スバルの次世代パワートレーンはどうなるのか……電動化シフトという動きはすでに見られる。7年前に同社の技術系役員は「電動モーターをうまく使いこなす将来」への見通しを語っていた。同時に「スバルは直4エンジンはやらない」と明言していた。しかし、次世代パワートレーンの姿がなかなか見えてこない。水平対向エンジンを縦置き搭載するため、過去のスバルはつねにトランスミッション(変速機)開発は自前だった。トヨタとFR2座の86/BRZを共同開発するに当たってはトヨタグループから部品の提供を受けたが……ん、縦置きトランスミッション? マツダがFRを開発しているではないか! トヨタ、スバル、マツダの3社がユニットを共有してもおかしくない。いや、その可能性は十分にある……以下は筆者の推測である。


TEXT◎牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

北米で販売されているクロストレック(日本名XV)にはPHEV仕様がある。

 スバルは北米向けに「スバル版THS II」とも呼べるHEV(ハイブリッド車)用トランスミッション搭載モデル「クロスバック」を設定している。同車はスバル初のPHEV(プラグインハイブリッド車)であり、外部からの充電が可能だ。トヨタからTHS(トヨタ・ハイブリッド・システム)IIのコンポーネンツであるモーター、パワーコントロールユニット、2次電池(バッテリー)、ハイブリッド用ECU、充電器の供給を受け、トヨタとは違った手法でPHEVを完成させた。横置きTHS IIユニットを分解し、縦置きAWD (全輪駆動)ユニットに組み替えた。しかも全長と前軸出力位置およびエンジン取り付け部分がリニアトロニックCVTとまったく同じ寸法に作られている。モーターが加わる分だけ重量は増すが、車両搭載要件はほかのスバルの変速機と互換性がある。

 興味深いのは、このHEVユニットをどう設計しても水平対向エンジンの出力軸とトランスミッション側の入力軸が合わないことを逆手に取り、この位置に歯数35:37という微妙な減速ギヤを組み込んだ点である。ここでの減速比1.057は、後段のトランスファー側にあるセカンダリー・リダクション・ドライブ・ギヤの増速比0.780との間でバランスを取ってた。HEVユニット全体を真横から見ると、スバル車に共通する前軸デフと後輪への出力軸との位置関係を動かさずにTHS IIのモーター/発電機と動力分配のための遊星歯車セットをうまくレイアウトしてることがわかる。

 なぜ、このHEVユニットを2019年に北米市場に投入したのか。その理由はスバルの米国でのポジションにある。2017年は65万台、2018年は68万台、そして2019年は70万台のスバル車が米国で売れた。、メーカー別でいまや全米第8位。マニアが支持するニッチ市場向けのメーカーではなく、社会的責任が出てきた。PHEVは全米の約4分の1州が導入するZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)規制に対応するために必須である。しかし、独力で開発・製造するにはコストと時間がかかる。だから盟友トヨタの力を借りたのだ。




 スバルはトヨタと株を持ち合う仲だ。以前はトヨタが一方的にスバルに出資していたが、現在はトヨタがスバルに20%出資しスバルもトヨタ株を約0.4%持つ。この日系メーカー同士での株保ち合いは、古くはいすゞとスズキなどに見られたが、近年のエポックはトヨタが初めて株も保ち合いを打診した相手がマツダだったということだ。トヨタはマツダに5.1%を出資しマツダはトヨタ株の約0.3%持つ。最近、この関係にスズキも加わった。




 世界的には株保ち合いは「ナンセンス」と呼ばれる。1%以下の出資など「意味がない」とも言われる。筆者は、ここに欧米流とは一線を画した日本流の「精神的つながり」とでも言うべき経営感覚を感じる。トヨタがスバルのPHEV開発に協力した背景は20%という出資比率である。しかし、見方を変えれば「86のお礼」でもある。おそらく、トヨタ、マツダ、スバル、スズキは、ゆるい資本関係のままで互いに自社のビジネを補完し合う関係を続けるだろう。

スバルの2ペダル用トランスミッションは全量自社製CVTであるリニアトロニックを使う。現在唯一のチェーン式CVTでチェーンはシェフラーグループが供給している。

 だとすれば、トランスミッションも「相乗り」の対象になって不思議はない。2週間前、筆者は本Motofan jpで「マツダのFR(フロントエンジン・リヤドライブ)プラットフォームをトヨタが利用する可能性」について述べた。すべて状況証拠からの推測であり、マツダとトヨタは何も発表していない。しかし、状況を分析すると「相乗りするほうが得策」という結論に至った。そしてプラットフォーム共有を前提にすると、当然、トランスミッション共有もあり得る。

マツダが開発中のFRプラットフォーム。登場は2023年頃の予定だ。マツダは現在縦置きトランスミッションの開発を進めているようで、特許もいくつか申請している。

 現在、マツダは横置きFF(フロントエンジン・フロントドライブ)用スカイアクティブATを自前で生産しているが、一部の部品はアイシン・エィ・ダブリュ(AAW)から供給を受けている。AAW はトヨタグループ企業だ。おそらく、2023年に登場するであろうFRのマツダ6には新生アイシン製のトランスミッションが搭載されているだろう。これが筆者の予測である。

アイシン・エィ・ダブリュはトヨタ/レクサス向けに縦置き10速AT/8速ATを供給している(6速ATもある)。

 来年3月、アイシン精機とAAWが経営統合する。AAWが携わってきたトランスミッションの開発・製造とカーナビゲーション事業は新会社である「株式会社アイシン」に引き継がれる。AAWは昨年4月にマニュアルトランスミッション(MT)専業のアイシン・エー・アイ(AAI)を経営統合しており、変速機全般の開発が可能だ。現在すでにAAWは世界最大の変速機メーカーであり、その製品はトヨタ、ドイツのVW(フォルクスワーゲン)、フランスのPSAなど世界のメジャー自動車グループに供給されている。

