日本登場以来、アウディらしい上質感と先進性、そして走りの良さで高い人気を誇る新型A4に、新たに1.4TFSIが加わった。エントリーグレードということで価格の安さに目が行きがちだが、実際に触れて乗った印象はどのようなものなのだろうか。1.4TFSIと2.0TFSIクワトロの2台を連れ出して、新たな魅力を加えたA4の真価を探ってみよう。




TEXT●高平高輝(TAKAHIRA Koki)


PHOTO●宮門秀行(MIYAKADO Hideyuki)




※本稿は2016年11月発売の「アウディA4/S4のすべて」に掲載されたものを転載したものです。車両の仕様や道路の状況など、現在とは異なっている場合がありますのでご了承ください。

主張しすぎない穏やかさ 洗練とはこういうことだ

 「近ごろ真っ当なセダンが見当たらない」とお嘆きだった皆さんに朗報である。もちろん、真っ当で上質なセダン(とステーションワゴン)がなかったわけではない。ただし、どうも最近は“辛口”のスポーティ寄りのモデルばかりが目につき、控えめで落ち着いた穏当な仕様となるとなかなか候補が思い浮かばないという状況だった。その点、新型A4はシングルフレームグリルが以前より落ち着いたデザインになったこともあり、あまり派手では困るという大人向け、目立つのが嫌いな方にも最適だ。しかも今回新たに150㎰の1.4ℓ4気筒ターボエンジンを積んだ、よりスタンダードなモデルが追加された。ごく普通の、過剰ではないパフォーマンスを備えた上質で穏当なセダンとワゴンを求める人には打ってつけではないだろうか。




 2016年初めに日本に導入された新型A4は中身が一新されているいっぽう、エクステリアはやや大人しく、先代とほとんど見分けがつかないではないかと指摘する声が多かったが、私に言わせれば、それこそアウディの真骨頂である。精密なエンジニアリングと上質で洗練された仕立てがアウディの十八番であり、クールで都会的でファッショナブルなイメージはその後に付け加えられたものなのである。ファッション雑誌に登場するような“キメキメ”スタイルを毎日実践するのは普通の人には難しい。日常的に使う実用車がカッコ良すぎるのはちょっと考えものだ、と私は思う。大人ならば、主張しすぎない、さりげない伊達さを選ぶはずである。




 これまで日本仕様のA4のパワーユニットは2.0ℓ直噴ターボエンジンのみだった。FWSの2.0TFSI用はミラーサイクルを採用した190㎰版、AWDのクワトロ用は高出力型で252㎰を生み出していたが、今回追加された「1.4TFSI」の車両価格は447万円で、スポーツサスペンションや17インチホイール、リヤビューカメラ等を備える「1.4TFSIスポーツ」は478万円。またアバントはそれぞれ29万円高の476万円と507万円である。これまでの2.0TFSIは518万円だったので、約70万円安いエントリーグレードということになる。




 かねてからA4のクオリティの高さには感心していたものの、キビキビ飛ばす人向けの仕様ばかりが目立つと考えていた私のようなオヤジには、1.4TFSIは実にありがたい追加モデルである。もちろん、時には山道を敏捷に駆け巡りたいと思うこともあるが、四六時中飛ばしているわけではない。穏やかでスポーティ過ぎない仕様が欲しいと考えていた人も少なくないはずだ。もともとA4の本国版には1.4ℓターボやディーゼルもラインナップされていたうえに、ライバルたるメルセデスCクラスやBMW3シリーズに比べ、日本では2.0TFSIがベーシックモデルだったA4はちょっと割高という声もあった。要するに1.4TFSIは待ち望まれていたモデルなのである。

Sportグレードは、17インチのアルミホイールやクローム仕上げを多用したスポーツエクステリアを採用し、高級感漂うルックスを実現。2.0TFSIクワトロは10スポークの17インチホイールが標準だが、撮影車両はS lineパッケージの18インチホイールを装着する。

