2020年度のMVアグスタは、800ccトリプルシリーズの敷居を下げるモデルとして、ブルターレ、ドラッグスター、ツーリスモヴェローチェの3機種に、親しみやすい価格設定の“ロッソ”を追加。今回はその中から、ブルターレ800ロッソの乗り味を紹介しよう。




REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)


PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)


問い合わせ先●MVアグスタジャパン(https://www.mv-agusta.jp/)

 世界各国のSS/ST600レギュレーションを考慮した675ccも存在するけれど、2011年から発売が始まったMVアグスタ製並列3気筒車の主役は、800ccである。このシリーズには、フルカウルスーパースポーツのF3、ネイキッドのブルターレ、ブルターレのカスタム仕様となるドラッグスター、レトロな雰囲気のスーパーヴェローチェ、ロングランでの快適性に的を絞ったツーリスモヴェローチェの5機種が存在し、それぞれに豊富なバリエーションモデルが存在するので、現在の同社のカタログには、15機種以上の800ccトリプルが並んでいる。

 そんなMVアグスタ製800ccトルプルは、今年度から、ブルターレ、ドラッグスター、ツーリスモヴェローチェの3機種に、親しみやすい価格のロッソを設定している。その名が示す通り、ボディが赤一色でペイントされたロッソの特徴は、エンジンパワーを110psに統一していることと(ブルターレとドラッグスターのRRは140ps)、一部の装飾や加工を省略していることくらいで、パッと見ではコストダウンの気配は感じられない。ちなみに3台のロッソは、各シリーズの標準モデルより50万円ほど安く、この価格はMVアグスタに憧れを抱くライダーにとって、嬉しい材料になるだろう。

 ブルターレ800ロッソのライバルと言ったら、即座に思いつくのはエンジン形式が同じ、トライアンフ・スピード/ストリートトリプルRSとヤマハMT-09だが、価格帯を考えると、ドゥカティ・モンスター1200やBMW S1000Rなども競合車になりそうである。とはいえMVオーナーの多くは、他メーカーとの比較ではなく、MVのラインアップ中で悩むケースのほうが多いようだ。

 細部の仕様変更は何度も行われているけれど、ブルターレ800の基本構成は、2013年に登場した初代以来、ほとんど変わっていない。となれば、現代の視点で接すると、多少なりとも古さを感じそうなものだが……。数年ぶりのブルターレ800としてロッソを走らせた僕は、微塵もそんな印象は抱かなかった。いや、厳密に言うならエンジンの低回転域のマネージメントはちょっとラフだったものの、その感触はあえての演出のような気がしないでもない。そんなことより僕が感心したのは軽さだ。並列3気筒エンジンはどんな領域からでも弾けるようなフィーリングを披露してくれるし、車体の動きは超が付くほどヒラヒラ&スイスイ。改めて言うのも気が引ける話だが、兄貴分に当たるブルターレ1000とも、前述した他メーカーのライバル候補とも、ブルターレ800の乗り味はまったく違うのである。いずれにしても、2013年の時点で、この乗り味の基盤が構築されていたことを認識した僕は、何となくしみじみした気分になってしまった。




 実際にロッソを走らせている最中、僕が意外だったのは、パワー不足を感じないうえに、パワー特性にも違和感がなかったこと。サーキットや見通しのいい峠道などで、ブルターレ800RRとの比較を行ったら、-30psを実感することになるだろうけれど、1台で走っているぶんには、ロッソだって十分にパワフルである。もっとも僕がそう感じた背景には、ライディングのノイズとなる慣性トルクが適度に緩和され、燃焼トルクが瑞々しく感じられる、並列3気筒ならではの特性があるのかもしれない。もちろんこの点については、ブルターレ800RRやトライアンフとヤマハの並列3気筒車にも通じる話だが、パワーの落とし方や車体の設定が絶妙なのだろう、ロッソはとにかくスロットルが開けやすいのだ。




 オールラウンドに使えるMVアグスタと言ったら、筆頭に挙がるのはツーリスモヴェローチェである。とはいえ今回の試乗を通して、僕はブルターレ800ロッソを気軽でスポーティなオールラウンダーと呼んでいいんじゃないかと思った。もちろん、快適性や安定性はツーリスモヴェローチェに軍配が上がるものの、とっつきやすさや日常域での使い勝手のよさなら、車重が16kg軽く、シートが20mm低く、軸間距離が45mm短い、ブルターレ800ロッソのほうが上なのだから。

F3ほど戦闘的な気分にはならないけれど、一般的なスポーツネイキッドの基準で考えると、ロッソを含めたブルターレ800のライポジはスポーツ性重視で、ハンドルはやや低く、シートはやや高め。僕自身はこの乗車姿勢に好感を抱いているけれど、フレンドリーさを高めたい場合は、リアの車高を少し下げてもいいのかもしれない。

