姉妹車の日産デイズと同じく3月28日に四代目となった三菱の軽ワゴン・eKワゴン。そのエアロ仕様「eKカスタム」に代わり登場したクロスオーバーモデル、「eK X(クロス)」のターボエンジン搭載グレード「T」の4WD車に試乗した。今回はウェットコンディションの高速道路を中心に、日産肝いりの運転支援技術「プロパイロット」改め「マイパイロット」(MI-PILOT)の実力を試しながら、東京都・千葉県・神奈川県をドライブした。




REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) PHOTO●遠藤正賢、三菱自動車工業

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今年2月のマイナーチェンジで「ダイナミックシールド」を採用した三菱デリカD:5

 日産が新型デイズでも引き続きエアロ仕様の「ハイウェイスター」を設定するのに対し、三菱はデイズとの差別化を図るべく、同社が得意とするSUVのテイストを盛り込んだ「X」を設定したわけだが、そのデザインは一言で表現すれば「ミニ・デリカD:5」だ。




「ダイナミックシールド」と呼ばれるそのフロントマスクは、好き嫌いがハッキリ分かれるLove&Hate路線の極致とも言うべきもので、デリカD:5では背後につかれたら道を譲りたくなるほど押し出し感は強い。

「ダイナミックシールド」を採用したeK Xのフロントマスク

 だがeK XのそれはデリカD:5に対し大幅にスケールダウンされたことでアクの強さは薄れ、死語で恐縮ながら「ちびっこギャング」的な愛らしさを醸し出すようになっているのだから、不思議と言うより他にない。

eK Xプレミアムインテリアパッケージの運転席まわり

 インテリアは全車とも日産デイズと異なるシート表皮を用いているが、eK Xにメーカーオプション設定(5万4000円)されている合成皮革とファブリックの「プレミアムインテリアパッケージ」は、デイズハイウェイスター「プレミアムコンビネーションインテリア」との違いが最も顕著。

eK Xプレミアムインテリアパッケージのフロントシート。ブラックのファブリックは青と赤のストライプが入ったヘリンボーン柄
eK Xプレミアムインテリアパッケージのリヤシート。フロアにはサイドビューをあしらったロゴ入り「オールウェザーマット」を装着


 ブラウンに黒と青のストライプ入りでシックな装いのデイズに対し、eK Xはタンとブラックの2トーンでより明るくアクティブなテイストになっており、ここにもお家柄の違いが明確に現れている。




 なお今回のテスト車両には、eKワゴン/eK Xにのみ設定されている樹脂製・縁高タイプの「オールウェザーマット」(1万9785円)が装着されており、SUVテイストをより強く感じられるものとなっていた。

165/55R15 75Vのダンロップ・エナセーブEC300+を装着

 さて、肝心の走りはどうだろうか。テスト車両は165/55R15 75Vのダンロップ・エナセーブEC300+を装着していたが、それ以上の前回のデイズハイウェイスターと大きく異なるのはリヤサスペンション形式だ。FF車がトーションビーム式なのに対し、今回の4WD車はトルクアーム式3リンクリジッド。そして車重も60kg重い940kgとなっている。

4WD車のトルクアーム式3リンクリジッドリヤサスペンション

 これにより後輪荷重が増えたのに加え、リヤサスペンションのストロークが長くフリクションも少なくなっているからか、デイズのFF車で見られた細かな路面の凹凸を忠実に拾う傾向は確実に薄まっており、前回と同じく元町商店街の石畳路を低速で走行してもリヤの跳ねが少なく快適。またハンドリングについても、通常はほぼFFの状態で走るものの、前後重量バランスが改善されていることも功を奏し、安定性は確実に向上していた。

「マイパイロット」の単眼カメラ

 そして、今回のフルモデルチェンジで開発主体が三菱から日産に移った最大の要因とされている運転支援技術「マイパイロット」(「先進快適パッケージ」として7万200円のメーカーオプション)の出来はどうか。




 今回は首都高速道路・都心環状線外回りを一周して同台場線、湾岸線西行き、東京湾アクアラインを、強い雨が降りしきる中で走行したのだが、単眼カメラのみにセンシングを頼っているにもかかわらず、悪天候にもめげずに制御可能な状態を維持してくれた。




