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物が捨てられない「ためこみ症」はゴミ捨てVR訓練で治療できる!


「物が捨てられず溜まる一方だ」「趣味の物品を度を越して収集してしまう」「自室はもはや足の踏み場もない」


これらに当てはまる人は「ためこみ症」の可能性が大です。


ためこみ症は精神疾患の一つであり、部屋が物で溢れ返ってしまうせいで、健康や安全上の問題を起こすリスクが高くなります。


日本でもよく「ゴミ屋敷」などと称してテレビで扱われたりと、ためこみ症を抱える人は少なくありません。


そんな中、米スタンフォード大学(Stanford University)の最新研究により、VR(バーチャルリアリティ)技術がためこみ症の治療に有効であることが判明しました。


VR空間で物を捨てる練習をすることで、実際に家の物が捨てられるようになったのです。


研究の詳細は、2023年9月14日付で医学雑誌『Journal of Psychiatric Research』に掲載されています。




目次



  • ためこみ症の悪化は「身の危険」にもつながる
  • VR療法で物が捨てられるように!

ためこみ症の悪化は「身の危険」にもつながる


ためこみ症の悪化は身の危険にもつながる
Credit: canva

現代の消費社会において、ためこみ症は珍しい疾患ではなく、人口の2〜6%が罹患していると推定されています。


大抵は若いときに軽度の状態で発症するケースが多く、歳を取るにつれて悪化し、どんどん物が捨てられなくなり、部屋は物で溢れ返ります。


ためこみ症の人は物を取っておくことに強い執着を感じ、必要のないものまで過度に集めてしまう特徴があります。


加えて、物を手放すことに苦痛を覚えるため、部屋の物は増えるばかりで全く減っていきません。


この状態が続くと、屋内移動や料理、睡眠など日常生活に支障をきたし、さらに衛生環境の悪化(害虫やネズミの発生)や火災リスクの増加など、あらゆる問題が発生しやすくなるのです。


こうしたためこみ症が悪化した状況は、「ゴミ屋敷」問題として見かけたことのある人も多いでしょう。


この症状は特に年配の方ほど重症化しやすく、55歳以上の人で治療の必要なケースが頻繁に見られるといいます。


ためこみ症の一般的な治療としては、凝り固まった考えや行動を柔軟にする「認知行動療法(CBT)」や、同じ症状を抱える人が一緒に心理療法を受ける「グループワークショップ」などがありますが、十分に高い効果は得られていません


そこで研究チームは今回、急速に発達している「VR技術」を使った革新的な治療法を考案しました。


研究主任のハンナ・ライラ(Hannah Raila)氏は「VR空間で物を捨てる練習をすることで、物を手放すことの苦痛を和らげ、実際に物が捨てやすくなると期待される」と話します。


では、その実験方法を見てみましょう。


VR療法で物が捨てられるように!


実験では、ためこみ症と診断されている55歳以上の成人男女9名を対象としました。


VR空間を作るにあたって、それぞれの参加者には自宅の最も散らかっている部屋のビデオおよび写真の撮影をしてもらいます。


チームはこの動画および静止画をもとに、参加者の部屋を忠実に再現した3Dの仮想空間を作成しました。


ビデオや写真をもとにVR空間に部屋を再現する
Credit: Stanford Medicine –Virtual reality helps people with hoarding disorder practice decluttering(2023)

参加者はVRヘッドセットを装着して仮想上の自室に入り、ハンドコントローラーを使って自室に置いてある物を持ち上げたり、動かす方法を訓練します。


そして参加者は、VR療法の他に、従来の認知行動療法(CBT)とワークショップも取り入れた16週間の治療セッションを行いました。


最初の数週間は従来の心理療法を行い、7週目からVR療法を開始
Credit: Hannah Raila et al., Journal of Psychiatric Research(2023)

VR療法では、仮想上の自室にある物を「ゴミ箱」「リサイクル」「寄付行きの箱」のどれかに入れるよう指示されます。


このとき、選んだアイテムを保管する選択肢はありません。


ライラ氏は「VR空間でのゴミ捨ては、患者が頭の中で捨てることをイメージする”想像上のゴミ捨て”と、自室にあるものを本当に捨てる”実際上のゴミ捨て”の橋渡しをしてくれる」と説明。


「想像上のゴミ捨ては、一部の人にとって十分にリアルに感じられないかもしれませんが、VR空間でそれをリアルに体験することで、本当にゴミが捨てやすくなると考えられる」と続けます。


参加者は期間中、VR空間でのゴミ捨ての主観的苦痛を0〜10段階で評価し、また宿題として家に帰ったら、VR内で「ゴミ箱」に捨てた物を一つだけ選んで実際に捨てるよう指示されました。


VR空間で物を捨てる様子
Credit: Stanford Medicine –Using Virtual Reality for Hoarding Disorder(youtube, 2023)

そして16週間の治療セッションの結果、参加者9名中7名で物を捨てることの心理的苦痛が低下し、ためこみ症の症状が改善されたのです。


臨床医が視覚的評価をもとに、治療前後での部屋の散らかり具合を調べたところ、この7名では平均25%も物が減っていました。


これはVR空間でのゴミ捨て練習に大きな治療効果が期待できることを示す成果です。


また大切なポイントとして、VRの継続的な使用による健康への悪影響は認められませんでした。


参加者がVR映像に不快感を示したり、気分が悪くなることはなく、VRが心理療法として安全に使用できることが示されています。


一方でチームは、VR療法に参加した被験者の数が少ない点で限界があり、今後はより大規模なサンプルサイズで同様の実験を行いたいと考えています。



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参考文献

Virtual reality therapy may help declutter hoarding-affected homes
https://www.psypost.org/2023/11/virtual-reality-therapy-may-help-declutter-hoarding-affected-homes-214406
Virtual reality helps people with hoarding disorder practice decluttering
https://med.stanford.edu/news/all-news/2023/10/vr-hoarding-disorder.html

元論文

Augmenting group hoarding disorder treatment with virtual reality discarding: A pilot study in older adults
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022395623003965
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