ディテール解説

ブルターレの特徴である楕円型ヘッドライトは、現代のMVアグスタの生みの親として知られるマッシモ・タンブリーニが原型を考案。MVアグスタ専用のニッシン製マスターシリンダーも、タンブリーニがデザインを手がけた。

昨今ではスポーツネイキッドの定番になっているけれど、ブルターレは2001年に登場した初代750から、アルミテーパーハンドルを採用。φ43mm倒立フォークはマルゾッキ。右に伸び、左に圧側ダンパーアジャスターが備わる。

コンパクトなメーターはモノクロ液晶。右端にはエンジンモードとABS/トラクションコントロールのレベル、左端にはギアポジションを表示。

左上に備わる細長いスイッチは、メーター内の表示切り替えと設定変更用。かつてのMVアグスタのウインカースイッチは、今回試乗したロッソのような最下段が定番だったが、最近は中央付近のモデルが増えている。
右側スイッチボックスには、ハザード、4種のエンジンモード選択ボタン、セル/キルスイッチが備わる。バックミラーの支持部は、ボルトを1本しか使わないクイックリリース構造。

シートレザーは側面と上面で異なる素材を使用。ウレタンは硬めの印象で、スポーツライディングには最適だが、ロングツーリングに使うと尻が痛くなるかもしれない。タンデムシート下は電装系部品でギュウギュウ。

シートカウル裏面はフラッシュサーフェス化を徹底。テールランプはツライチを意識したデザインで、リアウインカーがナンバープレートと共にスイングアームにマウントされているため、テール周辺はかなりスッキリした印象。

ステップはラバーなしのスポーティな構成。シフトペダルは位置調整が可能。標準装備のクイックシフターは、アップとダウンの両方に対応する。

並列3気筒エンジンは、量産車では珍しい逆回転クランク/4軸構成/カセット式ミッションを採用。カムチェーンは左サイドに設置されている。RRの13.3:1に対して、ロッソの圧縮比はやや低めの12.3:1。

流麗なマフラーは右側3本出し。排出ガス・騒音規制が世界一厳しいと言われた2010年代中盤以前の日本では、このスタイルで販売できず、日本市場専用マフラーが開発されたが、現在はイタリア本国と同じ仕様で販売。

ブレーキは、F:φ320mmディスク+ラジアルマウント式4ピストンで、R:φ220mmディスク+対向式2ピストンで、ブランドはブレンボ。ABSはボッシュの9Plus。

スポーク部の切削加工は省略されているものの、3.50×17/5.50×17のアルミ鋳造ホイールは、基本的にはRRと同じ。タイヤはピレリ・ディアブロロッソⅢ。

リアショックはザックス。なお排気量や年式によって構造は異なるが、トリレス構造のスチールパイプ+アルミ製ピボットプレートのフレームと片持ち式スイングアームは、1999年以降のMVアグスタ全モデルに共通する要素。

エンジン形式:4ストローク DOHC4バルブ並列3気筒


総排気量:798cc


圧縮比:12.3:1


ボア×ストローク:79.0mm×54.3mm


最高出力:110hp/11500rpm


最大トルク:8.46kgm/7600rpm


エンジンマネージメント:MVICSイグニッションシステム


ミッション:6速


クラッチ:湿式多板スリッパークラッチ




全長×全幅:2045mm×875mm


ホイールベース:1400mm


シート高:830mm


始動方式:セル


タンク容量 16.5L


車両重量:175kg(乾燥)




フレーム:スチールパイプ・トレリスフレーム


スイングアーム:アルミニウム・シングルサイド


フロントサスペンション:マルゾッキ φ43mm倒立式


リヤサスペンション:ザックス


フロントブレーキ:φ320mmディスク+ラジアルマウント式4ピストンキャリパー


リアブレーキ:φ220mmディスク+対向式2ピストンキャリパー


前後ホイール:3.50×17 5.50×17


前後タイヤ:120/70ZR17 180/55ZR17

テスター:中村友彦


1900年代初頭の旧車から最新スーパースポーツまで、ありとあらゆるバイクに興味を示す、雑誌業界23年目のフリーランス。MVアグスタに関しては、近年のレギュラーモデルだけではなく、1972年型750Sや1976年型750Sアメリカ、マーニフレーム車、1999年型F4 750セリエオロなど、貴重車も経験している。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 【1,892,000円】MVアグスタ ブルターレ800ロッソ試乗| 標準モデルより約50万円安い、お買い得モデルです。