 試乗したのは1.4TFSIスポーツのほうだが、このモデルでもアウディA4の特長である繊細な軽やかさにはまったく変わりがない。むしろ、パワフルなエンジンと切れ味鋭い7段Sトロニックにいつも急かされているような感じがない分だけ、ラグジュアリーな雰囲気さえする。世の中には速く走ることに重きをおかない人もたくさんいることを忘れてはいけない。滑らかな加速を試しているうちに、かつてレクサス・ブランドが国内導入された当初、メーカーが考えるよりもずっと多くの年配のユーザーがセダンのISを選んだことを思い出した。




 そんなユーザーは皆さん「真っ当で品が良く、派手じゃなく、使いやすいサイズで、快適に使いこなせるセダン」が希望だったという。スポーティ重視の若いユーザーではなく、ごく当たり前のプレミアムセダンを求める年配のユーザーがISを選んだのである。若者には平凡で抹香臭いチョイスに聞こえるかもしれないが、今では日本のセダンもイナズマ顔や爬虫類顔のフロントグリルを持つものばかり、派手派手しいものを見ると引いてしまうようなユーザーからは敬遠されて当たり前である。




 普段から鍛えている人は、たとえただ立っていても、普通に歩いていても姿勢がきれいで、所作振る舞いが美しいものだが、この1.4TFSIスポーツもまさにそんな感じで、しなやかで安定している。スポーツサスペンションの細かな設定までは明らかではないが、従来の「Sライン・パッケージ」や「クワトロ」の足まわりがちょっと辛口すぎると感じていた人にはちょうどいい塩梅ではないだろうか。




 そもそも2.0ℓのTFSIでも本来205/60R16が標準装着タイヤで、17インチはオプションである。その“素”のA4でも、舞台を選ばずまったく問題なく飛ばせることはすでに確認済みである。1.4ℓモデルでも、身のこなしの切れの良さや、サラリ、カラリとしたフリクションと振動のなさは変わらない。緻密に仕立てられたものはスーッとごく滑らかに軽やかに動くものなのである。




 もちろん、常用するスピードレンジが違えばサスペンションやタイヤの仕様も異なるものが求められる。200㎞/hぐらいまでを当たり前のように使うドイツでは、低速ではビシッと締まったサスペンションか、あるいはダンパー制御まで含むアウディ・ドライブセレクトで折り合いをつける必要があるだろうが、日本での使用を考えれば優先事項は自ずと明らかではないだろうか。俺はドイツ人のように走る、という向きにはそれこそSでもRSでも他に高性能な選択肢が用意されている。

2.0ℓクワトロとの違いは高回転域だけ

 1.4ℓターボで快活に走れるのかという心配は無用である。110kW(150㎰)/5000~6000rpmと250Nm(25.5㎏m)/1500~3500rpmを生み出す1.4ℓ直噴ターボはまさしくダウンサイジングユニットらしく、低回転から非常に扱いやすく、実用域では十分以上に俊敏だ。いっぽうで高回転域でのパワーの盛り上がりと弾けるような鋭い吹け上がりにはやはりちょっと欠ける。フルスロットルでは4000rpmから回転の伸びが緩やかになり、低いギヤでは5700rpmぐらいで自動シフトアップする。回転計のレッドゾーンは6250rpmからだが、そこまで目一杯使う設定ではないようだ。それに対して252㎰を発揮するクワトロのエンジンは6750rpmのリミットぎりぎりまで猛然と吹け上がる点が大きな違いであり、トップエンドでもパワーが落ち込むことはない。




 もっとも2.0TFSIと1.4TFSIとの違いは、高回転域での伸びとトップエンドのパワーだけと言ってもいい。一般道では交通の流れをリードするように元気よく走ってもせいぜい4000rpmまで、普通はもっと手前でトントンと気持ち良くシフトアップしていくから、ピークパワーの差を意識する機会は少ないはずだ。そもそも、アバント1.4TFSIの車重は1490㎏(セダンはさらに40㎏軽い)で、2.0TFSIの1580㎏よりほぼ100㎏軽く、今回同時に試乗したクワトロよりは140㎏も軽いために、実用域での軽快感は優るとも劣らない。スルッと滑らかに動き出す身のこなしの軽さは印象的であり、またSトロニックも1.4ℓターボの特性に合わせて設定されているようで、発進時や極低速での軽い加減速時に時折気になるDCTのクラッチ断続によるギクシャク感もほとんど意識しなかった。我慢するどころか、この1.4TFSIが最も扱いやすいモデルかもしれない。

