『一流の人はなぜそこまで、靴にこだわるのか? (Business Life)』
(クロスメディア・パブリッシング)
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「一流の人はなぜそこまで、靴にこだわるのか?」(著:渡辺鮮彦)より
スタイルやデザイン、素材、製法……。靴の特徴を決定づけるこれらの要素は、実は国ごとに異なります。
ここからは、アメリカやイギリスといった各国の紳士靴にみるそれぞれの特徴と、代表的なメーカーについてお話していきます。自分にとっての「核」と照らし合わせながら、靴選びの参考にしてみてください。
もしあなたが、今、「もっと足元に気を配るべきだったかな」「これからはもう少し大事に靴選びをしたい」と感じているなら、一度イギリス製の紳士靴を試してみることをお勧めします。
イギリスの靴は、構造が堅牢であると同時に、時代・周辺環境に対する適応力に優れた、普遍的なデザインのものが多いからです。
「内羽根式」や「ブローグ」など、今日の紳士靴における構造やデザインの原型の大半を創造してきたイギリス靴は、その「用の美」を多分に備えた普遍性で、他国にも大きな影響を与え続けてきました。
昨今は、デザイン面で他のヨーロッパ諸国の流行に影響を受ける傾向にもありますが、シルエットも基本的には履く人や着る服を選ばない、流行を超越し履く人に自然と馴染むものです。
イギリス靴は、雨の多い気候を反映してか、底付けは既製靴の場合、堅牢で交換が複数回可能な「グッドイヤーウェルト製法」が主流。また歩行時の足の動きを考慮し、底面に若干丸みを持たせています。
世紀中後半に靴づくりが産業として確立して以降、既製靴メーカーの立地は、ノーザンプトンを核とする中部・ノーザンプトンシャーとその周辺に集中しています。ここでつくられたドレスシューズは、ウェストの絞りが効いたイングリッシュスタイルのダークスーツと合わせれば、ビジネスシーンで文句なしに大活躍するでしょう。
イギリス靴とは、どんな場面であっても「自分の立ち位置」を確保できてしてしまう一足なのです。
また、経年変化でいい感じに自分の身体に馴染んでくれるのも、イギリスの紳士靴ならではの良さでしょう。新品の段階ではまだ半製品。長い年月をかけて、「メーカーやブランドの靴」ではなく「自分の靴」に育ててゆく楽しさが、そこにはあります。
恐らくこの「育てる」意識は、古い家を修理して住み続けたり古い家具を直して使い続けたりするのと同様の、イギリス人を特徴付ける側面ではないでしょうか。ある種の節約を楽しみながら、徐々に生活を豊かにするこの種の感覚は、正にビジネスの長期的な展望に一脈通じるところがあると思います。
だからこそ、足元への意識が固まりだすと、イギリス靴との出会いは半ば必然なのです。
イギリスの紳士靴は、上に合わせる服のテイストを選ばず、とにかくコーディネートの邪魔をしません。その証拠に、イギリス靴は他国のアパレルブランドでも基本ラインナップとして取り扱われていることが多いのです。
例えば、アメリカを代表する紳士服ブランド「ブルックスブラザーズ」は、実はイギリス製の紳士靴を自らの店内から欠かしたことがありません。
また、1980年代に大流行した「ソフトスーツ」の生みの親、イタリアの「ジョルジオ・アルマーニ」の製品でも、当時彼の直営店で扱われていた紳士靴の最高級品は、自国のものではなく、イギリスのメーカーでつくらせたものでした。まるで婦人服のような繊細な色合いと柔らかな生地感が革命的だった当時のアルマーニのスーツの下に、対照的に堅牢そのもののイギリス靴……。これが不思議と調和していました。
どちらのブランドも、イギリス製の紳士靴の長所を十分に理解した上での採用だったのではないかと思います。
逆に、アメリカやイタリアのメーカーでつくられた紳士靴が、トレンドはともかくとして、他の国のテイストが濃厚な服に合わせられるかと言うと、なかなかそうはいきません。
アメリカの紳士靴はイギリスのもの以上にハードな印象だからか、ともすれば足元だけが武骨に見えてしまうことが多いのです。
一方、アッパーもソフトで底付けもマッケイ製法が主体のイタリアの紳士靴は、どうしても華奢さが前面に出過ぎて、カチッとした印象の服には合わせにくいようです。どちらも靴自体の雰囲気には非常に惹かれるものがあるのですが……。
それらに比べ、イギリスの紳士靴の多く、特にロングセラーのものは、キメキメの「ファッション」にはならず、履く人の姿勢そのものを前に出してくれる気がします。そんな節度や抑制こそが、ビジネスシーンで絶大にプラスに働くわけです。
賢明なビジネスパーソンは、多かれ少なかれその利点に周囲から気づかされるのでしょうか。スタンダードなデザインの紳士靴の中でも、とりわけイギリス靴率が高いように思います。
そんな靴のもつ効能や世界的な状況を、もっと日本のビジネスパーソンの皆さん、とりわけ国際的な視野がますます求められる若い世代の方々に知っていただくことも、長年「チーニー」の靴を扱っている弊社の使命の一つではないかと思っています。
同じイギリス靴でも、メーカーごとにその風貌や雰囲気は結構異なります。これは、履いている靴の違いが所属するクラス=階級の違いに直結する傾向が、ヨーロッパは未だに残っている影響で、メーカーごとにメインユーザーが微妙に異なるからかもしれません。
例えば、かつてはロンドンの注文靴店とのかかわりが深かった「ジョンロブ」や「エドワード・グリーン」のものは、やはり貴族的な雰囲気が前に出てくる気がします。それに比べると「チャーチ」や「チーニー」の靴は、ビジネスパーソン的な実直さが印象的です。だから、もし仮に「黒の内羽根式でそれぞれの代表作は?」と聞かれたら、私は、前者2つのブランドに関してはキャップトウを、後者の2つはフルブローグを挙げると思います。
もちろん、靴メーカーのトップの意向も、デザインの微妙な違いや変化に表れます。「チャーチ」の場合、今のオーナーはイタリアのラグジュアリーブランドである「プラダ」です。その影響もあってか、ロングセラーのものはともかくとして、 世紀に入ってからの作品には、ストリート感やモードを意識したものが増えつつあります。
一方、長年その「チャーチ」の資本が入っていた「チーニー」は(話が混乱しがちですが)、2009年に「チャーチ」の創業家一族が「プラダ」から買い取り、経営的に独立しました。そのためでしょうか、最近のチーニーの作品には、もともとのチャーチの靴のDNA =「堅実で堅牢ないつもの靴」の雰囲気が、以前にも増して色濃く出てきている気がします。両社は結果として、これまでやや曖昧だった役割の分担を果たしました。
今回はイギリス靴について、詳しく紹介しました。ビジネスで活用できる堅牢で実務的な靴を探しているのならば、ブリティッシュメイドの靴を試してみて損はないでしょう。
長く履ける相棒のような靴を探している方、イギリス靴をぜひお試しください。
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