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哺乳類は理由がなければ「顔を長くしたい」生き物だった


馬に「なんで顔が長いの?」と聞くと、その正しい答えは「余裕があるからさ」となるようです。

ロバとウマ、ヒツジとウシ、ワラビーとカンガルーのように、哺乳類における同じグループの小型種と大型種を比べてみると、ほとんど決まって大型種の方が長い顔をしているのが分かります。

実はこの理由は今までよく分かっていませんでした。

しかし豪フリンダース大学(Flinders University)は最近、この謎が「摂食への適応」というシンプルな枠組みで説明できると発表。

すばり、小さい動物は筋肉量が少ないので、できるだけ噛む力を強くするために顔を短くし、逆に大きい動物はそもそも噛むための筋肉量が十分なので、顔を長くしても大丈夫なのだという。

となると哺乳類は基本的に「顔を長くしたい生き物」のようですが、顔を長くするメリットはどこにあるのでしょう?

研究の詳細は、2023年11月29日付で科学雑誌『Biological Reviews』に掲載されています。

目次

  • どうして大きい哺乳類ほど顔が長いの?
  • 哺乳類が「顔を長くしたい理由」とは?

どうして大きい哺乳類ほど顔が長いの?

生物学者は以前から、哺乳類のうちに「大きい種ほど顔が長くなり、小さい種ほど顔が短くなる」傾向があることを知っていました。

これを専門用語で「頭蓋顔面進化アロメトリー(craniofacial evolutionary allometry:CREA)」と呼びます。

CREAは一般的に、同じグループ内の小型種と大型種の比較において言及されるものです。

例えば、同じウシ科のヒツジとウシ、同じネコ科のネコとトラ、同じカンガルー科のワラビーとカンガルーなどを比べると、決まって大型種の方が顔や鼻先が長くなっています。

CREAはあらゆる哺乳類に普遍的に見られる一方で、生物学者はその理由を説明できる枠組みを持っていませんでした。

ウシ科のヒツジとウシ、シカ科のプーズーとヘラジカ。決まって大型の方が顔が長い
ウシ科のヒツジとウシ、シカ科のプーズーとヘラジカ。決まって大型の方が顔が長い / Credit: sciencealert –There’s a Surprisingly Simple Explanation For Why Horses Have Long Faces(2023)

しかし今回の研究チームは、哺乳類の頭蓋骨や食性に関するデータを総合的に分析する中で、「どのように顔を使って食べるか」というシンプルな生体力学でCREAを説明できることに気づきました。

その前提にあるのは、同じグループ内の小型種と大型種が基本的に同じような物を食べているという点です。

ヒツジとウシは同じ干し草を、ワラビーとカンガルーは牧草や草木を、ネコとトラは共に肉類を食べます。

つまり、近縁の小型種と大型種は同じような物を食べるのに、異なる摂食戦略を取っているのです。

それが「顔の長さを変える」ことなわけですが、チームによるとその理由もしごく単純でした。

小型種はそもそも体が小さいために、顔まわりの筋肉量も自然と少なくなります。

すると噛む力も小さくなるので、口先の長さを短くして噛む力を高めていたのです。

反対に、大型種は体が大きいために、顔まわりの筋肉量も発達しており、わざわざ顔を短くしなくても噛む力は十分に備わっています。

それゆえ、近縁の小型種が食べるような物であれば、顔が長くても余裕をもって食べられるのです。

顔の長さによる接触適応の図解。口先を短くすれば、口先が長い種と同等の噛む力を実現できることを示す
顔の長さによる接触適応の図解。口先を短くすれば、口先が長い種と同等の噛む力を実現できることを示す / Credit: Rex Mitchell et al., Biological Reviews(2023)

チームはこれを”トングの持ち手”に例えます。

バーベキューの際にお肉をトングでつかむときは普通、持ち手の末端部分を持ちますよね。

それも十分につかめますが、どっしりと大きなステーキをひっくり返すときはトングの挟む力をより強くしなければなりません。

その場合はトングの先端に近い部分を持つことで挟む力を強くできます。

要するにトングの持ち手と挟む部分の間の長さが、哺乳類のアゴの付け根と歯の間の長さに対応するのです。

これは簡単な「てこの原理」に従っています。

となると、哺乳類は噛む力が元から十分に備わっているのであれば、顔を長くしたい生き物のようですが、そのメリットはどこにあるのでしょうか?

