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匂いによって人間は色の見え方が変化していた!


匂いで色の見え方が変わるようです。

コーヒーの香りを嗅いだとき、どのような色を思い浮かべますか?

黒や茶色が頭に浮かんでくるのではないでしょうか。

リヴァプール・ジョン・ムーア(Liverpool John Moores)大学のライアン・ワルド(Ryan Ward)氏らの研究によれば、匂いは色を連想させるだけでなく、実際に見えている色も変えてしまう力があるようです。

いままで色が嗅覚・味覚に与える影響についての研究が数多く行われてきました。

今回の結果は、色の匂いの感覚情報が双方向に影響し合っている事実を示唆するものとなっています。

研究の詳細は、学術誌「Frontiers in Psychology」にて2023年10月6日に掲載されました。

目次

  • 色は匂いの感じ方を変える
  • 嗅いだ匂いから連想される色に過剰な補足を行う

色は匂いの感じ方を変える

かき氷のシロップはすべて同じ味だと言われるがそれは気づかない人が鈍感という意味ではない
Credit:canva

かき氷のシロップは実は全部同じ味であるという話は聞いたことがあると思います。

ただこの話にはトリックがあり、味は同じですが、香料や色がシロップごとに異なっています。

赤くてイチゴの香りがすれば、ただの砂糖水でもそれはイチゴ味に感じますし、黄色くて柑橘系の香りがすればそれはレモン味に感じます。

これは同じ味なのに気づかない私たちが鈍感だというよりも、私たちの感覚において匂いや色が与える影響がいかに大きいかを示す例と言えるでしょう。

そのため、味や匂いに非常に敏感なプロのワインテイスターであっても、白ワインを赤く着色してしまうと、赤ワインと誤認してしまうという研究報告もあります。

この色による匂い、風味の誤った認識は、匂いと味に関する高い識別能力を持っていたとしても回避できないのです。

このような視覚と嗅覚、味覚などの異なる感覚同士の結びつきは「感覚間協応(Crossmodal correspondence)」と呼ばれています。

感覚間協応は、他にも音と味、温度と色などさまざまな領域で見られますが、一般的にその対応は双方向であると考えられています。

そこでリヴァプール・ジョン・ムーア大学のライアン・ワルド氏らの研究チームは、色が匂いの感じ方に影響を与えるだけでなく、特定の匂いによっても色の見え方が変わるのではないかと考え、実験を行いました

実験には嗅覚と視覚に異常のない24名が参加しました。

他の匂いの影響が実験の結果を左右しないよう、被験者たちには実験当日は香水やデオドラントをつけないようにしてもらっています。

実験では、6種類の匂い(レモン、ペパーミント、コーヒー、キャラメル、チェリー、コントロール条件としての無臭)をランダムに選び、超音波ディフューザー(アロマを霧状に拡散させる機械)を用いて実験室に充満させました。

アロマを霧状に拡散させる超音波 ディフューザーの例
Credit: Unsplash

実験では参加者に、特定の匂いがする部屋の中で、PC 上に提示されたランダムな色の四角形を色調節スライダーを使って、灰色に調整してもらいました。

この色調節スライダーは2つあり、赤-緑、黄-青の調節軸をそれぞれ動かし完全な灰色になるよう調整します。

実験画面(左)実験室の様子(右)実験は暗室で行われ、匂いの種類が変わるごとに空気清浄機で空気を入れ替えた
Credit: Ward et al.,Frontiers in Psychology(2023)

もし研究者の予想通り特定の匂いで色の見え方が変わるならば、匂いによって色の知覚が歪み、調整結果に偏ったズレが生じるはずです。

たとえば、レモンの匂いを嗅いだ時には、四角形の色を灰色よりも少し黄色みを増した色に調整してしてしまう可能性があります。

またこの実験では、被験者に部屋の中で嗅いだ匂いが何であったかも回答してもらっています。

さて、匂いを嗅ぐことで色の見え方はどう変わったのでしょうか。

嗅いだ匂いから連想される色に過剰な補足を行う

実験の結果、コントロール条件の無臭の実験室内で作業を行った被験者たちは、PC上に提示された四角形を正確に灰色に調節することができました。

しかし匂いのする部屋で作業を行った被験者たちは、四角形の色の調節がズレてしまう現象が生じたのです。

具体的には、食べ物から連想される色の場合は、レモンは黄色、チェリーは赤茶色、コーヒーは茶色、キャラメルはオレンジ色がかった灰色に調整する傾向が確認されたのです。

しかしペッパーミントに関しては、匂いから連想される典型的な色である青緑色ではなく、赤茶色に調整する傾向がありました。

特定の香りが私たちの色の知覚を微妙に歪める
Credit: Ward et al.(2023).

研究チームはこの匂いから想起される色に無意識に調整が偏ってしまう現象を「過剰補償(Overcompensating)」が生じたと表現しています。

これまでの研究では、匂いによってバナナやリンゴなど果物自体の色の見え方がより想起される色(バナナならより黄色く、リンゴならより赤く)に偏って見えることが報告されていました。

しかし今回の研究では、匂いがすることで全く関連性のない対象(実験では四角形)の色までも変化させる可能性を示唆しています。

つまり、レモンの匂いを嗅いでいるときに、レモンの色だけでなく、周囲の対象の色も変化させているかもしれないのです。

ただ研究チームはこれにより、被験者たちが灰色を作るために、匂いから連想される色と反対方向に強く調整する可能性を予想していましたが、その傾向は確認できませんでした。

この理由はまだ明らかではありませんが、匂いがそこから連想される色と関連する方向へ人の色認識に影響を与えていることは確かなようです。

研究チームは「匂いと色の間の感覚間の結びつきはどこまでの範囲まで及ぶかに関しては、さらなる調査が必要だ」と述べています。

今回の実験で用いられた刺激は、コーヒーやレモンなど、日常的に口にする機会も多いものに限られていました。

しかしパパイヤなどの日常的に遭遇する機会が少ないものや、今まで嗅いだことも見たこともないものに対しても匂いと色に感覚間の結びつきが存在するかは検討する余地があるでしょう。

もしかすると、朝食を食べるときに、コーヒの匂いを嗅ぐことで、いつも目にしている景色の色は異なって見えているかもしれません。

ただこれは非常にささやかな作用であり、私たちが自覚することは難しいようです。

全ての画像を見る

参考文献

New psychology research shows how smells influence our color perception https://www.psypost.org/2023/10/new-psychology-research-shows-how-smells-influence-our-color-perception-214052

元論文

Odors modulate color appearance https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2023.1175703/full
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