和製ベスパの称号をほしいままに? 百花繚乱の原付スクーター市場に切り込んだ「ジェンマ・クエスト50/90」。“大人スクーター”のはしりとも言えるコンセプトは80年代でも斬新だった!




月刊モトチャンプ 2019年12月号より


語り●津田洋介(TSUDA Yosuke)/TDF


まとめ●宮崎正行(MIYAZAKI Masayuki)

津田さんと宮崎は永遠に友だちになれない?

──ストリートクルーザーってなんだか知っていますか、津田さん?




津田 ストリートファイターじゃなくてクルーザー?250㏄か400㏄くらいのアメリカンのこと?




──ブブーッ! 正解は82年発売のスズキ・ジェンマ125のカタログの「オレはこんな奴」表記です。




津田 ストリートクルーザー(笑)




──踊るコピーは「都会はいいスクーターに敏感だ」で主語は都会。脇を固めるのはお決まりの外国人男女モデル。エイティーズの幕開けにぴったりな、浮足立ったキーワードの連続技です! この時期はなんといっても〝ガイジン〟モデル。




津田 このころから日本人はガイジンに弱かったのね~。




──そして不肖ミヤザキも当時、このアダルティな雰囲気にたいへん憧れていたことをここで告白します。




津田 ん? 今回は反省会なの?




──ジェンマへの愛と妄想量はだれにも負けません!




津田 ツボはそこなんだ。スポスク志向のオレとはだいぶ違うな。いつも話が合わないわけだ。




──今回ピックアップするのは1986年発売のジェンマ・クエスト。ちょっと丸くなってサブネーム「クエスト」が付いたほうです。




津田 なんだか今日は饒舌だね。




──いろいろあって大好きだったんです……ジェンマ・クエスト。




津田 クエストの意味って?




──カタログ中面の欄外に、極小文字でこんな風に記されていました。「これぞ、という意味のイタリア語。つまり本格スクーターの決定版という意味がこめられているのです」。




津田 「こめられているのです」あたりがなんだか他人行儀だな。




──その他にも大人、成熟、ゆとり、ヨーロピアン、ハイグレードなどの惹句が多く並んでいます。うーん、ハイグレード!




津田 すがすがしいくらいの死語。




──ハイソサエティなんてのもあったなあ。津田さんはハイソライフの当事者ではなかったカンジですね。




津田 いちいち上から目線が気になるな……。でもジェンマ・クエスト、免許も乗ったこともないのに、どこがそんなに好きだったの?




──「アーバン」で「アダルト」だから。イメージが。音楽ジャンルで言えばAOR、服で言えばブラックの3ピース、カノジョはピタピタの白いワンピース、愛車はブリティッシュグリーンでV12のジャガーXJSで、自宅は田園調布の……。




津田 もういいって!




──ここらへんの妄想は、誰にも止められませんよ。何人たりとも、ね。




津田 だからカッコつけんなって。だいたい中3でしょ。




──はい。2代目ジェンマ発売当時、僕は15歳。カタログをクリアの下じきに挟んでは、授業そっちのけで眺めていました。ちなみに裏面はホンダのGB250クラブマン。これもめちゃくちゃ好きでした。




津田 イヤな中学生だな。




──自分でもそう思います。でもしょうがない。カッコいい! 乗ってみたい! できれば年上のお姉さんとタンデムしたい! と思っちゃったんだから。湧き上がる欲望に対しては無力なチューボーですから。




津田 速そうなバイクに目は行かなかったの?




──エアロ系のCBRとかは好きでした。でもレーサーレプリカはそれほどでも……。




津田 ひねくれてるなあ、反主流派め。友だち少なかっただろ。




──津田さんに(だけは)は言われたくありません。




津田 でもジェンマは50も90もエンジンがパワフルでけっこう速かったんだよね。90はもう少しタイヤが太かったらよかったな。3.00だからね。チューブレスで3.50くらいあってもよかった。




──見ているところがまったく違いすぎる……。




津田 前方吸気、右後方排気エンジン。90㏄のを50㏄のハイとかに載せ替えて乗っている走り屋もいたね。




──初恋の人になんてことを……。




津田 ジェンマのテレビCMのナレーションはたしか『銀河鉄道999』の城達也さんだったね。




──懐かしい……FM東京の『ジェットストリーム』ですね。中学のときに聞きました。ちなみに編集部サンタサンと宮崎は同い年で、東京で中学校が隣り同士という間柄です。




津田 どこの中学校なの?




──シティボーイ宮崎が中野二中、原チャリ小僧サンタサンが中野九中です。互いに共通のクラスメイトが何人もいるので、もしかしたら当時会っていたかもしません。




津田 ふーん。




──ものすごく興味が薄そうですね。で、何が言いたいかというとね。




津田 へえ。




──津田さんが持っているジェンマ・クエスト90、限りなく10万円に近い1万円でゆずってください!

みずからのベスパ・コンプレックスを隠すことなくキャッチで表現してしまった画期的(自虐的?)ビジュアルがこちら。イタリア人になりたかった日本人は、やっぱりどことなくジャパニーズな感じでなんだか微笑ましい。

レッド外装の印象が強いジェンマ50だが、ホワイトとシルバーとブラックもラインナップされていた。レッド以外の3色が意外と“フツー”でおとなしい見た目だけに、レッド=イタリアンのイメージ誘導がばっちりハマった。

シックなブラック外装×グレー内装のジェンマ90には、こんなにも“パステル”な兄弟がいた。このレアカラーが現存して元気に走っているところを不意に目の当たりにしてしまったら……と想像すると、涙が出そう。

「青春型録」連載担当の宮崎が、中学3年生のときに美術の授業で彫った“完コピ”レリーフがこちら。ジェンマへの愛がいかに深かったかを知ることができる作品である。まさかこんなカタチで陽の目を見ることになるとは。

こちらのジェンマ90は、現在TDFの広大なヤードに留め置かれた奇跡の実動車。宮崎の「いくらで売ってくれるんですか?」の問いに「いくらで売ってほしい?」と駆け引きを仕掛けてくる津田さんの男気に期待マックス。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 憧れ、モテ、大人、セックス。ジェンマには全部詰まっている「スズキ・ジェンマクエスト(1986)」【青春型録 第13回】 【月刊モトチャンプ 2019年12月号】