R nineT(アールナインティー)の派生であるR nineTレーサー。大型ロケットカウルにセパハン、シングルシートといったカフェレーサーテイストな装備を身に纏い、1970年代のレースマシンを彷彿とさせる。ベースマシンのR nineTとは足周りやポジションも異なり、乗り味は全くの別モノに!? 現代では新鮮に映るレトロスタイルのマシンの試乗は、多くの人から視線を浴びる良き思い出となりました(笑)。




REPORT●川越 憲(KAWAGOE Ken)


PHOTO&EDIT●佐藤恭央(SATO Yasuo)

BMW・R NineT Racer……1,930,000 円〜

試乗車の「ライト・ホワイト」と「ブラック・ストーム・メタリック/アルム(+9万6000円)」の2色展開。大型のロケットカウルはインパクト抜群で、ボクサーエンジン(1169cc)や2in1のマフラーとのバランスもグッド! ベース車のR nineTとは異なり、正立フォークやキャストホイールを採用しているのもレーサーの特徴だ。

 そのカッコよさから、行き違うライダーのみならず一般の通行人からも興味を抱いていることがひしひしと伝わってきた。


 以前にR nimeTに試乗した際もあらゆる方向から視線を感じたものだが、今回試乗したR nimeTレーサーはそれ以上の注目度だ! 白ベースに青と赤を交えたBMWワークスレーサーを思わせるカラーリングだったこともあるが、なにしろ巨大なロケットカウルが目立つことこの上ない。ライダーに極端な前傾を強いるポジションもそうだ。信号待ちで、普通に座ってハンドルに手をかけているだけなのに、他者からは「シグナルグランプリでもするの!?」と勘違いされてしまう様相なのである。


 このR nimeTレーサーが発売されたのは2017年。デザインのモチーフは1970年代に活躍した往年のスーパーバイクレーサーR90Sだが、同時にポジションも当時のマシンを忠実に再現したというからハンパない。“Racer”の車名は伊達ではないのだ。

 スタンダード版のR nineTとはエンジンスペックは同じだが、R nineTの倒立フォークに対してR nineTレーサーは正立フォークを採用。フロントフォークを立ち気味にしたことに加え、、低くて遠いハンドル位置も相まって前傾の強い姿勢が強いられる。


ステップ位置もR nineTと比べてバック&アップされていることもあり、小柄な人だと燃料タンクにしがみつくようなライディングフォームになる。R nineTよりもさらに後方に着座するポジションになっていて、50代の身体には結構な負担がかかる(笑)。


 ハングオフ(ハングオン)といったライディングフォームが登場する以前のレーシングマシンは、タイヤのグリップも低く、エンジンのトルクも不足していた。そのため、リヤにできるだけ荷重をかけてトランクションを稼ぐため、リヤタイヤの上に座るようなポジションが主流だった。


 R nineTレーサーはエンジン、フレーム、タイヤも現代の性能を持っているので昔の乗り方をする必要は全くないのだが、車体の雰囲気だけでなく、当時のポジションを再現し、それを体感できるのがコンセプトの一つだと見ている。

 BMWは、快適性においても妥協なく追求してきたメーカーだ。その意味においてR nineTレーサーは異色の存在と思えた。ルックスだけでなく乗り味もハードテイストなのだ。ただ、共通するのは妥協がない点。見た目のハードさに輪をかけて、フレンドリー的なごまかしは一切ない。


 筆者は80年代のレーサーレプリカブームの影響を最も受けた世代なので、前傾姿勢は嫌いではない。いや、むしろ大好物である! TZRやNSRなど2ストレプリカを複数台所有しているほどだ。だが、このポジションは強烈だった。ステップ位置が後方の高い位置にあるため、シートの前側に座ろうとしてもそれを許さないのだ。


 1970年代当時のレーサーのポジションを再現しているそうだが、「当時のライダーはこれほど大変だったのか!」と一人唸ってしまった。しかし、前方に乗ることをあきらめて、ニーグリップを崩さず、自然なポジショニングに馴れるとこの姿勢や乗り方がだんだん楽しくなってきた!


 コーナー手前でしっかり減速し、リヤタイヤの上に乗るように体重移動して加速しながら車体を曲げていくと、押し出されるようなトルクも相まって、オオッ!と声が出てしまうほどコーナリングが快感に! フロントタイヤに荷重をかけて曲がる現代のスポーツバイクとは正反対な乗り方なのだが、R nineTレーサーだと安定感があり、安心してスロットルを開けられる。真っ直ぐ走っているよりコーナリングがラクに感じられるのがR nineTレーサーの味なのだろう。

 そうかといって、ワインディングに繰り出さなければ楽しくない、というバイクではない。街中を流して走っているだけでも、R nineTレーサーの前傾ポジションは常にバイクに乗っている緊張感を忘れさせないので、近所のカフェまで走らせる使い方でもスポーツした充実感がある。また、ウエアをコーディネイトして出かければ、スタイリッシュな大人のライダーとしてアピールできる。コスプレというわけではないが、バイクとともに衣装や生活のスタイルを決定づける要素があるのは、テーマをしっかりと持っているバイクの特権だろう。

 なお、R nineTレーサーには、ABSの他に、後輪の空転を防ぐASC(オートマチック・スタビリティ・コントロール)と呼ばれる電子制御が搭載されている。クラシックなモデルだからといって安全性に手を抜かないのもBMWならでは。