アイシン・エィ・ダブリュの1モーター2クラッチの横置きAT。PSAが積極的に採用している。

 AAWは電動モーターと変速機構を一体化したHEV(ハイブリッド・エレクトリック・ビークル=ハイブリッド車)ユニットでは、横置きFF用と縦置きFR用の両方で実績がある。最新作であるFF用1モーター2クラッチHEVユニットはフランスのグループPSAがファーストユーザーになり、初年度に年間5万基の採用を決めている。




 AAWはトヨタグループ企業だが、同社のステップ(有段)ATはじつに多くの欧州メーカーが採用している。かつてGMグループだったオペル/ボグソールはAAW製の6ATを使っている。VWはゴルフやパサートにAAW製6ATを使ってきた。日本ではVWといえばDCTだが、欧州仕様には6ATがあった。中国で生産されるVW車は、じつにその半数がAAW製6AT搭載モデルだ。この流れから最新の8代目ゴルフにもAAW製8ATが採用された。PSAはプジョー/シトロエン/DSともにAAW製ステップATの大口ユーザーであり、PSAがオペル/ボグソールを買収した現在、PSAはAAWにとってさらに重要なパートナーになった。




 ここに挙げた欧州メーカーのモデルは、たとえ同じAAW製ステップATを採用していても、変速プログラムや走りの味はまるで違う。ここはエンジンとの協調制御でどうにでもなる。社名をアイシンに改めたあとで登場するトヨタ/マツダ共用のエンジン縦置きFR用トランスミッションも同様だ。北米や中国で人気がある通常のステップAT(8速?それとも9速?)も開発されるだろうが、当然、EU(欧州連合)のCO2(二酸化炭素)排出規制に有利なPHEVトランスミッションが含まれるはずだ。




 EUでは2023年にCO2規制スケジュールおよび規制内容のレビューが行われる予定だ。中でも注目されるのはECV(エレクトリカリー・チャージャブル・ビークル=外部から充電できる車両)の扱いだ。BEV(バッテリー電気自動車)とPHEVをEU委員会やACEA(欧州自動車工業会)はECVと呼ぶようになった。個別にBEV、PHEVという名称を意図的に使わないようにし始めたのだろうと筆者は考えている。




 いま、EUのBEVはすべてCO2ゼロという勘定だ。発電方法が石炭火力でも風力でも同じ。とにかくゼロ。PHEVは電動だけの走行距離に応じてCO2排出は1/2、1/3、可能性としては1/4にもなるという計算式を使っている。超優遇PHEVである。しかし、これをしないと高級車メーカーが生きて行けない。欧州の高級自動車ブランドはEU経済にとっても財産であり、ぜひとも守りたい。だからPHEVのCO2カウント方法は特殊なのだ。




 もし、BEVのCO2排出を発電方法を考慮したLCA(ライフサイクル・アナリシス)ベースにすると、ゼロではなくなる。しかしEU委員会はゼロ計算のままで通したい。これは筆者の憶測だが、2023年のレビューでドイツがLCAベースを主張したとき、EU委員会は「PHEVの恩典も薄れますよ」と脅したいがためにECVという表現を使っているのではないだろうか。何か裏の意図があるように思えてならない。

レクサスLS/LCのハイブリッドモデルには疑似10速が入ったハイブリッドトランスミッションを使う。

 トヨタに話を戻すと、重量級FR車のPHEV化が当面の課題だ。トヨタはEU市場にHEVを多数投入しているが、FR車のPHEVがない。これを単独ではなくマツダとの相乗りで揃え、マツダもコストメリットを得る。そして、どこからともなく聞こえてくる「リニアトロニックはあと2年」というウワサもひっくるめて考えると、エンジン縦置きモデルのためのアイシン製新型トランスミッションをトヨタ、マツダ、スバルの3社が共有するというシナリオは、けして荒唐無稽ではない。




 この新生アイシン製PHEVユニットには、現在のPHEVとは少し違った考え方が入るような気がする。BEVとしての航続距離が増えればCO2排出計算で有利になるPHEVだが、バッテリー搭載量を増やすと車両重量が重たくなる。ここを手当てできるようなPHEVを考えているような気がする。そしてスバルは、現在の「クロスバック」のために考えたPHEVユニットの次世代品として使う。たとえばトヨタが年間60万基、スバルとマツダが20万基ずつなら合計100万基だ。これから量産効果は十分に期待できる。




 もちろん、すべては筆者の推測である、しかし、考えれば考えるほど、いろいろな発展系が頭に浮かんで来る。次世代パワートレーンはけして「電気一本足」ではない。VW「ID.3」の廉価仕様3万ユーロという戦略的価格には驚くばかりだが、VWはフォードとのBEVの相乗りでコストメリットを出しながら、一方ではSUV陣営の強化を進めている。VWは「電気でもエンジンでも、どっちへ転んでも対応できる戦略」を進めている。そのために量産数をそろえる。トヨタもまったく同じ考え方のはずだ。パワートレーンもプラットフォームも「数量」がますます重要になってくる。つい先日発表された「スズキ版RAV4」も、まさに数の戦術だと言える。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 [毎週月曜日朝更新企画]自動車業界ウラ分析「スバルの次世代パワートレーンはどうなるのか? トヨタ、マツダ、スバルでアイシンを使う?」