ターボと比較してラグがないと言われる機械式スーパーチャージャー。その総本山ともいえる日本イートンを取材して知らされたのはラグ以前にスーパーチャージャーが内包する原理的メリットだった。


TEXT:三浦祥兒(Shoji MIURA) PHOTO&FIGURE:日本イートン/MFi

「ターボは排気をタダで回収利用するからトクだと思われているんですね……」




 ターボチャージャー(T/C)と機械式スーパーチャージャー(S/C)の利害得失について話題を向けたところ、セールスマネージャーの百瀬浩司さんから最初に返ってきた言葉は、自動車メーカーの過給機に対する固定観念であった。S/CにはS/Cのメリットが明確にあって、後述するように過渡領域の特性と実用燃費についてはターボより優れている部分もある。だが、自動車用過給機の趨勢は圧倒的にT/Cが多数であり、担当者レベルではS/Cのメリットを理解していても、企業としては「まずターボありき」ということになるのが現状だという。特に過給機に対するメーカーの要求は、目標とするトルクと出力を達成できるかというほぼ一点に向けられているそうで、


「T/Cで燃費が採れるか、S/Cで採れるか、という議論はほとんどされることはない」


と、エンジニアリングマネージャーの渋井康行さんは言った。




 S/CとT/Cのラグ(応答性)の比較を伺おうと出向いた我々であったが、そうであるならば、まず最初にS/CとT/Cの全般的な利害得失比較について、キチンと耳を傾けるべきだと感じたのだった。

日産の1.2リッター直噴スーパーチャージャーエンジン:HR12DDRエンジン

「S/Cは駆動力をクランク出力から得ているので、その分のロスは確かにあります。T/Cは排気エネルギーを利用しているので、直接的なロスはありません。まぁ、その排気エネルギーもエンジンから貰っているので、タダというわけではないんですが」




「T/Cで問題となるのは排圧です。ターボチャージャー部分で行く手をふさがれてしまうので、排気がスムーズに出て行かない。言い換えると、掃気が上手くいかないということです。これはエンジンの燃焼にとってはよいことではない。ダウンサイジングターボに使われる小さなT/Cでは余計排圧が上がります。そうして掃気が十分に行なわれなければ、回転の上がりも悪いですし、第一ノッキングの発生要因が自動的に増えてしまいます。エンジンそのものの効率を上げようとすると、T/Cは不利なんです」




 例を挙げると、マツダが採用している4-2-1集合の排気管は掃気に非常に有効だが、T/Cでは過給機に至るまでの経路が長くなってタービンを回すエネルギーをロスするためにこれを使うことができない。だから逆に一体型のエキマニで無理矢理T/Cまでの距離を短縮している。パワートレーン全体の効率はともかく、エンジン自体の効率をわざわざ落とす方向にしているわけだ。ところが、S/Cは排気には一切関与しないから、長い排気管で掃気を十分に行なうこともできる。掃気をキチンと行なえれば、点火時期はどんどん進められるので、エンジン本体のパワーも上げられる。メーカーがS/Cを正当に評価しない背景には、ターボエンジン前提で、エンジンの点火時期等をS/Cに最適化しないで比較することもあるのだそうだ。




 実は現在の過給エンジンは、普段の運転ではほとんど過給仕事をしていない。




「いまのターボ車に後付けのブースト計を付けたら、ほとんど針がプラス方向に動かない筈ですよ(百瀬氏)」




 T/Cならば常時アクチュエーターは開きっぱなしだし、S/Cもかなりの時間クラッチは切れている。そうした場合でもT/Cはある程度タービンに予回転を与えておかないと、いざ過給が必要な時にどうしてもレスポンス遅れがでる。予回転を付加するということは、過給しなくてもタービンが若干ではあるが抵抗になっているということだ。もちろんS/Cはクラッチを切ればそうした抵抗はない。




 もうひとつ、搭載要件で見ると、T/Cはまさに排気管と過給機との距離に制約がつきまとうが、S/Cはクランクの出力軸の平面上であれば、かなり搭載位置に自由度がある。V型エンジンなら、バンク角が90°ならバンク間に、60°ならクランク横にという選択も可能になる。

イートンのS/C・TVSのカットモデル。内部での空気の逆流は矢印で示した4ヵ所で発生し、そこから空気が逃げ、過給の効率が落ちてしまう。この部分のクリアランスをいかに詰めるかが、S/Cの性能を左右する。形状が複雑なのでコーティングはできないそうで、純粋に機械加工だけで圧力を保持する。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 機械式スーパーチャージャーの知られざる本質