高い室内のクオリティは1.4ℓグレードでも同じ

 自他ともに認める、隙のないインテリアの緻密なフィニッシュは1.4TFSIでも変わりがないことはもちろんである。廉価版はクオリティをやや落とす、などという安易な手法を取っていてはアウディの暖簾に疵が付くというもの。いまやインテリアのクオリティは世界中のメーカーから目標とされているのである。




 いつだったか、スバルの試乗会に同社のエンジニアが比較実験車のA4クワトロを持ち込んだことがあった。その際に、エアコンやMMIのダイヤルだけでなく、コンソールの12Vソケットのカバーにまで、時計の竜頭のローレット加工のようなギザギザがきっちり刻んであるところに、他の社員が呆れたような声を上げていたものだ。感心するというより、そこまでしなくちゃいけないのかという、驚きの声だったように思う。シガーライターソケットのカバーなどどんなものでもいいじゃないか、と考えるメーカーもあるだろう。だがアウディはそうは考えない。どんなに小さな部品でも一事が万事、プレミアムブランドとはそういうものなのである。頭のてっぺんから爪の先まで忽ゆるがせにしない。細部まで注意が行き届いたエステティックな完璧主義は、ベーシックグレードでもまったく違いはない。




 ただし、自慢のバーチャルコックピットやマトリクスLEDヘッドライトは1.4TFSIだけでなく全車にオプション設定であることに注意されたい。安全運転支援システムも基本的なものはもちろん標準装備されるが、レベルによってはオプションとなり、この車には69万円のセーフティ・パッケージ(グレードによって各種あり)が装着されていた。S4でもすべては含まれない。




 若いカスタマーを惹きつけるために、どうしても各メーカーはスポーティさを強調するが、飛ばすことがスポーティではない。上質な軽快感や隙のないインテリアの仕上げ、スイッチ類の滑らかで確実な操作感など、他にも“スポーティ”と感じさせる項目は無数にある。奇をてらわないスタイルも、それが地味だとしたら地味で結構というものだ。プレミアムセダンは常に正攻法である。

AVANT 1.4TFSI Sport





A4の大きな魅力である緻密な作り込みを感じさせる上質なインテリアは1.4TFSIでも変わらない。装備面での大きな違いは、オートエアコンが3ゾーン式ではないことくらいだ。1.4TFSI Sportには写真のアトリウムクロス・スポーツシートが備わる。ホイールはSportが写真のYデザイン5スポークアルミ、1.4TFSIは16インチアルミが標準だ。

AVANT 1.4TFSI Sport


全長×全幅×全高:4735×1840×1435㎜


車両重量:1490㎏ 


エンジン:水冷直列4気筒1.4ℓターボ


最高出力:110kW(150㎰)/5000-6000rpm


最大トルク:250Nm(25.5㎏m )/1500-3500rpm


トランスミッション:7速DCT


価格:507万円

2.0TFSI quattro



2.0TFSI系グレードには3ゾーンオートエアコンや電動シートが標準装備となる。撮影車両はオプションのSラインパッケージを装着しており、専用ステアリングやスプリントクロス/レザーのシートが備わる。A4のラインナップでは最もパワフルな2.0ℓターボは252㎰、370Nmのパフォーマンスと15.5㎞/ℓの燃費を達成する。

2.0TFSI quattro


全長×全幅×全高:4735×1840×1435 ㎜ 


車両重量:1610㎏


エンジン:水冷直列4気筒2.0ℓターボ 


最高出力:185kW(252㎰)/5000-6000rpm


最大トルク:370Nm(37.7㎏m)/1600-4500rpm


トランスミッション:7速DCT 


価格:597万円
情報提供元: MotorFan
記事名:「 〈試乗記:アウディA4〉1.4TFSIと2.0TFSIクワトロ……それぞれの価値