 ただし、明るい屋外から照明の乏しいトンネルに入った時やその逆ではACC(アダプティブクルーズコントロール)が、センターラインが薄い場所ではLKA(車線維持支援機能)が機能停止しやすいため油断は禁物だ。

「マイパイロット」の操作スイッチ

 肝心の車間および車線維持の制御だが、残念ながら前回デイズで試した時と傾向は全く同じ。ACCは、車間距離の設定を最も短い状態にしても多く取り過ぎるうえ、前走車がいなくなった際の再加速はタイミングが遅く、逆に前走車に追いついた際や割り込まれた際は制動開始が遅く、必然的に急ブレーキを踏んだ状態に近くなる。これは平坦な道ではさほどではないものの、上り下り問わず少しでも勾配がある道では顕著に表れることが今回確認できた。




 またLKAは、比較的明るくセンターラインがハッキリしている道では正確に車線中央をトレースするものの、少しでも条件が悪くなれば、中央どころか白線をはみ出さないよう制御するのも怪しくなる。




 有り体に言おう。マイパイロット…というよりプロパイロットは、現行セレナに初めて搭載された時から、全くと言っていいほど進化していない。周囲に並走車がおらず平坦で路面のコンディションも良い道を走るには有用だが、並走車が多く、傾斜があり、センターラインもハッキリしていない道で使用するのは、かえって危険ですらある。




 前方からの衝突を回避するのはブレーキやステアリングを手動操作すればよいだけの話だが、ACCが加速をもたつかせ、不必要な急ブレーキをかけるのは、後続車からの追突を招きかねない。今回のテスト中にも身の危険を感じることが度々あった。




 デイズハイウェイスターには「あおり運転対策にも有効」と日産が主張する「SOSコール」が設定されており、eK Xには用意されていないが、日産と三菱がそれ以上に優先すべきは、プロパイロット=マイパイロットの抜本的改善だろう。

デジタルルームミラー。写真はマルチアラウンドモニター使用時の画面

 なおeKには、デイズにない独自装備として「デジタルルームミラー」が「マルチアラウンドモニター」とセットで「先進安全パッケージ」としてメーカーオプション設定(9万1800円)されているが、これは今回のような雨天やトンネル内の走行が多い時、より広くクリアな後方視界を得るのに大いに役立つ。SOSコールともども、安全性向上に寄与する装備は独自設定とせず、積極的に共用化を図ってほしい。




 今回試乗したeK X Tの4WD車は車両本体価格が176万5800円。これにルーフレールやプレミアムインテリアパッケージ、先進安全/快適パッケージといったメーカーオプション24万3000円分と、9インチナビやオールウェザーマットなどのディーラーオプション30万7366円分が装着され、総計231万6166円に達する立派な「小さな高級車」となっていた。しかしながら、これがその価格に見合った、あるいはそれ以上の価値を備えているのは間違いない。だからこそ、マイパイロットの出来とSOSコールの未設定には不満が残る。今後の進化を心より期待している。

【Specifications】


<三菱eK X T(F-AWD・CVT)>


全長×全幅×全高:3395×1475×1640mm ホイールベース:2495mm 車両重量:920kg(テスト車両は940kg) エンジン形式:直列3気筒DOHCターボ 排気量:659cc ボア×ストローク:62.7×71.2mm 圧縮比:9.2 エンジン最高出力:47kW(64ps)/5600rpm エンジン最大トルク:100Nm(10.2kgm)/2400-4000rpm モーター最高出力:2kW(2.7ps)/1200rpm モーター最大トルク:40Nm(4.1kgm)/100rpm JC08モード燃費:22.8km/L WLTC総合モード燃費:16.8km/L 車両価格:176万5800円
三菱eK X T 4WD

情報提供元: MotorFan
記事名:「 【試乗記:新型三菱eK X(クロス)T・4WD】FF車に対するリヤサスと重量の違いが乗り心地とハンドリングに対しプラスに作用。お家芸のSUVテイストも愛らしいものに