということをリベラルの人たちにも伝えていきたいのです。

後編はこちら(https://getnews.jp/archives/2083570)

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情報提供元:ガジェット通信
記事名:「『新潮45』10月号寄稿のLGBT当事者&元参議院議員・松浦大悟インタビュー(上) 「本当に差別を解消したいと思うのであれば議論すべき」