 残念なことに、本国では昨年の2019年7月生産分をもってR nineTレーサーの生産が終了となっている。わずか2年の短命に終わったが、今後も色褪せることがないプレミアムになるのは間違いない! 店頭在庫のみの販売なので新車を狙っている人はお早めに。

●足つきチェック(ライダー身長182cm)





車体がスリムなのでシート高805mm以上に足着きが良い。ただ、ハンドルのグリップ位置が遠く、シートとほぼ面一になるほど低いのでかなり前傾姿勢となる。ハンドルとバックステップの位置関係により、常にニーグリップをしつつ背筋で身体を支えないと腕に力が入りすぎる傾向にあるため慣れが必要だ。

●ディテール解説

アナログの丸型2連メーターがカフェレーサーを彷彿とさせる。フォークトップにクリップオンされたセパレートハンドルは絞り角が緩く、ライダーから遠い位置にセットされている。ミラーステーがカウルの内側からマウントされているのもデザイン上のポイント!

回転計は1万rpmまで刻まれレッドゾーンは8500rpmから。スピードメーターは220km/hスケールだ。液晶には時刻、外気温、走行距離・時間、電圧などを表示。
電子制御はABSとASCのみなのでスイッチボックスはBMWのラインナップの中ではシンプル。ABSはキャンセルもできる。


シート座面が広く、座り心地も良好だ。シングルシートカバーにはストッパーも付いているが、そこに触れるようだと腕が伸びきってしまうようなライディングフォームになる。

シングルシートカウルはキー付きではないが内部が小物入れになっている。標準装備のETC2.0車載器がピッタリ収まる!

フローティングマウント式のダブルディスクとブレンボ製4ポットキャリパーによって、扱いやすく強力な制動力を発揮。前後ホイールともスポーツバイクで一般的な17インチを採用しており、タイヤ銘柄の選択肢も広い。

リヤブレーキはシングルディスクと2ポットのフローティングキャリパーの組み合わせ。ホイールは剛性の高い5本キャスト仕様。
ブレーキやチェンジレバーの剛性が高く、組み付け精度も優れているため、カッチリとした操作感がある。マスターシリンダーはブレンボ製を採用。


リヤはBMW独自のEVOパラレバーを装備。ショックユニットのストローク量は120mmで、伸び側ダンピングとイニシャル調整が可能。

排気量1169ccの空油冷DOHCフラットツインは最高出力110psを発揮。車両重量は218kgとこのクラスでは軽量なこともあって、低速から怒涛の加速を楽しめる。

重低音を響かせるステンレス製の2in1メガホンサイレンサーは左側から取り回しされる。サイレンサーエンドの処理は今時のレーシングマフラー風でスタイリッシュな印象。

丸目一灯の大型ヘッドライトを昔ながらのロケットカウルで覆ったデザインは、スポーツバイクの原点を見るようで新鮮! ウインカーの装着位置がカウルの下で後退しているため、よりロケットカウルの曲線美が強調されている。

エッジの効いたリヤウインカーとメーターステーに配置されたテールランプにはLEDを採用。贅肉をそぎ落としたようなデザインが魅力。

■主要諸元■

■車体寸法・重量


全長:2,105 mm


全幅(ミラーを除く):770 mm


全高(ミラーを除く):1,125 mm


シート高:805 mm


インナーレッグ曲線:1,785 mm


車両重量:218kg


燃料タンク容量:17 L(リザーブ約3.5 L)




■エンジン


エンジン型式:4ストロークDOHC水平対向2気筒4バルブ


ボア×ストローク:101 mm x 73 mm


排気量:1,169 cc


最高出力:81 kW(110PS)/ 7,750 rpm


最大トルク:116 Nm / 6,000 rpm


圧縮比:12.0 : 1


点火/噴射制御:電子制御エンジンマネージメントシステム(DME)、燃料カットオフ機能付


エミッション制御:三元触媒コンバータ、排ガス基準EU4をクリア


燃料消費率(WMTCモード値クラス3 ※1名乗車時):18.9 km/L


燃料種類:無鉛プレミアムガソリン




■電装係


オルタネータ:720 W


バッテリー:12V / 12Ah(メンテナンスフリー)




■パワートランスミッション


クラッチ:乾式単板


ミッション: 6速


駆動方式:ドライブシャフト式




■車体・サスペンション


フレーム:スチールパイプ製4ピースフレーム


フロントサスペンション:テレスコピックフォーク(43 mm径)


リヤサスペンション:BMW Motorrad EVOパラレバー、センタースプリングストラット、片持ち式スイングアーム、可変リバウンドダンピング調整、ダブルリングナット式


サスペンションストローク:


 フロント:125mm


 リヤ:120mm


軸間距離:1,490 mm


キャスター:103.9 mm


ステアリングヘッド角度:63.6°


ホイール:キャストホイール


ホイールサイズ:


 フロント:3.50 – 17"


 リヤ:5.50 – 17"


タイヤサイズ:


 フロント:120 / 70 ZR17


 リヤ:180 / 55 ZR17


ブレーキ:


 フロント:フローティングダブルディスク、4ピストンモノブロックブレーキキャリバー


 リヤ:固定式シングルディスク、2ピストンフローティングキャリバー


ABS:BMW Motorrad ABS
情報提供元: MotorFan
記事名:「 ノスタルジックでイイ感じ。 BMWのカフェレーサーってどうなの?|R NineT Race試乗レポ