ロータリーを生かすためのパッケージングとはどうあるべきか。


元マツダのエンジニアでRX-7(SA/FC)のプロダクト・プランナーだった須藤將がRE搭載車のパッケージングについての試行錯誤について再び語る。




TEXT:須藤 將(Susumu SUTO)


PHOTO:マツダ

 1980年の初戦のデイトナ24時間レースは、ポルシェ914の後塵を拝し優勝を逃したが、第2戦セブリン グ12間レースから快進撃が始まり、IMSAシリーズ全14戦中10勝を記録。マツダは、GTUクラスのマニュファクチャラーズチャンピオンとなった。




 翌1981年もポルシェ911SCを下し、2年連続GTUク ラスのマニュファクチャラーズチャンピオンとなった。




 こうした時期に、次期RX-7(FC3S)のコンセプトスタディが始まった。




 デイトナ24時間でポルシェとの激突レースを見たり、ディストリビューターからユーザーの要望を聞いたりするうちに、次期RX-7はポルシェと対抗できるスポーツカーに育成すべきとの思いが強くなってきた。




 経営会議に、①現行RX-7のコンセプトを継承した案、②未来的な電子制御を採用した案、③現行RX-7が正常進化したポルシェと対抗できるミドルスポーツカー案を本命として提案し、③の承認を得た。




 スポーツカー市場はそれほど大きくはない。ポルシェは914、924とミドルスポーツカーで売上を伸ばそうとしてきている。




 モータースポーツの場でポルシェと激突した以上、スポーツカー市場でもポルシェと激突することは避けられない。それならば、次期RX-7は、ポルシェを上回るミドルスポーツカーにしなければならないとした。




 コンセプトワークで、「スポーツカーの基本を堅持しつつ、大人の感性にミートするクルマ」をコンセプトに「プログレス」を開発テーマとすることになった。「スポーツカーの基本を堅持しつつ」は、走る、曲がる、止まるというクルマの動作を自分の体のように意のままにコントロールでき、スポーツとしての心地よい汗がかけること。「走る」は、ミドルスポーツカーを目指すので、P132(対米用SA)の13Bロータリーエンジンをベースエンジンにすることにした。このSI 13Bは、吸気管内の吸気脈動を利用した動的過給機構と6PI機構を組み合わせたもので、最大出力が135ps、最大トルクが18.5kgm、低回転から高回転までの全回転域で太いトルクを発生する。次期RX-7では、重量増に対応できるように、さらに改良して140psを目標値にした。

水冷式のツイン・スクロール・ターボと軽量で冷却効率の良いダイレクト・インター・クーラーを採用。エンジン総排気量は654ccx2で、最高出力(ネット)185ps/6500rpm、最大トルク(ネット)25.0kgm/3500rpmの性能を発生した。

コスモスポーツを祖とするマツダ・スポーツモデルのDNA、フロント・ミッドシップレイアウト、50:50に近い重量配分、低いヨー感性モーメントをベースにした優れたハンドリング。

 1983年にポルシェ924が2.5ℓエンジンにアップしたポルシェ944になるという情報で、SI 13Bエンジンだけでは不十分であると考え、ターボチャージャーを採用することにした。




 次に「曲がる」は、「スポーツカーの基本を堅持しつつ、大人の感性にミートするクルマ」のサスペ ンションとは、ということから、「高速安定性と低速での機敏性を両立させ、限界性能は高く、かつ限界を超えたときのコントロール性を確保する」がサスペンションのコンセプトとなった。




 これが、リヤのトーコントロール・ハブという具体的な構想になった。このハブは、3点で支持され、エンジンブレーキがかかるとリヤタイヤはやや外側を向き旋回性を高め、旋回中に横加重がかかるとリヤタイヤは内側を向きコーナリング性能を高める。さらに、アクセルを開いてコーナーを脱出しようと駆動力をかけるとリヤタイヤは内側を向き限界性能を高めるものであると同時に、直進時も駆動力でリヤタイヤは内側を向き、直進安定性を高めるものであった。




 フロント・サスペンションは、ストラットを踏襲、ステアリングはラック&ピニオンを新たに採用して、速度感応型のパワーステアリングとした。「止まる」は、「走る」とともに重要な機能。「どんなスピードからでも安心してクルマを止めることができる」がブレーキのコンセプトで、4輪にディスクブレーキが採用され、スタンダードはフロントがベンチレーテッド、リヤがソリッドディスク、15インチの上級車用にはフロントがアルミキャリパー、対向4ピストン、フロント・リヤともにベンチレーテッドディスクとした。




 これで、走る、曲がる、止まるという基本要件が明らかになった。




 これらの基本要件を包含するのがパッケージングである。パッケージングの基本はSA22Cをそのまま踏襲することにした。




 すなわち、フロント・ミッドシップ・レイアウト、2+2シーターと50:50の重量配分は必須条件とした。




 ロータリーエンジンをフロント・ミッドシップにレイアウトすることから始まった。SA22Cと異なり、ステアリングにラック&ピニオンを採用したために、このラック&ピニオンのケースが基準となって、エンジンの位置が決まるため、SA22Cよりエンジンを少し後退させなければならない。ダッシュボードを凹ませて、エンジンをもぐりこませるが、SA22Cよりダッシュボードを10mm後退させることになり、ホイールベースが+10mmの2430mmとなった。




 14インチタイヤの採用などでトレッドを前/後1420mm(+30mm)/1400mm(+40mm)、全幅1690mm(+40mm)とした。




 シートの高機能化でヒップポイントが+10mmとなり、全高が1270mmとなった。また、衝突要件で全長が+25mmで、4310mmとなった。

 パッケージングは固まったが、ミドルスポーツカーとしての要件や装備で、スポーツカーの命とでもいえる重量がかなり目標を上回った。それにより米国エミッションランク2875lbをオーバーすることが生じた。




 1カ月間プロジェクトを凍結して、軽量化することになった。




 プロジェクトメンバー全員を集め、メンバーひとりが1グラム軽減する「グラム作戦」が実施された。「グラム作戦」活動の結果、合計で43kgの重量を軽減。米国のエミッションランクに15kgの余裕ができた。




 この「グラム作戦」は前後の重量配分にも有利に働き、2人乗りで、63ℓの燃料タンクを満タンにすると、理想的重量配分の50:50になった。




 こうしたパッケージングは、コスモスポーツを祖とするマツダのスポーツモデルのDNAで、フロント・ミッドシップのレイアウト、50:50に近い重量配分と低いヨー慣性モーメントをベースにした優れたハンドリングを実現することができた。




※2008年4月に発行されたMotor Fan illustrated Vol.19「ロータリー・エンジン 基礎知識とその未来」より




次回は「マツダRX-01からRX-8へ テーマは『低ヨー慣性モーメント』」をお送りします。お楽しみに。

FC3S(RX-7)


全長×全幅×全高(mm):4310×1690×1270


ホイールベース(mm):2430


トレッド前後(mm):1450/1440


車量(kg):1210-1290


エンジン:13B型
情報提供元: MotorFan
記事名:「 仮想敵ポルシェに勝つために FC3S(2代目マツダ・サバンナRX7)のパッケージング:ロータリーエンジンの可能性⑤