哺乳類が「顔を長くしたい理由」とは?

左;絶滅した肉食のフクロライオンの頭蓋骨、右:現生するウマの頭蓋骨
左;絶滅した肉食のフクロライオンの頭蓋骨、右:現生するウマの頭蓋骨 / Credit: Flinders University –Why the long face? Now we know(2023)

実は四足歩行を常とする多くの哺乳類にとって、顔を長くすることには大きなメリットがあります。

彼らは私たちのように手先を器用に使えないため、草木の中を探索したり、土を掘り起こしたりするのも基本的にすべて顔を使います。

すると顔が長い方が、生い茂る草木のより奥まで顔を突っ込んで木の実をゲットできたり、口先がスコップのような役割を果たして土を容易に掘り返したり、物を器用に操ることが可能になるのです。

また肉食動物であれば、顔を長くすることで口の中により大きな牙を備えることもできます。

つまり、哺乳類は口先の機能性を高めるために、できれば顔を長くしたいと考えているのです。

小さくても顔が長く、大きくても顔が短い例外がいる

しかし物事には常に例外があります。

哺乳類の中にはCREAの法則が当てはまらない動物たちがいるのです。

例えば、同じフクロネコ科のアンテキヌスとタスマニアデビルとでは、体の小さいアンテキヌスの方が顔が長く、体の大きなタスマニアデビルの方が顔が短くなっています。

それから同じハクジラ類のイルカとシャチでも、同様の反転が見られます。

その理由について研究主任のヴェラ・ヴァイスベッカー(Vera Weisbecker)氏は「彼らは同じグループでありながら食べる物に大きな変化が起きていることが原因だ」と説明しました。

具体的にいうと、アンテキヌスは虫の幼虫やクモのように柔らかい餌を食べるように進化しているため、噛む力をそれほど必要としません。

一方でタスマニアデビルは鳥やヘビ、時にはカンガルーサイズの獲物まで標的とし、その骨もすべて噛み砕いて食べるように進化しました。

そのため、強力な噛む力が必要であり、それに従って顔も短くなったのです。

左;CREAが見られるグループ、右:CREAが見られない例外のグループ
左;CREAが見られるグループ、右:CREAが見られない例外のグループ / Credit: sciencealert –There’s a Surprisingly Simple Explanation For Why Horses Have Long Faces(2023)

これはイルカとシャチも同じで、イルカはサバやイワシのような小魚を主食としますが、シャチはアザラシやサメ、クジラなど大型の獲物を狙うので強力な噛む力が必要なのです。

また他にも、有袋(ゆうたい)類のフクロミツスイや花蜜食のコウモリのように、体は小さいものの蜜を吸うために鼻先を長くしている例もあります。

このように哺乳類の顔の長さは、食べるものによっても左右されるのです。

そして研究者らは、哺乳類の中の例外中の例外として「ヒト」を挙げました。

私たちヒトは同じ霊長類の中では大型の種ですが、極端なまでに顔の短い種です。

これは私たちヒトが餌を探したり、細かく切り刻んだりするのに、口ではなく手先と道具を使うように進化したことに理由があるとチームは指摘します。

他の哺乳類たちが顔の長さで補った器用さを、ヒトは手先によって獲得したのでしょう。

これはシンプルな理屈でありながら、非常にロジカルに哺乳類の顔の長さの理由を説明できており、興味深い研究です。

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参考文献

Why the long face? Now we know
https://news.flinders.edu.au/blog/2023/12/15/why-the-long-face-now-we-know/

There’s a Surprisingly Simple Explanation For Why Horses Have Long Faces
https://www.sciencealert.com/theres-a-surprisingly-simple-explanation-for-why-horses-have-long-faces

元論文

Facing the facts: adaptive trade-offs along body size ranges determine mammalian craniofacial scaling
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/brv.13032

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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